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ボドゲ教材「DAIGAKU」の開発

萩原 広道(はぎはら ひろみち)
Profile─萩原 広道
博士(人間・環境学)。作業療法士,公認心理師。2025年より現職。専門は発達認知科学,発達心理学。
大学生活は,必ずしも思い描いた通りには進みません。むしろ,予想外の出来事に翻弄されながらその度に選択を重ねていった結果,思わぬところに着地するものだと言えそうです。そんな現実をゲームとして再現しようと試みたのが,ボードゲーム型教材「DAIGAKU~いばら色のキャンパスライフ」です。
DAIGAKUは,現役大学生と大学教職員が共同で開発したものです。プレイヤーは大学生となり,学業やアルバイト,課外活動などに取り組みながら生活全体の充実化を図ります。ところが,その中で多種多様なハプニングに見舞われます。「単位を落とす」「バイトで昇給する」など個人規模の出来事から,「感染症の流行」「大学統合」など社会規模の出来事まで,その内容は千差万別です。これらに対応しながら軌道修正を繰り返しつつ遊ぶ点に,ゲームの特徴があります。
重要なのは,充実した学生生活に至る道が一つではないことです。勉学に打ち込むのか,趣味や人間関係を優先するのか,その選択は状況によって変化します。ゲームを通じて,プレイヤーは学生生活の多様な在り方に触れることになります。DAIGAKUは現在,単なる娯楽にとどまらず,オープンキャンパスや教職員研修などでも活用されています。
開発の過程で,私自身もプロジェクトに対する関心や立場は大きく変わりました。それこそさまざまな偶然と選択を経て,本稿執筆という思わぬ結果に至っています。開発を始めた2017年,私はまだ大学院生でしたし,プロジェクトに参画する動機も,専門である発達研究とは別のところにありました。その後,専門研究に専念せざるを得なくなり,ゲーム開発は実質的に中断。大阪大学に着任し,初年次ゼミの中で学部生と開発を再開したのが2023年です。この頃から,私は「心理学分野の教員」としてこのプロジェクトに携わるようになりました。
そのため,ゲーム開発において,最初から心理学の知識を意識的に活用していたわけではありません。ただ,「発達に唯一の正解はない」「個人が直面する問題は構造的な問題とつながっている」といった発想は,結果的にゲームの設計に反映されています。また,試作と改良を繰り返す過程や,「学生生活」という何とも曖昧な現象をモデル化しようとする姿勢には,研究者としての思考が確かに活きていたように感じます。
とはいえ,このプロジェクトで心理学が「ここでも活きてる」と明確に言えるようになるかは,むしろ今後の展開次第かもしれません。教育学などの分野では,シリアスゲーム,ゲーミフィケーション,エデュテインメントなどのキーワードで研究が進んでいますし,心理学でも応用・臨床的な文脈ではゲームの価値が見直されています。しかし,心理学の理論や基礎研究とボードゲーム開発がどう接続するのかという問いは,まだ十分には開拓されていないのではないかと思います。
この点を巡って,現在は他の心理学者とも議論を始めています。DAIGAKUへの見方・関わり方が私自身の中で変化してきた経験が,心理学研究の対象としてのゲームの位置づけに再解釈の余地を広げてくれるのではないかと期待しています。
ちなみに,開発に携わった学部生たちは,2026年度で4年生になりました。1年生のときに見ていたDAIGAKUと,今の彼らが見るDAIGAKUは,どのように異なっているのでしょうか。あるいは,変わらない部分もあるのでしょうか。その問い自体が,このゲームと心理学の関係を考える上で新たな手がかりをくれるような気がします。
文献
- *COI:本記事執筆に際し,『DAIGAKU』の販売元であるクリエイツかもがわは一切関与していません
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