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【特集】

軽蔑─他者を軽んじ,見下す感情

福田 哲也
流通科学大学人間社会学部 准教授

福田 哲也(ふくだ てつや)

Profile─福田 哲也
2015年,広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了。博士(心理学)。聖カタリナ大学人間健康福祉学部専任講師,流通科学大学人間社会学部専任講師などを経て2024年より現職。専門は感情心理学,社会心理学,パーソナリティ心理学。著書に『要説パーソナリティ心理学:性格理解への扉』(分担執筆,ナカニシヤ出版)など。

はじめに

例えば,あなたの周囲に以下のような人がいると想像してみてほしい。「誰もが知っているような簡単な言葉を知らず,仕事などでミスが多い。また約束を守らず,途中で仕事を投げ出して責任を果たそうとしない。こうしたことについて何度指摘されても同じことを繰り返し,改善される様子がない。」このような人物に対して,あなたはどのような感情を抱くだろうか。嫌悪や怒りの感情を抱くかもしれない。そしてこのようなときにそれらとともに生じうる感情の一つに軽蔑(contempt)が挙げられる。

軽蔑は,嫌悪や怒りに比べると,日常生活の中で意識されにくい感情である。どの感情が意識されやすいのかについて,200人の研究参加者を対象に,感情を表す言葉をできるだけ多く回答するよう求めた研究[1]では,怒りや嫌悪ほど軽蔑は回答されず,軽蔑を挙げた参加者は2人,つまり全参加者の1%のみであった。ただし,感情として意識されにくいからといって日常生活の中で経験されないわけではない。軽蔑は多くの人が経験する感情であり,日常生活において大きな影響力を持っている。次節からは軽蔑の特徴について紹介し,そのうえで軽蔑との付き合い方を考えていきたい。

軽蔑とはどのような感情か

軽蔑という感情を特徴づける重要な点は3つある[2, 3]。第一に,対人的な感情という点である。第二に,自己の優越性および他者の劣位性の感覚が伴っている点である。第三に,他者への否定的な評価を伴っている点である。軽蔑は,他者に対する否定的な感情という点が怒りや嫌悪と共通しているが,自分と他者との社会的な比較が関わる点が,それらとは異なる独自の特徴であろう。また軽蔑は基本的に自分に対してではなく,他者へ向けられる感情である。このこともまた,嫌悪や怒りとは異なる軽蔑の特徴だと考えられる。

図1 痛み駆動双数妬み理論の概略(文献3および文献5に基づき作成)
図1 軽蔑の典型的表情
(画像は文献4の特徴に基づき,ChatGPTによって作成)

また,軽蔑には対応する典型的な表情がある。軽蔑の典型的表情の特徴は,口を開けずに唇の片側(口角)を少し引き上げたものである[4](図1)。そのため,軽蔑を経験した際には,こうした表情を示しているかもしれない。また,他者がこうした表情を示していることから自身が軽蔑されていると感じたことがあるかもしれない。

それでは,何がきっかけとなって人は軽蔑を感じるに至るのだろうか。人が軽蔑を感じるまでには,他者の行為と,その行為をとった他者に対する捉え方が関わっている。

軽蔑は,他者による道徳から逸脱した行為[2](例えば,約束を守らない,自分の責任を放棄する,など)や,有能でない愚かしい行為[5](例えば,誰もが知っているような簡単な言葉を知らない,仕事においてミスが多い,など)がきっかけとなって生じやすいことが示されてきた。ただし,それぞれの行為に対して生じる軽蔑の強さには違いがあり,有能でない愚かしい行為に比べて,道徳から逸脱した行為に対してより強く軽蔑が生じる[5, 6]。また,それぞれの特徴である道徳的な逸脱と有能でない愚かしさがどちらも含まれる行為(例えば,差別的な発言をする,違法行為をSNSにアップロードする,など)においても軽蔑が生じることが示されている[6]。

