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■つるの 剛士氏 特別対談
47歳で直面した「中年期危機」が学問の扉に。
人生の「点」が「線」へと繋がる,知の探究の喜び
- つるの 剛士 認定心理士
- 唐沢 かおり 日本心理学会理事長
タレント,俳優,ミュージシャン,そして5児の父として幅広く活躍されている,つるの剛士さんは,保育士・幼稚園教諭の資格を取得されたことで知られています。そして,四年生大学に編入学されたつるのさんは,心理学を学び認定心理士の資格を取得されてもいます。本対談では,本学会の唐沢かおり理事長(東京大学大学院 人文社会系研究科 教授)がインタビュアーとなり,つるのさん自身の「中年期危機」が心理学に救われたエピソードや,心理学を学んだことが私生活や仕事にもたらしたポジティブな変容について伺いました。社会人として学び直すことの意義や,人間を科学的かつ温かく理解する心理学の奥深さが語られています。
尾見 康博(山梨大学 教育学域 教授/日本心理学会広報担当常務理事)
心理学との出会い――「中年期危機」との出会いが学びの転機に
唐沢 まず心理学に興味を持たれた経緯や,心理学の勉強をされて,認定心理士をとってみようと思われた経緯をお伺いしたいのですが,いかがでしょうか?
つるの 実は僕,心理学を勉強しようとは全く考えていなかったんですよ。2020年に保育士の資格を取りに短大に入学しました。それと同時に世の中がコロナに入っていきまして,僕的にはもう仕事ができなくなった。ロケもできない。歌のライブもできなくなっちゃった。
偶然その時期に短大に入学したので,時間を割いて学生モードに完全にスイッチを切り替えまして,2022年に短大卒業とともに保育士と幼稚園教諭の資格をいただきました。それでコロナが明けて,仕事もこれから再開していこうっていう感じの時ではあったんです。
今までは,もう皆さんご存知かわかりませんけど,僕は「ヘキサゴン」というTV番組でおバカタレントということで,皆さんから「勉強できない」ということで笑っていただいている時期がありまして。
本当にその通りで,僕は今まで全く勉強してこなかったんです。それが,これだけ集中して一つのことに向けて勉強させてもらったっていう2年間だった。で,資格を取ったはいいんですけど,自分の中で燃え尽きたというか,次の目標を見失って,もうちょっと勉強したいなっていう欲求が出てきたんですよね。
それで,子どものことを深く勉強したいと思って,勢いで,東京未来大学のこども心理学部に3年次編入で入学させてもらったんです。でも,こども心理学部という名前だから子どものことを主に勉強するのかと思ったら,1,2年の短大の時代に,いわゆる幼児保育の部分の単位を全て取っていて,残りが全部心理学なんですよ。
家に送られてくるテキストがことごとく全部心理学で,僕的にも全く新しい領域でしたし,今までそういったことに興味はあったけど,自発的に勉強しようとは思ってなかったので,なんじゃこれ?と思って。本当に1から新鮮な状況で心理学っていう世界に入っていきました。でも,そのテキストが面白くてね。
心理学ってこんな世界だったんだって。今までは,ちょっと俗っぽいですけど,いわゆる人の心が読める,読心術じゃないけれども,人の心を読んで悩みを解決するみたいな,そんなイメージがあったんです。けれどもテキストを読んでいたら,エビデンスに基づいた科学的なデータが出ていて,こんなことも細かく研究されているんだと知りました。
しかも,多岐に渡って,いろんな分野の心理学がある。心理学って一つの教科だと思ってたんですけど,基礎心理学から応用心理学までありとあらゆる心理学がある。何これ?と思って。そういう驚きがあって,ハマっていったんですね。
ただ,最初は全然しっくりこなくて,これを勉強してどういうふうに今後役立てていこうかなって思いながら,半信半疑で勉強していました。
そのとき僕は47歳で,それまではあんまり感じたことがなかったんですけど,睡眠が取れなかったり,あとすごい汗かいたりしてたんです。ちょっとうつっぽいというか,少し落ち込み気味になったりしていました。今まで僕は元気ハツラツでやってきたんで,そんな状況になったことがなかったんですね。
あまりにも僕が寝ないので,うちの妻が「ちょっと,つるちゃん大丈夫?」って声をかけてくれたんですよ。「最近全然寝れなくて」みたいなことを,お茶を飲みながら二人で話してたら,ボロボロ涙が止まらなくなっちゃって。うちの奥さんも僕のそんな姿を見たことがなかったから,「どうしたの?」みたいになって。「実はちょっとこんな感じ。最近調子悪くて」と話しました。
すると奥さんが僕の知らないところで,お医者さんに相談してくれたんですね。それでお医者さんに伺ったら,「つるのさん,いつもテレビで見てますよ。多分それはちょっと軽いうつなんで,この薬を旦那様に上げてください」って。そこにお医者さんからすてきなメッセージが書いてあったんですよ。
