- HOME
- 刊行物のご案内
- 心理学ワールド
- 114号 〈言葉〉の心理学――進化・認知・行動・対話から解き明かす
- 休みながら働く?─ワーケーションという新しい働き方
【小特集】
休みながら働く?─ワーケーションという新しい働き方

白井 真理子(しらい まりこ)
Profile─白井 真理子
博士(心理学)。2021年より現職。専門は感情心理学。代表論文としてBeliefs about the positive functions of sadness. International Journal of Psychology, 60(4), e70068, 2025.
ワーケーションとは
「ちょっと軽井沢で休暇を過ごして,仕事をしてきます」。こんな言葉を聞いたら,多くの人は不思議に思うかもしれない。休暇と仕事は,一見相反するもののように思えるからだろう。しかし近年,この2つを組み合わせた新しい働き方である「ワーケーション」に注目が集まっている。では,ワーケーションとはどのようなものなのだろうか。
ワーケーション(workcation)とは,英語の「work(仕事)」と「vacation(休暇)」を組み合わせたアメリカ発祥の言葉であり,リモートワークの一種とされている[1]。フォルら[1]は,近年の研究レビューを行い,ワーケーションを「仕事と余暇・休暇の領域が融合した,場所にとらわれない柔軟な働き方」と定義している。
一方,日本で行われているワーケーションは,こうした欧米の定義とは少し意味合いが異なることが指摘されている。日本での事例をもとにした研究では,日本におけるワーケーションは「地域社会との深いつながりを通して,学び,内省,創造性を高めようとする」という側面が含まれるとされる[2]。一方,長田は,ワーケーションにおいて大切なのは,「社員が自発的に選択すること」であり,「非日常の場に,勤務時間中に,自発的に滞在して仕事・余暇を過ごすこと」をその特徴として挙げている[3]。
ワーケーションの効果
ワーケーションが私たちにどのような効果をもたらすのかについては,まだ研究の数は多くないものの,いくつかの肯定的な結果が報告されている。たとえば,心理的なストレスを軽減し,ポジティブな感情を高めること[4~6],仕事への関与を高めること[5]などが示されている。また,主観的な気分の変化だけでなく,身体の反応を測定した研究もある。たとえば,5日間のワーケーションを行った研究では,睡眠中の副交感神経系の活動が高まり,身体がよりリラックスした状態になる可能性が示唆されている[7]。
しかし,これまでの研究の多くは,ワーケーションを行う前と後を比較するものにとどまっていた。また,気分の変化と身体の反応を同時に測定しながら,ワーケーションの効果を検討した研究はほとんどなかった。さらに,通常の仕事をしている場合と比べて,ワーケーションがどのように異なるのかについても十分に検討されていなかった。
ワーケーションの導入に向けて
ワーケーションにはさまざまな肯定的な効果が期待されている。しかし,日本ではワーケーションの導入は十分に進んでいない。2022年の調査によれば,ワーケーションという言葉の認知度は66%に達していたものの,実際に導入している企業は5.3%にとどまっていた[8]。その理由の一つとして,企業の経営層や管理職がワーケーションの価値を十分に実感できていないことが考えられる。もし管理職自身がワーケーションを体験し,その効果を実感することができれば,企業における導入も進む可能性がある。
管理職を対象としたワーケーションの効果検証
こうした課題を踏まえ,今井らは,管理職20名を対象としてワーケーションの効果を検証する実証実験を行った[9]。この研究は,参加者が実際にワーケーションを体験し,そのときの心理状態と生理反応の両方を測定した。さらに一般的な仕事状況(統制条件)と比較することで,ワーケーションの効果をより多面的に明らかにすることを目的とした。
ワーケーションは,2022年10月下旬,長野県茅野市の東急リゾートホテルにて,2泊3日の短期間のプログラムとして行われた。心理反応は,ワーケーション参加1週間前(事前),ワーケーション当日(当日),ワーケーション参加1週間後(事後)の3時点で測定を行った。また,生理反応は,ワーケーションの2日間のうち,関連イベント参加後と,通常業務をホテルで行った後の2回を測定した。統制条件は,ワーケーションの条件と対応させ,原則業務終了後の反応を測定した(図1)。
