公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

心理学ライフ

HAD開発について最近思ったこと

清水 裕士
関西学院大学社会学部 教授

清水 裕士(しみず ひろし)

Profile─清水 裕士
2008年,大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人間科学)。2018年より現職。専門は社会心理学。著書に『個人と集団のマルチレベル分析』(単著,ナカニシヤ出版)など。

心理学ワールド読者の方で,統計ソフトHADを知っている方はどれくらいいるでしょうか。知らない人もいるかと思うので簡単に紹介させていただくと,HADとはフリーの統計分析用プログラムで,心理学の卒論・修論レベルの分析法はだいたい実行することができます。大学教育でよく使っていただいていて,およそ130以上の大学で心理統計教育用に利用していただいています。また研究利用でも引用されていて,2026年1月現在,800を超える引用があります[1]。解説本もたくさん出ています[2]。HADについてのインタビューはたびたび答えていますが,今回はせっかくなのであまり言葉にしてこなかった,HAD開発に関する話を書こうと思います。

HADは博士後期課程から開発を始めたので,もう20年以上も経ちます。HADを一番開発していたのは学振PD[3]のときと広島大学で助教をしていたときでした。比較的時間があったので,統計の勉強を兼ねて機能を追加していました。昔からゲームを作るのが好きで誰かにそれを遊んでもらうのがとても楽しかったのです。HADを開発しつづけてきた感覚はその延長線上であった気がします。なんか楽しいものを作ったら,楽しんでほしいなと思うタイプなんです。あと,これは自分でも意外な発見だったんですが,インターフェイスについて結構こだわりがあります。いまのHADがみなさんにとって使いやすいものになっているかどうかはわかりませんが,できるだけ自分が使いやすいように工夫をしています。機能美みたいなものを追求するのが好きなようです。

HADの開発で大変だったことって,実はあまりありませんでした。むしろ,開発が楽しすぎて日夜HADのことを考えていたときもあったぐらいです。もちろん,バグの報告をいただくと若干ドキドキします。まぁそれも「無料で使ってもらっているし」という防御壁があるので「謝るのではなくて感謝を伝える」の精神を貫いていました。有料にすると謝らないといけなくなるのでたぶん続いてなかったと思いますね[4]。あと,HADファイルが壊れても新しいのをすぐダウンロードしてもらえればいいので,その点もサポートが必要なくて気楽です。

上にも書いたように多くの大学で心理統計教育に使っていただいているのですが,ちょっと前から思うようになったのは,「HADのせいで日本のRの普及が遅れたのでは?」ということです。幸い,Rユーザーも増えてきていますが,あまり他の分野で使われないソフトが広まるのはいいことなのかな,とか,ちょっと考えたことはあります[5]。あと,私も気づけば45歳(2026年1月現在)になり,ずっと属人的に所持しているのもよくないなとも思い始めてきました。なにかいいアイディアあれば教えてください。

最近思うのはAIの時代にHADはやっぱりちょっとおいていかれているなということです。日本語の資料しかないこと,心理学でしか使われていないことが原因だと思いますが,チャッピー[6]はHADに詳しくないですね。RやPythonについてはスラスラ教えてくれるのですが。余談ですが生成AIのハルシネーションのわかりやすい例として授業でも使うのが,「統計ソフトHADはなんの略ですか?」です。今日チャッピーに聞いてみたら「Hiroshi’s Amazing Dataです。学術用の硬い正式名称というより,開発者自身が親しみやすさを意識して付けた愛称に近い略称です」と教えてくれました。もちろん嘘です。

最後に,HADを研究・教育に使っていただいている先生方ありがとうございます。実は私が勝手に作った統計手法とか,マニュアルには書いていない地味に便利な機能が隠し機能のように入っています[7]。よかったら探してみてください。

文献

  • 1.ぶっちぎりで私の論文引用数1位です。
  • 2.たぶん5冊以上出版されています。
  • 3.日本学術振興会特別研究員PDという,日本の公的な機構から給料と研究費がもらえる研究員です。
  • 4.家族には「なぜ1人50円でもとらないんだ」と怒られたりはしました。
  • 5.うちのラボでは院生はHAD禁止です。
  • 6.ChatGPTの愛称です。
  • 7.「HAD 便利機能」で検索すると一応出てきます。

PDFをダウンロード

1