さらにこうした行為をとった人物に対して,行為の原因がその人物自身にある(その人物は元々そういうことをする人物だ)と捉えること,その人物を変えることが難しい,または変えようとする価値がない(その人物を変えることが自分にとって難しい,または労力を払う価値がない)と捉えることで,軽蔑が生じる[7]。

これらから,他者が道徳的に逸脱した行為や有能性の欠如した愚かな行為をとったとき,相手がそうした行為をとるような人物であり,自分には変えることができない・変えようとする価値がないと捉えることで軽蔑は生じるとまとめることができる(図2)。一方で,他者が同様の行為をとったとしても,その原因が偶然や第三者などその人物以外にあると捉えると軽蔑は生じにくい。

図2 軽蔑の生起から行動に至るまでの一連の過程
図2 軽蔑の生起から行動に至るまでの一連の過程

またこうした点から,関係性によって軽蔑の生じやすさが異なる[7]。自分の親しい相手や距離の近い相手には自分が働きかけて変えることができるため,比較的軽蔑は生じにくい。一方,見知らぬ相手や距離が遠い相手には働きかけて変えることが困難であるため,比較的軽蔑は生じやすい。

軽蔑がもたらすもの

軽蔑に限らず,感情は生じることで人に特定の行動を促す役割を持っている。軽蔑がどのような行動を促すのかは,主に怒りとの比較を通して検討がなされてきた[7, 8]。怒りが攻撃行動など相手に近づいて働きかける行動を促しやすいのに対して,軽蔑は相手から離れる・距離をとるといった回避的な行動を促しやすい(図2)。さらに,その回避的な行動は,相手を無視したり,仲間外れにしたりするといった行動として現れることもある。「言われるうちが花」という言葉はこうした軽蔑の特徴から理解することができるだろう。ミスや良くないことをした人物に対する注意や叱責といった行動は相手を変えるための働きかけである。しかし,何度注意や叱責を行ってもそれらがなくならなかったり,改善したりしない場合はどうであろうか。その人物を変えることができない,あるいは変えようとする価値もないと捉えるようになり,軽蔑が生じることで,そもそも注意や叱責といった相手に働きかける行動は生じにくくなり,相手から距離をとるようになると考えられる。

軽蔑感情を感じやすい人・感じにくい人

ここまでは,ある場面においてどのように軽蔑が生じ,どのような行動につながるのかを紹介してきた。そのためこれらは一時的な感情状態としての軽蔑の特徴と言い換えられる。感情には,ある場面で生じる一時的な状態としての側面のほか,普段どれくらいその感情を感じやすいのか,あるいは感じにくいのかという個人による違いという側面もある。これらは個人のパーソナリティ(性格)傾向として扱われる。そして軽蔑に関してもその感じやすさを反映するパーソナリティ傾向が指摘されている。

軽蔑の感じやすさを示すパーソナリティ傾向として軽蔑傾向(dispositional contempt)が挙げられる[9]。軽蔑傾向は,「自らの基準や価値観に反する他者を見下し,冷たく接し,貶めたり距離をとったりする傾向」[10]と定義され,前節までに紹介してきた他者に対する捉え方・感情の特徴・行動傾向を包括的に含むパーソナリティ傾向と捉えられる。

他のパーソナリティ傾向との関連から,軽蔑傾向の高い人物は,協調性が低いこと,利己性や感情の希薄さに特徴づけられるサイコパシー傾向が高いこと,他者の操作・利用に特徴づけられるマキャベリアニズム傾向が高いことが示されている[9]。また,社会に対する態度にも特徴があり,軽蔑傾向の高い人物は,集団間の格差・階層性を肯定的に捉えやすい社会的支配志向性が高いこと,人種差別的な態度を持ちやすいことが示されている[9]。総じて軽蔑傾向の高い人物は,他者との良好な関係を築きにくい特徴を持っていると言い換えられるだろう。