またそれで家に帰って泣けてきて,みたいな感じだったんですけど,つまり中年期危機だったんですよ。男性の更年期障害みたいなことではあったんですけども,ちょうどその時に心理学を勉強したら,中年期危機という言葉が出てきたんです。「え,これ学問になっている」と驚いて。
しかも,その中の症状として書いてあることが,まさしくその通りだったんですよね。ミッドライフクライシスとかミドルエイジクライシスみたいなことが。しかも,ユングや河合隼雄先生が説いているみたいなことで,それからもうズッポリ,心理学の世界に入っていきました。特に深層心理学の世界に入っていって,いろんな本を読みあさったりして,すごい興味を持って心理学のことを勉強させてもらいました。だから,自分の身体と心と学問がちょうどタイムリーにぴったりと合ったっていう,そんな2年間ですね。
唐沢 今のお話、私たちのような心理学の研究をしている人間にとって、心理学が日常の生活とか,私たちのあり方とか,そういうものと繋がってることを実感できる内容で、とてもありがたいです。心理学は人間がどういうものなのか、どうなるのかを示しているのが魅力の一つなんですけど,その点を経験として捉えておられるということですね。
ご自身は大変な思いをされたと思うんですが、心理学が言うところの中年期危機という考え方と出会われてって言うお話は,心理学が私たちの経験を意味づける役割を持つことを示す良いエピソードだと思うのです。もっとみんなに知ってほしいなと思わされるエピソードです。
心理学という「窓口」から広がる新たな学び
唐沢 子どもや保育というところから大学に編入されて,そこでいろいろな心理学,実験などのエビデンスに基づくことから,ユングとか精神分析的なことまで,かなり幅広く関心を持って,本を読んだり勉強したりされたんですね。心理学は非常に広くて,上に何か言葉をつければ何でも「○○心理学」になっちゃうんですけれども,学んでこられた心理学で,面白いと思われたものや,心が惹かれたことには,どのようなことがありますか? 心理学の魅力みたいな。
つるの 保育の勉強をしていく中で,エリクソンたちが説いているような発達心理学はかなり実用性があったし,子どもたちを見ていても,ああ,これぐらいの子たちってこうだよね,みたいに感じました。
それから,特に興味を持ったのが文化心理学ですね。東洋の人達と西洋の人達で思想が大分違うみたいなところが,自分の中で明確になった。宗教観とか,文化観とか,これだけの見え方や考え方があるんだなということを知れた。今度はそこから,どんどん深める方向になってきちゃって,東洋哲学みたいなところにも入っていったんですよ。
仏教みたいな宗教学的なところにも入っていって,多神教と一神教でこれだけ文化が違うということは,やっぱり考え方とかいろんなことが変わるよな,とか。そこで河合隼雄先生が,母性原理とか父性原理みたいなお話をされていて,そこでもすごくしっくりきた。今住んでいる日本っていう場所の考え方とか文化とか,我々の生きている土壌みたいなところの素晴らしさとか,逆にちょっと悪いところも見えたりしました。
ちょうど長男と長女がカナダに留学していてですね。で,向こうの彼氏を連れてきたんですよね。やっぱり文化が全然違うので,今までだったらよくわかんなかったと思うんですけども,文化心理学を学んだことによって,すごく理解度が増した。考え方が少し違ったりしてても,寛大に話を聞けました。ああ,こういうことなんだな,みたいな。多分,勉強する前とは違う視点でいろんなことを見られるようになりました。
あとは家族心理学ですかね。今までよく子どものことを話していましたけど,いろんなご家族の方とお話しする時のベースとなるものが家族心理学の中に入っていたので,自分の家族といろいろ比較してみたりすることもできた。より広い視野を持って見られるようになったっていう感じですかね。
唐沢 心理学が,つるのさんにとって,窓口になっているんですね。もともと心理学って学問の系譜からいうと哲学から分かれてきた学問ですけど,心理学を窓口にしていろんな思想とか文化,人間のことに関わる他の人文学にも目が向いて,そこと心理学との繋がりみたいなことを意識しながらいろいろ学んで,どんどん踏み込んでいかれたんだな,と。これもすごくいい話です。
つるの そうですね。心理学というところから入っていったんですけど,出口の時に僕の家の本棚がもうそっち系の本ばっかりになってしまいました。
つるの 本当に心理学のおかげで,いろんな分野に興味を持てました。今まで全然興味もなかったようなこと,道教とか,いわゆる中国思想とかもそうでしたし,老荘思想みたいな分野も好きになったし,哲学もそうだし,あと量子力学みたいなところにも飛んで,そっちの世界もいろいろ勉強したりしました。それによってまた人が周りに増えてきて,当時その本を出版されてベストセラーになった作家さんと繋がって,その方の出版会に京都まで呼ばれました。そこではお坊さんがいっぱい来ていて,そんなところでお話させてもらったり。本当に心理学のおかげでご縁がたくさんありました。
「もう統計学が死ぬほど大変だったんですよ!」
つるの ただ,その学校の中での勉強というのがね,本当に大変で。錯視とかの実験実習をしましたが,もう統計学が死ぬほど大変だったんですよ!
