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誌上公開講座

マーモセットとヒトを比較する

山﨑 由美子
新潟医療福祉大学心理・福祉学部心理健康学科 教授

山﨑 由美子(やまざき ゆみこ)

Profile─山﨑 由美子
慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻後期博士課程単位取得退学。博士(心理学)。専門は実験心理学,比較認知神経科学。2024年より現職。著書に『マーモセットラボマニュアル:はじめての取扱いから研究最前線まで』(分担執筆,アドスリー)など。

皆さんはマーモセット(本稿ではコモンマーモセットCallithrix jacchusを指します)という動物をご存じでしょうか。念のため,齧歯目(げっしもく)リス科に属し,山岳地帯に住んでいる「マーモット」とは別物です。マーモセットはヒトと同じ霊長目に属し,ブラジル北東部の比較的乾いた地域が原産地です。図1はブラジルで撮影した野生個体です。ご覧の通り,左右の耳を覆う白い房毛と,しましまの長い尾が特徴です。ヒトのみならず,同じ霊長目のニホンザルやチンパンジーともだいぶ違う見た目です。日本の私たちからはさまざまな点で身近に感じられないサルかもしれません。しかし,マーモセットは現在,ヒトのモデルとなる実験動物として医学,生物学,神経科学,心理学など,さまざまな研究分野での利用が進められています[1]。この誌上公開講座では,マーモセットがどのような動物かをご紹介し,行動的にヒトと似ているところがあるのかどうか,という点に絞って,お話しようと思います。

図1 野生のコモンマーモセット(筆者撮影)
図1 野生のコモンマーモセット(筆者撮影)

マーモセットの特徴

マーモセットは新世界ザルの仲間で,ヒトやニホンザルが含まれる旧世界ザルのグループとは4000万年以上も前に分岐しました。野生成体の体重は約300g前後,昼行性で,樹上生活を営み,鉤爪(かぎづめ)を使って,樹の幹の周りを自由に動き回ることができます。家族単位で群れを作り,日中はそのテリトリーの中を移動し,食べたり,休んだりを繰り返します。群れは繁殖を行うつがいと,その子供たちから成ります。繁殖メスは一度に2頭を出産し,1年に4頭の仔を産むことも可能です。

マーモセットの生態で特徴的なことの一つは樹液食です。鉤爪で樹の幹に体を安定させ,強い顎(あご)と歯で樹皮を傷つけ,出てきた樹液を舐め取ります。こうして得られた樹液は,盲腸などの腸管内で腸内細菌によって発酵され,マーモセットはその代謝物を利用しています。樹液は安定した食物源になるため,マーモセットのテリトリーには樹液を出す樹がいくつか含まれています。腸管全体(小腸+大腸)の長さに対する盲腸の割合は,ヒトでは0.8%なのに対してマーモセットでは4%と,相対的にかなり長いと言えます。マーモセットの特徴的な解剖学的構造である鉤爪,歯,腸管は,樹液食を最適化するために進化,維持されてきたと考えられます。

マーモセットとヒトの行動を比べる

このように,マーモセットは進化の過程で,私たちヒトとは全く異なる道筋をたどり,現在の姿形,生態を獲得するに至ったことがわかります。そのため,マーモセットとヒトの行動はあまり似ていないのでは,と想像するかもしれません。しかし,実際には逆で,いくつかの,特に社会性の面で重要な特徴が共有されています。

それは,マーモセットの飼育室に入るとすぐにわかります。入室したとき,餌の用意ができたとき,大きな音を立ててしまったときなど,さまざまなタイミングでさまざまな声をかけられます。室内の個体同士も頻繁に鳴き交わしています。マーモセットは,例えば相手との距離(遠いか近いかなど),情動状態(恐怖や興奮など),伝達すべき情報(餌の存在,捕食者の脅威など)に応じて,少なくとも10以上の異なるタイプの発声をします[2]。続いて,マーモセットの顔や体を見てみましょう。マーモセットはニホンザルなどとは異なり,頻繁にヒトと目を合わせます。首をかしげたり,細目で見られたり,尾を上げて肛門を見せられたりするかもしれません。これらはマーモセットが他個体に対し,興味や情動状態を伝えるために見せる表情やジェスチャーです[3]。また,他個体の動きを見て模倣をし,新しい行動を学習することもできます[4]。このように,マーモセットは私たちヒトと同様に,多種多様な聴覚刺激と視覚刺激を作り出したり,理解したりして,社会の中で生きています。

マーモセットの社会性の特徴は,協力などの利他行動という形にも表れています。彼らは食物を分かち合う「食物共有」をします。食物を取られても寛容にする消極的なものだけでなく,野生環境下では手渡しで食物を与えるような積極的食物共有も観察されています。他にも,自分に利益がなくても相手が食べられるように協力したり[5],赤ちゃんが困っていたら助けたりする行動が[6],野生でも飼育下でも,血縁関係のない相手に対しても,報告されています。このような行動は,ヒトのさまざまな利他行動─ボランティア活動や寄付など─を想起させますが,霊長類の中でもきわめてめずらしいことです。

マーモセットを通してヒトを学ぶ

見た目も由来も大きく違うマーモセットとヒトは,なぜ行動的特徴を共有しているのでしょうか。食物共有の目的には,野生の過酷な環境下で幼弱な個体の生存を助けるという重要な側面があります。野生個体が分布する地域では,乾季に食物が乏しくなることが少なくありません。樹液はそのような場合にも頼れる食物源で,家族皆で食べることができます。まだうまく樹皮をかじれない若い個体でも,年長の個体が出した樹液をもらうことができます。このようにして,マーモセットは次々に生まれてくる新生児を,群れ全体で育てる「共同養育」を行います。ヒトの新生児も未熟な状態で生まれて,複数の人からのサポートを受けながら長い時間をかけて成長します。この,共同養育の必要性が,マーモセットとヒトに共通する社会行動の基盤になっているのかもしれません。ヒトの “超” 協力的な行動の起源であると主張する研究者もいます[7]。

以上のように,マーモセットの行動は,ヒトの行動の特殊性を考える上で重要な視点を与えてくれています。その背景をたどると,ヒトが共有しない樹液食の特徴と結びつくのが面白いところだと思います。協力や利他行動はヒトらしさを探る上で大きなテーマの一つですが,未解明の点が多く残されています。マーモセットはそのような研究においても,重要なピースとなる証拠を与えてくれるかもしれません。

文献

  • 1.山﨑由美子(2025)生物の科学 遺伝, 79(3), 192–197.
  • 2.Agamaite, J. A. et al. (2015) J Acoust Soc Am, 138, 2906–2928.
  • 3.de Boer, R. A. et al. (2013) Am J Primatol, 75, 1084–1095.
  • 4.Voelkl, B., & Huber, L. (2000) Anim Behav, 60, 195–202.
  • 5.Burkart, J. M. et al. (2007) Proc Natl Acad Sci, 104, 19762–19766.
  • 6.Huang, J. et al. (2020) Curr Biol, 30, 4047-4055.e3.
  • 7.Burkart, J. M. et al. (2014) Nat Commun, 5, 4747.

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