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心理学ってなんだろう
喫茶店やレストランで壁際の席からうまっていくのはなぜ?
喫茶店やレストランでは壁際や窓際の席からうまっていくといわれています。私もお店に入ったとき,まず端の席を探しますし,実際,隅っこの席のほうが落ち着くのですがどうしてでしょうか。両端の席にほかの人がいると,何か落ち着きません。そういえば,電車のシートでも端の席からうまっていきますね。これも同じような理由なのでしょうか。
A.小西啓史
レストランや喫茶店で客がどの席に着いているかを調べた研究はたくさんあります。そして,そのほとんどが窓側の席,壁際の席など端のほうからうまっていくことを明らかにしています。また,病室における入院患者の行動に関する研究では,窓際や壁際のベッドが好まれ,中間のベッドは居心地が悪く,ベッドから離れる患者が多いという報告があります。これらのことから,端の席からうまっていくのは空間行動の一般的法則といってよいでしょう。それではなぜ端の席が好まれるのでしょうか。
1つには,身を守るためには端の席のほうが有利であり,そこにいると安心できるからだと考えられます。壁を背にするなど,体の一部を壁に近づけることで,外敵から身を守りやすくなります。動物たちの行動も同様です。ネズミを箱の中に入れると,やがて壁際か隅っこにうずくまってしまいます。端の席は,安心の場所といえるのでしょう。
しかし,こうした行動についてはもう1つの理由が考えられます。着席行動では,空間への「期待」や「予期」というものが大きな役割を果たしています。われわれは,これまでの経験をもとに,これから起こる状況への予測を立て,それをもとに行動を決定します。ある研究によると,混雑を予想した人は,端の席に座ったり,あとから入ってくる人と目を合わさないようにすることが明らかにされています。これは,混み合うことによって生じるほかの人との過度な接触を避けようとするための行動と考えられています。混み合ってくる事態に備えて,あらかじめそれに対する対処行動をとっているわけです。図書館で行われた研究でも,来館者は入り口を背にして座る傾向があることが明らかにされていますが,これも同様の理由であると考えられます。一方,もしその空間を自分しか使わないと予想したらどうでしょうか。ここではほかの人との関わりを心配する必要はありません。部屋の真ん中にゆったりと座ることができるでしょう。
喫茶店で1人で勉強をするとき,レストランで恋人同士で食事をするとき,あるいは電車に乗っているとき,いずれもあまりまわりの人と関わりをもちたくない場面です。そのようなとき,端に座ることでほかの人からの干渉を少しでも防ぐことが可能になるのです。このように,われわれが端の席を好むのは,そこが安心できる場所だというだけではなく,ほかの人と関わりをもたなくてすむという戦略的にも好ましい場所であるからと考えられるのです。
文献
小西啓史(1990).環境とコミュニケーション 大坊郁夫・安藤清志・池田謙一(編) 社会心理学パースペクティブ2 誠信書房 pp.135-168.
こにし ひろし
武蔵野大学人間関係学部教授。
専門は,社会心理学,環境心理学。
主な著書は,『社会心理学パースペクティブ2』(分担執筆,誠信書房)など。
心理学ワールド第34号掲載
(2006年7月15日刊行)