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「合う会社」とは何か─個人-組織適合を捉え直す

宮川 祥子(みやがわ しょうこ)
Profile─宮川 祥子
お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科博士前期課程修了。修士(学術)。専門は産業・組織心理学。一般社団法人HR Buddy研究所主任研究員を兼任。
「合う会社」という曖昧さ
「自分に合う会社を選ぶことが大事だ」とよく言われる。では,そもそも「合う」とは何を意味するのだろうか。価値観が近いこと? 働き方のスタイルが似ていること? 職場の雰囲気に馴染めること? 直感的には理解できるこの言葉も,よく考えてみると中身は曖昧である。
心理学では,この「合う感覚」を「個人-組織適合(person-organization fit)」として概念化してきた。適合が高い人ほど仕事に満足し,離職しにくく,幸福感も高いことは,多くの研究で示されている[1]。しかし,従来の研究の多くは,「自分と組織が合っているかどうか」を問う主観的な方法で適合をまるごと測ってきた。そのため「適合が大事であること」はわかっても,「何がどう適合していれば良いのか?」という問いには十分に答えられていなかった。つまり,適合の「中身」については,明確な理解が得られていないままだったのである。
適合は何からできているのか
本来,適合は単一のものではなく,複数の側面から構成される概念である。例えば,基本的な価値観の一致,組織風土との一致,規範や目標の共有,さらには仕事における要求と供給のバランスなど,多様な要素が含まれる[2]。こうした複数の側面を統合的に測定することで,適合をより精緻に捉えることができると考えられる。
そこで筆者は,日本の正規労働者を対象に調査を行い[3],一部の先行研究[4]で用いられてきた,差(ズレ)に着目する手法に基づき,個人の志向と組織の特徴を別々に測定した。そのうえで,価値観や組織風土,規範や目標といった多様な側面を構成する項目を幅広く作成し,取り入れることで,適合の構造をより包括的に捉えることを試みた。たとえば「熱意をもって働ける環境である」という項目について,「自分はそれを重視するか」と「自分の組織の特徴としてそうか」を別々に回答してもらい,その差を適合の指標とした。これにより差の絶対値から全体的な適合の良さを見ることができ,さらに個別の項目単位ではどのような側面での適合が働くうえでの満足感や幸福感,離職意図と関連するかを検討できるようになる。分析の結果,先行研究と一致して,適合状態であることは職務満足や幸福感,離職意図といったアウトカムに望ましい効果を持つことが明らかとなった。さらに,適合はその側面ごとに異なる機能を持つことも示された。特に効果が大きかったのは,成長機会や働き方の柔軟性,あるいは組織の規範での適合であり,これらの適合の高さが働く上でのウェルビーイングに寄与することが示された。
適合を「どう活かすか」へ
このように適合を多面的に捉えることは,実践的にも重要な意味を持つ。目下のところ,個人の立場からすれば,「合う会社」を探すことは,自分にとってどの側面が重要であるのかという志向の優先順位を把握し,それを手がかりに意思決定を行うことと言える。こうした視点を持つことで,「なんとなく合う」ではなく,「どの点で自分に合っているのか」をより具体的に捉えることができるようになるだろう。一方で組織にとっては,自組織でどのような特徴のある職場環境を整えるべきか,あるいはどのような志向を持つ人材を採用し,どこに配置すべきかといった判断に活かすことができるだろう。
さらに,適合は所与のものではなく,個人と組織の相互作用の中で再形成されるものである。例えば,入社後の研修や上司・同僚との日々のやりとりを通じて組織の理解が深まることで,適合は変化し最適化されていくだろう。今後の研究では,適合の中でも比較的変化しやすい側面とそうでない側面を明らかにすることで,適合を再形成する研修や支援の設計に繋げていきたい。このように適合を捉え直すことは,個人と組織のより良い関係を考えるうえで,一つの手がかりになると筆者は考えている。
文献
- 1.Oh, I.-S. et al, (2014) Pers Psychol, 67(1), 99–152.
- 2.Kristof, A. L. (1996) Pers Psychol, 49(1), 1–49.
- 3.宮川祥子・伊藤大幸 (2023) 産業・組織心理学会第38回大会.
- 4.Vigoda, E., & Cohen, A. (2002) J Bus Res, 55(4), 311–324.
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