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Keeping fresh eyes 心理学研究 最先端

遠い未来に対する私たちの関心と責任

福林 直
お茶の水女子大学学生・キャリア支援センター 講師

福林 直(ふくばやし なお)

Profile─福林 直
博士(カウンセリング科学・筑波大学)。専門は社会心理学。筆頭論文にSocial comparison on social media increases career frustration. Frontiers in Psychology. 12, 720960, 2021など。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は,第6次評価の統合報告書において初めて,人間の活動が地球温暖化を引き起こしてきたことは「疑う余地がない」と明言した[1]。過去を生きた人間の,そしていまを生きる私たちの選択と行動の積み重ねが,地球環境に重大な影響をもたらしている。私たちが選択と行動を変えなければ,この先の未来世代や地球環境に,その影響はいっそう重くのしかかることは避けられない。

遠ざかる未来世代

とはいえ,未来を見すえて選択と行動を変えることは,とても難しい。自分のことでさえ,例えば自分の健康を害すると分かっていても,今日の行動はなかなか変えられない。まして,まだ見ぬ未来の誰かのこととなれば,思いを馳せ,行動を変える動機は,なおさら生まれにくいだろう。特に不確実で先の読めない状況では,人は遠い将来より目先を優先しやすくなることが知られている[2]。報われるか分からない未来のために,我慢する意味が薄れるからだ。VUCAやBANIと呼ばれる不安定で不確実な現代社会では,私たちの意識は未来世代からいっそう遠ざかるのかもしれない。

実際,道徳的配慮─ある存在を気づかいの対象とし,その影響を自分の責任の範囲と考えること─について人々に尋ねると,家族や仲間から,見知らぬ人々や他の生物まで,さまざまな存在のなかで,自分の死後に生まれてくる未来世代は,しばしば最も低く評価され,現在の周縁化された集団や,非人間的存在よりも下に置かれることもあるという[3]。未来世代は,私たちが配慮を向ける対象のなかでも,とりわけ遠くに置かれやすい存在だといえる。

未来への配慮を測る心理学

その一方で,この流れに抗うように,遠い未来への影響を見すえて現在の選択を考えようとする思想も広がってきた。遠い未来への良い影響を現代の重要な道徳的課題とする「長期主義(longtermism)」がそのひとつである[4]。主に哲学領域で議論されてきたこの立場には,功利主義的な前提に対する批判も見られるが,将来世代を配慮の対象に含めるその視点は,環境問題への取り組みともしばしば関連づけられる。

近年,この視点は心理学の研究対象にもなってきている。「世代間関心(intergenerational concern)」や「公平な世代間配慮5(impartial intergenerational beneficence)」という概念がそれである。前者は,長期的な未来を生きる世代の生存や福祉に関心を向けることを指し,後者は,近い未来から遠くの未来まで,等しく自らの関心の中に置くことを指す。こうした時間横断的に公平な配慮を示す人は,全体の2割ほどにとどまるという[5]。世代間の配慮に差が少ない人ほど気候変動対策を支持し,環境配慮行動に積極的だという結果が米国を中心に示されているほか,未来世代への責任感を高める働きかけによって,環境保護を目的とする団体への寄付が増えたことも報告されている[6]。こうした知見は,関心の時間軸を拡張する心理的な働きかけが,環境問題の解決に向けた行動を後押ししうることを示唆する。

この未来世代への配慮をめぐる研究は,まだ始まって日が浅く,対象地域も非常に限定的である。この研究の知見と可能性をさらに広げるために,筆者はいま,国内外において研究を進めている。気候変動をはじめ,多くの環境問題は,現在の選択の帰結を,遠い未来を生きるものが引き受けるという構造をもつ。この研究は,長期的な視点がもちづらい時代にありながら,人が未来世代に向けて自らの責任範囲をどこまで広げ,現代の選択を再考しうるのかを,心理学的見地から紐解こうとする試みである。それは,環境問題に取り組む多様な道筋のひとつになりうると考えている。

文献

  • 1.IPCC (2023) Climate change 2023: Synthesis report. IPCC.
  • 2.Kidd, C. et al. (2013) Cognition, 126, 109–114.
  • 3.Capozzoli, C. J. et al. (2026) Group Process Intergroup Relat. https://doi.org/10.1177/13684302261426259.
  • 4.マッカスキル, W./千葉敏生訳 (2024) 見えない未来を変える「いま」:〈長期主義〉倫理学のフレームワーク.みすず書房.
  • 5.Syropoulos, S. et al. (2025) Pers Soc Psychol Bull. 52(5), 1279–1298.
  • 6.Syropoulos, S. et al. (2024) npj Clim Action, 3, 27.

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