唐沢 統計学がつらかった?
つるの つらかったです。今までこんなに楽しくやってきたのに,急に数字が出てきて。もちろん心理学をやっていると,なかなか数値化しないと難しいことはある。論文を書くときは統計を出さなきゃいけない。だから基本的な統計学というのはやらなきゃいけないというのはわかったんですけど…。
パソコンでもHADを使っていろいろなことをやりました。HADの教科書を買って,自主的にいろんな勉強をしたんですけれども,うわー大変だな,心理学って意外に理数だなと思って。
唐沢 そうですね。数値化したデータで客観的に変数間の関係を見るという科学的な方法をとりますから。でもそういうやり方を学んでよかったこととか,何かないですか。
つるの もちろん,もちろん。そういう部分があって,世の中にいろいろ応用されているんだなっていうことを知れたので,心理学っていうのが我々の生活の中であちこちに散りばめられていたこと,その深さと広さに驚きました。それぞれに専門の分野の方たちがいらっしゃって,そこで研究されてるっていう,その広い世界にまず驚いた。
でもどっちかというと僕は,そういう科学的な心理学とは対極にある,人と人との肌の中で生まれてくるもの。シンクロニシティみたいなことを言いますけど,ああいう世界が自分の中ですごくしっくりきました。
やっぱりね,今まで僕が芸能界で仕事させてもらってて,結局そこだったので。人と人とが関わって何か生まれるみたいなことをずっとやってきたので,そこを言語化してもらったっていうのはすごくしっくりきた。だから両方面白かったんですよね。
唐沢 それはよかったです。じゃあ,学校の授業で,統計や実習は大変だったとして,これは楽しかったっていう科目は何かあります? いっぱいあるかもしれませんけど。
つるの はい,そうですね。……いや,楽しかったことないな。つらかったですね(笑)。本当に毎日そのレポート書いたりするのがね。いや,本当に。ただ,そこで出会った皆さんとすごく仲良くしていただいたり,お話しさせてもらったりしたっていうご縁が楽しかったです。勉強自体はつらかったですね。
いろんなテストもやらせていただいたんですよね。田中ビネーとか,後は何でしたっけ,自己診断するやつとか,ほんとごめんなさい。認定心理士持ってるのに出てこない。
唐沢 大丈夫。私もなかなか出てこないから(笑)
つるの ロールシャッハとか。いろいろやらせてもらいましたが,中には,これは一般ではなかなか出せないもので,と説明を受けたものもありました。
臨床から来られてる先生方と接することが多かったので,やっぱりここまできたらいつか臨床を勉強したいなって思ったりしています。実際調べたんですよ。いっぱい家に資料が来て,こんな大学どうですか?とか。ただ待てよ,と思って。これもう仕事辞めなきゃダメだな,大学院は現実的に厳しいなと思って,一応自分で勉強して,いつかチャレンジできる時があったら,臨床の世界にも行ってみたいなっていう思いに今駆られています。
唐沢 大学院に行って,学んで。そこも資格いろいろありますので。
つるの そうですよね。
唐沢 ほんとうに自由に学びが広がっている感じがします。私たちは心理学を職業としてやってる側面があるので,自分たちの物の見方がときどき型にはまって狭くなってしまうこともあるんです。だから,心理学を学ばれている方が,しかも社会人経験がある中でいろんな方と相互作用することで,豊かな学びが広がっていることをお伺いすると、学びについて、改めて考えさせられます。
つるの いやいや,でも何かありがたかったです。今までのスキルとかキャリアみたいなものが,心理学を勉強することによって,点であったものが全部線になっていくような感覚がして。
保育の世界もそうでした。僕も5人の子どもを育ててますけど,保育の勉強をしたことで,もっと立体的に今までのスキルやキャリアが活かせた。あとは芸能生活の中で,例えば本を読むとか,歌を歌う,楽器を演奏するっていうのは我々プロなんで,そういうことはずっとやってきたわけじゃないですか。
学習の中で発表する場があったりして,僕が発表すると先生たちも皆さん喜んでくれて。いやあ,やっぱり今まで芸能界でやってきたから,いい発表をされますよねとか,何か本当にこの年齢で勉強させてもらったっていうのがすごく良かったんですよね。
