心理学 Q & A

心理学ふしぎふしぎ

Q12.不意に身体が動いたと感じることがあるのはどうして?

駐車場からクルマを出す準備をしていたら,まだエンジンもかけていないのに自分のクルマが動き出したと感じてびっくりしたことがあります。おそらく,となりに駐車していたクルマが先に動き出したので,それを間違って自分の動きだと感じたのだと思うのです。これって,錯覚ですか?

A.北崎充晃

どうやって私たちは,自分が移動していると感じていると思いますか? これは,自己運動知覚の問題として,知覚心理学や神経生理学,バーチャルリアリティの分野で研究されています。皆さんは,「動きを感じるセンサ」があって,それで検出しているのだと思うでしょう。たとえば,地震計は動きを検出しています。ノートPCにも動きを検出するセンサが搭載され,間違って落としたときに急な落下を検出して壊れないよう防御するシステムもあります。私たちの身体にも,「前庭器官」という加速度検出器があり,頭部の回転や移動を検出しています。ただし,これは加速度のセンサですので,動き始めや止まるときなど速度が変化するときにしかうまく検出できません。飛行機に乗っているときに,必ずしも常に自分が動いているとは感じませんよね。ただし,乱気流で急に落ちるときは,あぁ落ちていく! という感覚がしますが。加速度のない状態,等速運動といいますが,このときに自己運動を知覚するために利用されているのが,「視覚情報」だとされています。

面白い実験があります。被験者は,図のような縦縞シリンダーの中の回転椅子に座って,身体が感じた運動方向と速度をレバーで答えます。ドアを閉めると視野にはシリンダーの縞模様しか見えません。たとえば,シリンダーを止めて椅子だけを回転させれば,普段と同じ静止した世界の中で自分が動くのと同じになります。この場合,被験者はほぼ正しく自己運動を答えることができます。ところが,椅子の回転に合わせて同じ方向にシリンダーを回転させると,動き始めは正しく知覚できますが,しばらく同じ速度で回転していると静止して感じるようになり,速度が落ちて止まろうとする際には逆回転! し始めるように知覚されるのです。これは,シリンダーが椅子と一緒に回転すると視覚的な運動がなくなり,前庭情報,つまり加速度のみで知覚せざるを得ないからです。一方,椅子を止めたままでシリンダーのみを回転させると,動き始めは自分が動いている感じがせず,シリンダーだけが動いて見えますが,しばらくすると自分の身体が椅子ごと回転しているように知覚されます。これが,ベクションと呼ばれる視覚のみから自己運動が感じられる現象です。つまり,自己運動知覚は,加速度のあるときには前庭情報で,等速運動のときには視覚情報からと,それぞれ補いながら統合的に行われます。

最初の質問の答えは,「体験した現象はまさに視覚情報からの自己運動知覚ですが,錯覚というよりも日々私たちが行っている正常な知覚の一側面を反映したものです」となります。

きたざき みちてる
豊橋技術科学大学未来ビークルリサーチセンター助教授。
専門は,知覚心理学,認知工学。
主な著書は,『認知心理学』(有斐閣)など。

心理学ワールド第31号掲載
(2005年10月15日刊行)