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ここでも活きてる心理学

心理学で,お金の悩みに向き合う

FP ignition 代表

沖中 武(おきなか たける)

Profile─沖中 武
2013年,関西学院大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(心理学)。専門は行動分析学。公認心理師,1級FP技能士。兵庫県警察本部刑事部科学捜査研究所での勤務を経て,2024年より現職。著書に『なるほど!心理学観察法』(分担執筆,北大路書房),『行動分析学事典』(分担執筆,丸善出版)など。

沖中 武

本企画への寄稿は,今回で二度目になります。2015年に「科捜研で働く」というタイトルで執筆させていただきました(本誌68号)。

現在はファイナンシャルプランナー(以下,FP)として,特定の金融機関に所属せず,金融商品や保険商品を販売しない立場で,相談や執筆,講演を行っています。一見,心理学とは接点の少ない仕事に思われるかもしれません。しかし,特に相談業務では,心理学を学んだからこそ活かせる場面があることを実感しています。FPとしての活動の中で,心理学がどのように活きているか,活かせるかをご紹介したいと思います。

FPの仕事の一つに相談業務があります。これは,家計管理や住宅購入,教育費,老後資金など,お金にまつわる相談を通じて,クライアントが理想とする人生を実現できるよう支援する仕事です。FPの相談業務では,個別の課題に関する具体的な相談だけでなく,クライアントが理想とするライフプランを考える上で関係するお金の計画について,シミュレーションを行う形で支援する場合もあります。いずれの場合においても,クライアントがどのような人生を望み,どのような背景のもとで意思決定をしているのかを理解することが欠かせません。そのためには,個人の価値観や生活環境,家族を含む他者との関係など,さまざまな要素について把握する必要があります。人の考え方や意思決定を,その背景にある事情や環境と結びつけて理解しようとする視点は,心理学を学ぶことで身についたと思っており,そうした視点はこれらの業務を行う上で活かせると感じています。

お金にまつわる悩みを解消するために必要な行動の変容についても,私の専門である行動分析学の視点から考えることができると感じています。行動分析学では,個体と環境との相互作用に着目し,行動がどのような環境のもとで生じ,維持されているのかを考えます。お金の問題は,正しい知識や計算だけで解決できるものではありません。家計管理や資産形成のための知識を得て,その実行の必要性まで理解していても,始めること,続けることが容易ではない場合があります。そうした場合に,その時々で最適と考えられる行動を始めやすい環境,その行動が続きやすい環境を整える方法を考えるという視点を活かすことができると感じています。また,お金にまつわる悩みは,NISAを始めるべきか,保険に加入すべきか,住まいは購入か賃貸かなど多く存在しますが,こうした悩みに対して,誰にでも当てはまる唯一の正解はないと思います。個々の生活者の行動の背景にある環境要因を踏まえ,その人に合った支援の方法を組み立てる。こうしたアプローチは,クライアントごとに異なる理想のライフプランの実現を支援するFPの仕事において不可欠なものです。その点においても,自身の専門分野の知見を活かすことができると考えています。

経済的な基盤を整えることは,安心して日々の生活を送ることや精神的な健康を維持することにもつながると考えています。ここまで述べてきたようなFPの仕事は,こうした意味で,生活者の心理面の安定を支える一助にもなると考えています。

FPも,心理学を学んだ人にとってのキャリアの一つになり得るのではないかと考えており,このような越境的なキャリアが,心理学を専攻した方々の新たな選択肢として広がっていくことを願っています。

学部生の頃から変わらない個人的なモットー「心理学を学んだからには,その学びを人の役に立てたい」を,これからも実践していきたいと思います。

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