だから多分一から現役で勉強していると,また違う心理学の入り方をしたと思うんですけど,いろいろな社会経験をした上でこういう学びをすることで,より深く広い視点で見れるようになったのが良かったなと思ってます。
唐沢 はい。大学で学ばれたからお分かりでしょうが,心理学のカリキュラムは結構しっかりしていますけど,それでもやはり学ぶ人のキャリアっていうんですかね,若い方なら若い方で,経験積んだ方なら経験積んだ方なりに,吸収していくもののバリエーションがあることが、お話からよくわかります。
つるの ありがとうございます。
心理学を学んで,生き方が変わった
唐沢 人間関係のことをおっしゃっていましたけど,つるのさんは,人と接することからいろいろと考えを広げてこられて,そこから,臨床のように個人のあり方を見つめるところに興味がいっておられるのでしょうか。
つるの その通りですね。本当に自分のことに対しても寛大になれるようになった。人とお話しさせてもらっていても,今までとちょっと変わって,何かじっくりこう,それこそカール・ロジャーズみたいな,傾聴みたいなことを勉強させてもらいましたけど,今までやってたつもりだったけどできてなかったみたいなことも,何かちゃんとやらなきゃいけないなと思うようになりました。
本当全部変わりましたね。心理学のおかげで,自分の生き方が変わりました。今まではどっちかというと人に対して何かをするみたいなのが心理学のイメージだったんですけど,自分とか,自分の視点が変わることを心理学を通して教えていただいた。そうして,より深く何か許せるようになった。
唐沢 自己理解が深まって,自分に対して寛容になった。
つるの そういうことです。何か,かわいいな,人っていいなって。例えば地下鉄とか乗ってても以前はいろんなことを思ってたけど,人間ってこうだからしょうがないよねとか思えるようになって,生きやすくなりました。
唐沢 それはいいですね。人間に関心があるっていうのは多くの心理学者もそうだと思うんですが,学ぶ方も多分そうで,勉強したことによって,自分とか人間への理解が深まるのが,心理学を学ぶ時の魅力の一つです。そこを適格に捉えておられる。
つるの それが正しいのかどうか分からないんですけど,僕なりにはこんな感じです。
唐沢 正解というよりも,心理学者として,うれしくて泣ける話。そういう感じで学んでこられたんだなと,心理学のワールドにぜひ広めたい。
つるの 「心理学ワールド」も面白くて,読ませてもらって。年間の購読をしています。(第111号・【特集】 臨床心理の現場から ――公認心理師誕生後のいまとこれからを手に取って)これは読みました。はい。臨床ではこんなことされてるんだってことを勉強させていただきました。
唐沢 「心理学ワールド」は,心理学の研究者ではないけれども,心理学に関心のある方にも楽しんでもらえるよう出版しているので,この雑誌をきっかけに,皆さんが心理学に少しでも接してみようかなと思っていただいたらいいなと思っています。
認定心理士を目指す方々へのエール
唐沢 これまで心理学を学ばれた経緯や,心理学の魅力,ご自身との心理学の関係などをいろいろお話いただきましたが,認定心理士を目指す方に対してのメッセージや応援ってありますか?
つるの そうですね,僕は多分皆さんと違って,資格のために大学に入ったわけじゃなかった。子どものことをもうちょっと深く学ぼうかなと思って入って,でも結果的に認定心理士って資格をいただいたので,嬉しいなっていう感じだったんですよね。
だから,認定心理士を目指している方っていうのは,逆にどういう方なのかな。
僕の場合は認定心理士を取って何か仕事に就こうとかはなかったのですが,今までの自分の仕事に認定心理士がプラスすることによって,例えば親御さんも安心して何かお話してくださったりということもあるでしょうし,今までの芸能っていう仕事の中にプラスオプションとしてブーストしてるっていう感じがあります。だから,とてもこれから楽しみです。
唐沢 保育の資格を持っておられて,さらに認定心理士という資格をお持ちになったことで,芸能活動のお仕事の広がりもあると思うんですけれども,新しく開拓されたようなお仕事の領域とか,今後自分がこんな仕事もして見たいとか何かありますか?