日常生活における軽蔑の機能

これまでに紹介してきた内容から,軽蔑は対人関係の悪化や断絶,あるいは無視や仲間外れなど他者を傷つけるリスクを持った感情だといえる。このような特徴を持つため,読者の中には,「軽蔑は感じるべきではない」,「なぜそんな感情を感じる必要があるのか」と考えた人もいるかもしれない。

感情は,人々の生存や社会生活において何らかの機能を果たすために備わっているという考え方がある。例えば,嫌悪は不衛生なものに対して感じることで病原体から身を守る行動を引き起こしうる。また,怒りは自身の自由や権利を侵害した相手に感じることで相手に立ち向かい,それらを守ることにつながりうる。これらと同様に,軽蔑にも日常生活に関わる機能があることが指摘されている。

フィッシャー(Agneta Fischer)とギナー゠ソロージャ(Roger Giner-Sorolla)は,軽蔑の機能を連合機能・自己制御機能・社会的距離機能という3つに整理している[11](図3)。以下ではこれらを紹介する。これまでに軽蔑を感じた経験があれば,その経験を思い出しながら読んでみてほしい(ただしその経験がとても不快なものであれば,無理に思い出す必要はない)。

図3 軽蔑が持つ機能(文献11より筆者作成)
図3 軽蔑が持つ機能(文献11より筆者作成)

1つ目の連合機能とは,これまでに軽蔑を感じたことのある人物や集団と軽蔑を結び付けておき,後にそうした相手や集団と関わる機会があった際に,迅速に対応できるようにするものである。特定の人物や集団を見たり,その人たちのことを考えたりした際に軽蔑という感情が生じることもあるだろう。これが人物や集団と軽蔑が結び付いているということである。先述したように,軽蔑はある人物や集団が,何らかの道徳的な違反や愚かな振る舞いをしたとき,その振る舞いの原因はその人物や集団自身にあると捉えることで生じる。そうした人や集団,あるいは類似した特徴を持った人や集団と軽蔑が結び付いていれば,今後それらと関わる場合に「同じような振る舞いをするかもしれない人だ」と素早く判断し,対応ができるだろう。

2つ目の自己制御機能とは,軽蔑を感じることで自身を落ち着かせる機能である。軽蔑を感じている相手や集団に対しては,人は冷ややかに捉えるようになる。もしその対象に怒りを感じている場合は,これとは逆に頭に血が昇ったような,熱い状態になって対象に働きかけようとするため「カッとなって,つい」というように攻撃的な行動につながる場合がある。これに対して軽蔑の場合は,相手を変えることができない,あるいは相手を変えようとする価値はない,と捉えているため,相手に働きかけようとしない。そのため,軽蔑を感じているときは,相対的に落ち着いた状態になりやすく,結果的に冷静な対応につながりやすい。

3つ目の社会的距離機能とは,軽蔑の対象と適切な距離を作るという機能である。軽蔑を感じると,その相手に対しては働きかけるのではなく,離れたり,関係を絶ったりするように動機づけられる。先に述べたように,軽蔑は,道徳的な違反や愚かな行為など,社会的に望ましくない行動をとった対象に,「そういう人(たち)だからだ」,「この人(たち)は変わらない」と捉えることで生じやすい。そういった人物や集団は今後も同じような行動をとると捉えられるため,近くにいることで,自身が不快な経験をしたり,不利益が生じたりすることも考えられる。軽蔑の対象から離れるなどして,適切な距離をとることは,そうした事態を避けることにもつながりうる。

ここで紹介してきた3つの機能から,軽蔑という感情は,日常生活で出会う社会的に望ましくない相手や集団に備えたり,自分自身を守ったりする機能を持っているとまとめることができるだろう。そのため,軽蔑は確かに他者を傷つけるリスクを持った感情ではあるものの,単純に悪い感情というわけではなく,感じることで日常生活におけるリスクの低減に役立ちうる感情ともいえるだろう。

