畑から広がる暮らし

小林 亮太(こばやし りょうた)
Profile─小林 亮太
2021 年,広島大学教育学研究科博士課程修了。博士(心理学)。専門は感情心理学,主に感情制御や内受容感覚をテーマに研究を行っている。
大学教員になって2年目の春,体験農園に参加する形で,家庭菜園を始めました。いつか畑をやりたいなと思いながら,学生時代は,下宿先のベランダでプランター栽培をしていました。ミニ白菜を育てたり,自家製カモミールをお茶にしたりしていましたので,念願叶ってといったところでしょうか。ちなみに,その白菜は収穫直前に鳥に食べられ,カモミールティーは驚くほど美味しくなかったです。
体験農園というのは,種の植え方から手入れ,収穫の方法などを教わりながら,野菜を育てることのできる施設です。私が参加していたのは,漁港の近くにある農園で,おおらかな園主さんのもと,のびのびと野菜づくりの基本を学びました。ここでの大きな学びは,ある程度雑にやっても野菜は育つこと,でもちゃんと世話をすると,その分,収穫の量も質も上がることだったと思います。
5年目になると,基本的な手順には慣れてくるのですが,1年目は暴風,2年目は大雨,3年目は酷暑,4年目は害虫,と毎年のように違う困難が発生します。今までで一番ショックだったのは,収穫の直前にとうもろこしをアライグマ(推定)に全て食い荒らされたことでしょうか。趣味だからまだネタにできていますが,こうしたトラブルを毎年のように越えられているプロ農家さんは本当にすごいと実感しています。
現在は,別の街に引っ越し,野菜づくりを継続しています。今年育てている野菜は,トマト,ナス,ピーマン,きゅうり,ゴーヤ,大根,ニンジン,ごぼう,キャベツ……とお店で見かけることの多い野菜はひと通り育てています。その時々の旬,そして採れたての野菜を楽しめるのは,やはり大きな魅力だと思っています。
家庭菜園を始めて気づいたこと,良かったことがいくつかあります。1つめは,研究以外に没頭できることが見つけられたことです。家庭菜園というと種まきや収穫がハイライトになるイメージですが,その間はひたすら雑草取りです。特に6月頃からは抜いても抜いても雑草が生えてきます。この雑草取りは一般に面倒とされがちなのですが,私にとっては没頭できる,心地よい作業です。やや誇張した表現ですが,以前流行した「ぷちぷち(緩衝材)潰し」の延長線上のような感覚というと少しは伝わるかもしれません。業務から頭を切り替えるのが難しいときでも,雑草取りにのめりこむという新たな感情制御方略が見つかりました。
2つめは,野菜のお裾分けをきっかけに交流が生まれたことです。収穫の盛りには自家消費できないくらいの野菜が収穫できるときがあります。そのまま土に戻してしまうのはもったいないということで,職場で「もらっていただけませんか」と声をかけて回ってみました。迷惑にならないかなと悩みながらではあったのですが,そのことをきっかけに話ができたり,お子さんが喜んでいたと教えていただけたりと,学内がより楽しい場所になったように感じています。
ある若手研究者の集まりで,家庭菜園をやっていると自己紹介したときに,研究畑から本物の畑に行ったんですね,とコメントをいただいて笑ったことがあります。プロ農家さんのすごさに接する機会がありますので,両方の道を究めたいとは思っていませんが,自分なりに楽しく続けていければと思っています。生活も少しずつ自分の手で耕しながら,やがては食だけでなく衣や住にも根を伸ばしていけたら,などと夢見ています。
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