つるの まさにこういう出会いをいただけたことが,資格を取ってないと起こらないことです。こういうご縁がどんどん広がってるっていうのはもう間違いありません。
あとは家族心理学みたいなところで言うと,家庭や家族が,これからすごく大きなテーマになってくるんじゃないかと,勝手に嗅覚が働いてるんですよ。
うちはおかげさまで家庭も円満ですし,子ども達もすくすく育ってくれてます。世の中の皆さんからそういうところを評価いただいたりもしているので,ひょっとしたら今後,家族に関して悩んでいる皆さんのお話を聞いたり,何かそういったところで臨床的に入っていくことができたらいいのにな,なんてことで,ざっくり青写真はあったりするんですけどね。
唐沢 なるほど。今,確かに少子高齢社会で,家族っていう単位を維持することがいろいろ難しい時代にもなってますし,あとは孤立や孤独も大きな問題になってますけども,そういう中で家族っていうのがテーマになるとお考えなんですね。お子さんは,留学されている方がいらっしゃるんですよね。
つるの 二人が6年越しで帰ってきたところで,また一人がマレーシアに行っちゃったんです。全員揃わないんですよ。
唐沢 皆さん,どういうことを学ばれているんですか。
つるの 長男に関しては自然が好きだっていうので,高校1年生の時にカナダに留学しました。今年22歳になるんですけど,日本に帰ってきて,今はアートみたいなことが好きです。で,多分もう日本にいない。というか,お金貯めたらまたどっか行っちゃうと思うんですけど。
次女に関してはファッションデザインですね。うちの妻が昔通ってた専門学校というか大学に受かって,4月から行くようになります。
長女は今マレーシアです。昔からCAになりたくて,しかも東南アジアの航空会社に入りたいって夢があったので,そこに向けて今勉強中ですね。
唐沢 父親としてお子さんに接する時のご自身のスタンスって,どういう感じでしょうか。何か気をつけたり,こういうことはちょっと考えるよね,とかありますか?
つるの そうですね。妻と僕とのいろんな関係性もあると思うんですけれども,基本的には妻が子どもたちの様子を日頃見ててくれて,僕はどっちかというと最後に何かこうスパッと切るような,家庭ではそんなポジションになってます。
小さい時から,おかげさまで女の子たちもみんなスキンシップをとっていたので,「パパ,いや」とか「パパ嫌い」みたいなことはなくて。もちろん反抗期的なものは年齢的にあったとしても,いい関係ではあるので,ありがたいですよね。
唐沢 いいですね。モデルファミリーみたいな感じで羨ましがられませんか。
つるの 皆さん羨ましがってもらえるんですけど,心の中で「それはそうだよな」と思ってます(笑)
唐沢 いいなあ(笑)
つるの だからこそ,そういったことが家族心理学のテキストを読んでいる時にいっぱい書いてあって,間違っていなかった,データもちゃんとこうなんだ,っていうのを学問として知れたということで,ますます自信がつきました。
ひょっとしたら今後,自分が家族とかそういったことで,人の助けになれるかもしれない,みたいなことを思ったんですけど,メサイアコンプレックスみたいなこともあるんで,自分がそういうふうになっているときは,自分が何か悩んでる時なんじゃないかってことを考えたりして。で,良くない,良くないとか,何かいろんなことを考えて。
唐沢 日常生活の中で出会われた経験を意味づけるのに,心理学をすごく活用されてるんですね。これはこういう心理学の考えや用語なんだ,こういう研究があったんだなっていう感じで,生活の中で体験されたことを,心理学を使って意味づけて,またそれをご自身で次の経験として活かすっていう,そういうサイクルを持っておられるんですね。
つるの だから何も経験しないで勉強したら,多分全く分かんなかったと思うんですよね。でも今は比較対象が家庭だったりとか,文化的なところもあったり,人との関わりみたいなこともある。これだけの人生経験があったので,すごく温度感を持って学問に励めた。この年齢で学校に通ったから良かったと思いますね。
唐沢 確かに経験があるからこそ理解できることも多いです。だから30歳,40歳,50歳になってから,あの時学んだ心理学はこういうことを言ってるんだ……って思えるといいですよね。でも授業のことって忘れたりするから。覚えてないとか(笑)
つるの まあ僕も覚えてないですけど。でも大変だったなあということは今も思い出します。
唐沢 大変さが心に残るのは大事ですね。その経験自体が貴重なものになるから。
つるの はい,もうお陰様で大変でした。だって僕は寮とか泊まってましたからね。あと,学割を使いたいと思って,カプセルホテル入ってみたりとか,電車も学割使ってみたり,映画を学割使ってみたりとかで,もう本当にフル活用しました。
唐沢 今は社会人学生も多いのですが,改めて学び直そうっていう方に対して,今日のお話は励みになる内容だと思います。
つるの 心理学に関しては,年齢を重ねたり,ある程度社会でいろんな働きをされて経験されている方が一回勉強すると,多分どっぷりハマると思います。
唐沢 大学にはいろんな年齢層の方がおられるっておっしゃってましたけど,若い方も同じクラスにおられましたよね。
一緒に学んでいて,そういう方達に対して,同じ学生でありつつも,経験を持った立場から,何か働きかけたことはありましたか?