結びに:軽蔑との付き合い方

これまでに紹介してきた軽蔑の特徴を踏まえて,その付き合い方について考えていきたい。軽蔑の機能の箇所で述べたように,軽蔑は一概に悪い感情ではなく,それを感じること自体が,自身にその相手や集団が望ましくない可能性を伝え,離れた方がよさそうだ,と警告するような機能を持っている。そのため感じない方がよい感情ではないだろう。ただし,普段の生活においては学校や職場など距離をとることができない環境において特定の誰かに軽蔑を感じることもある。そうした環境内で他者に軽蔑を感じ,相手を無視したり仲間外れにしたりするとその相手を傷つけるだけでなく,周囲の人たちから「相手を傷つけるような行動をとる人だ」という印象を持たれ,軽蔑を感じた相手以外との人間関係にも影響が及ぶ可能性がある。そのため,軽蔑を感じること自体を抑えたり,なくしたりする必要はないものの,その感情に基づいてどのように行動するのかは慎重に考える必要があるだろう。

また学校や職場といった環境において,自身が他者に軽蔑を感じることがあるように,他者もまた自身に対して軽蔑を感じることがある。そのため自身が他者に抱く軽蔑だけでなく,他者から向けられる軽蔑との付き合い方も考える必要がある。他者に軽蔑されていると感じることはつらいことであり,その相手から無視や仲間外れにされてしまう可能性も生じる。それではどのように他者の軽蔑と付き合えばよいのだろうか。先に述べたように,軽蔑は,社会的に望ましくない行動をとった人物に対し,その人物は「そうした行動をとる人であり,それは変わることがない」と捉えたときに生じやすい。そのため,まずは社会的に望ましくない行動をとらないようにすることでそもそも軽蔑を向けられる可能性を低められるかもしれない。あるいは,仮にそうした行動をとったとしても他者からの働きかけを受け入れるなど改善しようとする姿勢を示すこと,自分は変わっていける人間であると周囲に示すことで,向けられた軽蔑を弱めたりできるかもしれない。

生じた軽蔑を無理になくしたり,抑えたりする必要はないだろう。しかし,相手を「変わらない人だ」と決めつけず,自分の見方が変わる可能性や,相手が変わる可能性を残しておくことは大切である。そのように考えていれば,必要に応じて相手に働きかけることもできるだろう。同様に,自分が他者から軽蔑を向けられているかもしれないと感じたときも,相手の意見を受け入れるなど「自分は変わることができる」ということを行動で示していくことが重要であろう。このように,自分や相手を見直す余地・見直される余地を残しておくことが,軽蔑とのより良い付き合い方なのかもしれない。

文献

  • 1.Fehr, B., & Russell, J. A. (1984) J Exp Psychol Gen, 113, 464–486.
  • 2.Rozin, P. et al. (1999) J Pers Soc Psychol, 76, 574–586.
  • 3.Wagner, H. L. (2000) Cogn Emot, 14, 689–710.
  • 4.Ekman, P., & Friesen, W. V. (1986) Motiv Emot, 10, 159–168.
  • 5.Hutcherson, C. A., & Gross, J. J. (2011) J Pers Soc Psychol, 100, 719–737.
  • 6.福田哲也・蔵永瞳 (2021) 感情心理学研究, 28, 57–66.
  • 7.Fischer, A. H., & Roseman, I. J. (2007) J Pers Soc Psychol, 93, 103–115.
  • 8.Ufkes, E. G. et al. (2012) Group Process Intergroup Relat, 15, 57–74.
  • 9.Schriber, R. A. et al. (2017) J Pers Soc Psychol, 113, 280–309.
  • 10.前掲9, p.282.
  • 11.Fischer, A., & Giner-Sorolla, R. (2016) Emot Rev, 8, 346–357.
  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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