心理反応:多面的感情尺度[10]の非活動的快・活動的快,気分調査票[11]など
生理反応:携帯型の心電図計測器(チェックミープロアドバンスBモデル)により5分間測定
測定時間:18時~20時
3時点すべてのデータが得られた26名(ワーケーション条件:14名,統制条件:12名)を対象に分析を行った。心理反応については,ワーケーションを行った条件は統制条件と比較して,明確な快感情の高まりを示した(図2)。活動的快得点(活気のあるなどの項目)は,ワーケーション条件においてのみ,当日の得点が事前・事後よりも有意に高かった。また,統制条件と比較して,ワーケーション条件において当日と事後の得点が有意に高かった。
非活動的快得点(のんびりしたなどの項目)は,ワーケーション条件においてのみ,当日の得点が事前・事後よりも有意に高かった。また,統制条件と比較して,ワーケーション条件は当日において得点が有意に高かった。この結果から,ワーケーションは活動性に関わる快感情を高めると同時に,休暇の要素を含んだ環境によってリラックス感も高めていた可能性がある。さらに,活動的快得点が1週間後まで高い水準にあったことは注目に値する。休暇には,ストレス解放効果があり,休暇中にはポジティブ感情が高まる。しかし,その効果は一時的であり,仕事に戻ると急速に減少することが示されている[12]。ワーケーションによるポジティブ気分向上効果が1週間後も持続していたことは,長期的にみれば,単に休暇を取得するよりも,ワーケーションを行うことによるメリットの方が大きいかもしれない。
一方,心拍数はワーケーション条件においてのみ,1日目の夜より,2日目の業務後の心拍数が上昇した。心拍数の結果だけから結論づけることは難しいが,心理反応の活動的快得点が高かった結果と併せて考えると,ワーケーションを行うことは,生理的活動を高めていた可能性が考えられる。
おわりに
ワーケーションの効果に関する研究は,十分に蓄積されているとはいえない。しかし,今回示されたような肯定的な効果が今後さらに明らかになれば,ストレスを軽減しながら働くことのできる新しい働き方として,ワーケーションはより広く受け入れられていくだろう。また,ワーケーションは有名な観光地に限らず,さまざまな地域で実施できるため,地域の活性化につながる可能性もある。あなたもまずは一度,ワーケーションを体験してみてはいかがだろうか。
文献
- 1.Voll , K. et al. (2023) World Leis J, 65, 150–174.
- 2.Yoshida, T. (2021) Ann Bus Adm Sci, 20, 19–32.
- 3.長田英知 (2021) ワーケーションの教科書 創造性と生産性を最大化する「新しい働き方」.KADOKAWA.
- 4.荒井菜穂美他 (2022) 日本緑化工学会誌, 48, 129–132.
- 5.Lee, J. et al. (2024) J Hosp Tour Manag, 59, 324–331.
- 6.宮本万理子・尾形和哉 (2023) 都市計画報告集, 22, 182–187.
- 7.Negoro, H & Kobayashi, R. (2022) Healthcare, 10, 2037.
- 8.国土交通省観光庁 (2022) 「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書.
- 9.Imai, A. et al. (2025) Psychol Rep. https://doi.org/10.1177/00332941251343546
- 10.寺崎正治他 (1992) 心理学研究, 62, 350–356.
- 11.坂野雄二他 (1994) 心身医学, 34, 629–636.
- 12.de Bloom, J. et al. (2009) J Occup Health, 51,13–25.
- *COI:本記事内の今井ら(Imai, A. et al., 2025)の研究は,東急不動産R&Dセンターとの共同研究として実施され,研究資金の提供を受けている。
PDFをダウンロード
1