つるの そうですね。多分,なんだかんだ資格のために勉強されている方が,若い子達は特に多かったんですよね。
だから,さっき僕が言ったみたいに,資格のためだけではなくて,もう少し自分のことを知るとか,そういったところを意識する方に考えていくと,いろんな心理学の中から自分に合う心理学がわかってくると思うんですよね。
で,自分が「この心理学めっちゃおもろい」っていうところにどーーん,と行く,っていうのがいい。認定心理士って,ある程度広く浅くいろんなことを学べるので,その中で取捨選択しながら,この心理学だったら今後も学んでいきたいと思うものを見つけられるといいかもしれないですよね。
ところで「認定心理士の会」のイベントのお知らせが,たまにメールで来たりするんですけど,どんな方が来られているんですか? もちろん認定心理士の方が来られるんですよね。僕も行ってみたいなと思って。一回顔を出してみたいなと思っているんですよ。
唐沢 学会はどうですか? 日本心理学会。
つるの 日本心理学会はまた別なんですか?
唐沢 学会では,年に一回,大会っていうのをやってるんですよ。大会は研究発表の場です。大学院生から年長の研究者まで,各自が行った研究の成果を,それぞれポスター形式で発表したりとか,シンポジウムとかワークショップをやっていたりとかします。家族をテーマにした研究,統計に関すること,臨床研究もあれば,基礎研究などいろいろあるんで,選んで発表を見たりワークショップに参加できます。
つるの 来年(2026年)の大会は東洋大学でやられるんですか? そうなんですか,へえ,行ってみたい。
「夫婦関係が良くなりました」
つるの いよいよ僕も50歳になったんですが,すごくいい時期に勉強させてもらいました。さっきのミッドライフクライシス的な時に出会えたっていうのもすごい良かったですし,人生の折り返し点が終わってるなっていう感じがしている時期に勉強できたのがよかった。
本も読むようになった。老眼もひどくなっちゃったんですけど,これも遠近両用メガネなんですよ。ずっと本を読んでるんでかけてます。本当に変わりました。人は変わると言うけど,ここまで変えてくれるっていいなと思って。
唐沢 大学では,学ぶことに対して,学生さんは「授業面白かったです」とか「役に立ちました」とかの感想を書いてくださる。
今日の話はそういうのを超えて,学ぶことで,具体的にこういう形でご自身が変わった,こういう影響があって,生活の中で変化があったということがリアルに伝わってきました。
つるの あと,夫婦関係が良くなりましたね。これはもう実例として。
唐沢 え,そうなんですか。心理学にはそういう御利益もある!
つるの 今までも良かったですけれども,奥さんの話をすごく聞くようになりました。どんなことでもそうなんですけど,その内容より気持ちの方を見るようになったんですよね。なんでこの人こういうことをしゃべるのかなとか。以前はどっちかというと内容の方を聞いて,それに対して返答する,アドバイスする,みたいにしていましたが,今ではその人がそう話す気持ち、原型みたいなところを,耳を澄ませて聞いてみるみたいな耳になった。心理学のおかげだなと思います。
唐沢 心に関心がいって,今どういう気持ちでこうしているんだろう,と考えるマインドになった。
つるの そういうマインドになった後,歌を歌っててもそうですし,演奏しててもそうだし,何かこう,もっと深いところを触るっていうか,そんな感覚になったんですよね。子どもたちに対してもそうです。
唐沢 芸能のお仕事は当然オーディエンスというのがあって,ウケる・ウケないで評価も左右されちゃうところがあると思うんですけども,それだけではなく,今ご自身が接しておられるオーディエンスが,実のところ,今どんな気持ちなんだろう,みたいなことを現場で考えることはありますか?
つるの そうですね。この人はここに来るまでに何本もバスを乗り継いで来られて,疲れてきているかもしれないとか,そういうことはもちろん今までも考えてました。けれど心理学の勉強をしたことで,どういう心持ちで今ここに座られてるのかしら,みたいなところに目が行くようになったっていうか,そんな感じはありますよね。
唐沢 心理学を学ぶと他人の気持ちによりそう、優しくなるっていうことかな。これも泣けるくらいいい話。
つるの でも本当にそうですよね。そういう学問ですよね。やって良かったなと思う。
こども心理学部に入ったのに子どもと関係ないことを学ぶのかと思ったんですけど,でも結果そこに通ずるものがあった。乳幼児の発達とか,もっともっと深い広いところから子どものことに入っていった。直接子どもっていうワードが出てくるような学問じゃなかったですけど,ものすごく深いところから子どものことを知れるようになったっていう感じですよね。
乳幼児の時期がどれぐらい大切なのかとか,そういったこともすごく知りましたし,ほんと立体的になりました。
で,今度は臨床とかへの関心が深まると,もういよいよ仕事を辞めなきゃいけなくなる。うちは小学校3年生の子がいるんで,まだもうちょっと子ども育てなきゃいけない。仕事しながらでもやりたいなと思っているんですけど,個人的にいろいろ勉強していこうかなと思ってて。
唐沢 心理学からいろんなところに関心が広がり,いろんなものを見ておられる。子どもに対する関心から入って,それから家族に広がって,今度は臨床ということですが,一人一人の持っている心や,その背後にあるものを,もう少し丁寧に見ていきたいっていうことだと思うんですね。心理学がつるのさんの中で展開している様子が素晴らしいと思いました。
つるの いや,本当にいい入り口をいただいたなと思って。でも,そんなのもすごい偶然だった。本筋をゴールに向けて学んでいくんじゃなくて,ちょっと寄り道してみようみたいな。
心理学をやってると,あえて寄り道してみるとか,偶然性を楽しんでみるみたいな。それがチャレンジにつながったり,ここで何が起こるかわかんないから行ってみようとかもある。心理学をやってたからこそだと思うんですよね。
今までもそういった偶然性で,例えば「ウルトラマン」になったとか,「羞恥心」になったとか,歌を歌いだしたとか,全部偶然なんですけど,でも何かそういったことをもっともっとコアに考えるようになりました。
唐沢 どの学問も魅力を持っているので,心理学以外の学問に惹かれたとしても,たぶん,関心の展開や深まりはあったと思うんですけれども,つるのさんが持っておられるものとか,その時に求めておられるものと,心理学という学問がうまくマッチして展開してきたのだと思います。認定心理士の会からご案内が行くイベントとかもありますし,超お忙しいと思いますけど,時間があればまた別の形の学びの場,日本心理学会も,ぜひいらしてください。つるのさんがいらっしゃったら,みんな喜びます!
認定心理士の申請は大変だった
(ここで,あまりの盛り上がりに,広報担当の尾見がインタビューに参入!)
尾見 認定心理士は,大学を卒業したら自動的に取る感じだったんですか?
つるの 僕は認定心理士のためにというよりは,卒業に向けて頑張っていただけなので,自動的にというか,認定心理士を取るのであれば,この実験をちゃんとしなきゃいけない,単位を取らなきゃいけないというのがあって,卒業するんだったら資格も取らなきゃということで取りました。
尾見 卒業と認定心理士はほぼ一体化している?
つるの 卒業した後で,認定心理士の審査があるんですよね。年に何回かあって,僕の場合は3か月かかったかな。
あれが大変なんですよね。申請がめちゃくちゃ大変でした。単位を取っても,認定心理士を取るには自分で申請しなきゃいけないから,すんごい大変だと噂で聞いていて,そんなことないでしょうと思ってたらめちゃくちゃ大変で(笑)。
みんなが言ってた通りじゃんと思って。あれ大変っすよね。でもそれぐらい厳粛なものなのかなと思ったりして一生懸命書いたんですけど。
尾見 認定心理士を取らないで卒業する人もいるんですか?
つるの どうなのかな。いや,多分認定心理士を取るために皆さん学んでいると思います。大学では科が分かれているんですよ。幼児教育科みたいなのがあって,小学校の先生になられる方とか,あと幼稚園教諭免許の1種取られる方とかがいらっしゃいましたが,僕は認定心理士の方でした。
大学の先生には相当迷惑かけました。全然レポート書けなくて。ちょうど今から1年前ぐらい,ここが一番大変だったんですよ。12月から1月です。ミュラー・リヤー錯視でしたかね。レポートを書くのがほんとに大変でした。もう同級生に助けられて。
認定心理士取得後も広がり続ける知的好奇心
つるの 最近本を読んで知りましたが,ミュラー・リヤー錯視も何か違う説が出てきてますよね。国によって違うとか。錯視の程度が違うみたいなって話もありますよね。あれ? これ初めて知ったぞと思いながら。あんなに一生懸命勉強したのに。
ところで,日本パーソナリティ心理学会の理事長をされているということでお聞きしたいのですが,パーソナリティ心理学は,僕も勉強させてもらいましたけれども,社会的にはどういうふうに実用化されているんですか?
尾見 ご存じかもしれないですけど,パーソナリティ心理学といえば,今どきはビッグファイブといって,性格は5次元でおおよそ解釈できるという考え方が主流です。心理学以外の分野でもパーソナリティがこの5つの因子で説明されていたりしますけれど,個人的にはこの5つで見れば全部がわかっちゃう的になるのには若干抵抗があります。
例えば,5因子に関する質問を全て「はい」「いいえ」で答えたら,組み合わせなんて限られるじゃないですか。世界にこれだけたくさん人がいて,いっぱい死んで生まれてきてるわけなので。
つまり,個性っていうのを見落としてしてしまう可能性があるわけですよね。ざっくり見るならいいんですけどね。個人的には,そういうところを大事にした研究がもっと増えてほしいなっていうふうに思うんですけどね。個性記述的アプローチっていうんですけど。うーん,なんでこんな話になっちゃったのかな(笑)
唐沢 今,試験を受けている大学院生みたいだった。(笑)
つるの でもすごく難しいなと思った。数値化して見ている部分とそうでない部分があって,違う世界になっている。
尾見 把握のしかたが違うけど,でも目指しているものは同じ。
唐沢 知りたいのは「人」という点では同じ。数値化して複雑な統計解析をかけて初めて何か「おお,こんなふうになってるんだ」とわかることと,それで捨てちゃうことと両方ありますよね。
尾見 どっちかっていうのと一般論からずれることを,どうやって一般論にくっつけていくかみたいなことの方が僕は好きで。
パーソナリティ心理学は,主に統計を用いて研究されてきて発展してきたと思います。数多くのパーソナリティ尺度があって,それら同士の関連性だとか行動との結びつきみたいなことをやる研究はすごく多くて,論文はそういうのがいっぱい掲載されてるわけですけど,それ一辺倒になるのはどうかな,みたいな感じで僕は考えています。
つるの 僕はユングみたいな深層心理学の世界から入っていった。だからユングのああいう一見オカルトっぽいというか,自然科学じゃないようなあの世界観がすごく好きで,結局それを説かれてる河合隼雄先生みたいな世界に入っていったんで,じゃあいつか臨床をもっと学んで,ユング学会とか入りたいなあとか,スイスに行きたいなとか思ってて。
唐沢 ユングは,私の周りでは哲学とか文学とか芸術の評論研究みたいなことやってる先生方の方がよく読んでる。そういうのもまた面白いかもしれない。
つるの めちゃくちゃ好きなんですよね。
唐沢 私も中学生くらいの時に河合隼雄さんの本を読んでましたし,京都大学での授業を受けたりしています。面白いですよね。
つるの 本も面白いし,講演のCDも僕全部持ってるんです。もうほんと好きで。京都大学の最終講義の映像を見たりとかもしてますね。相当信者です。僕は。
唐沢 今,日本で河合隼雄さんのことをよく知ってるトップ5くらいじゃないですか。
尾見 ユンギアンだって,最終講義を見てない人もいるでしょう(笑)。
つるの コンステレーションの話をされてるんですけどね。いや,もう完全に河合教なんで。ユング・河合教。
ユングならいけそうな気がする。ユング心理学科があったら,多分満点取れそうな気がするんだよな。
つるの 剛士
1997~98年に放送された「ウルトラマンダイナ」の主人公役を演じた後,「俳優」「歌手」「タレント」と多方面で活躍しながら積極的に育児にかかわる。2022年 幼稚園教諭2種免許,保育士資格を取得。2025年 東京未来大学 / こども心理学部通信課を卒業し,認定心理士資格を取得。 趣味は「将棋」「釣り」「楽器」「サーフィン」「バイク」と幅広い。 1975年5月26日生まれ 福岡県北九州市出身 神奈川県藤沢市在住 二男三女の父親。
対談日:2025年12月17日





