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心理学ってなんだろう

「特売」といわれるとつい買ってしまうのはなぜ?

新聞の折込チラシを見ていると,「特売」とか「セール」とかいう言葉が多いことに気づきます。店先でも,こうした言葉をよく見かけます。そして実際,私たち消費者は,「特売」などといわれると,つい買ってしまうということが多いように思います。なぜ買ってしまうのでしょうか。この言葉には,消費者を惹きつける特別な魅力があるのでしょうか。また,「特価」「格安」などの言葉も,「特売」と同様の効果をもつのでしょうか。



A.堀内圭子

まず,消費者は本当に「特売」といわれたら買ってしまう傾向があるのかどうか,考えてみましょう。「特売」といわれたとき買いやすいのは,値ごろ価格(当該商品の内的参照価格)が比較的明確な場合ではないでしょうか。相場のわかりにくい芸術作品の即売会や,もともと安いことが期待されている蚤の市などで,「特売」と表示されていたらどうでしょう。魅力より疑問を感じるのではないでしょうか。


では,値ごろ価格を把握している商品が「特売」になっていると,つい買ってしまうのはなぜでしょうか。それは,「お買い得」と感じるからです。しかし,Q18には,「本当は得ではないのに」「本当はいらない物なのに」といった意味が込められていると思います。


セールス・プロモーション研究では,値引きなどを実施した場合,売り上げが伸びることが確認されていますが,その多くは当該ブランドの新規顧客ではなく,以前からそのブランドを買っている消費者のストック買いであるといいます。とくに,だしやサラダ油のように日もちのする商品の売り上げが伸びています。このような場合は,確かに「お買い得」なのでしょう。


そのようなストック買いではなく,使いそうにないものまで買ってしまうという場合についてはどうでしょう。これは,「消費者情報処理」の枠組みで説明できそうです。消費者は,商品に関するさまざまな情報を考慮し,選択肢として並んでいる商品の中でもっとも高い評価を与えられるものを選ぶというのが,この枠組みのとらえ方です。その際消費者は,自分にとって大事な情報には大きな重みづけをし,大事でない情報には小さな重みづけをします。


さて,ある商品について「特売」を強調されると,消費者の頭の中ではこの情報がひときわ目立つことでしょう。「ワケあり商品」や賞味期限ギリギリなどの場合は何ともいえませんが,多くの場合,この情報はプラスの評価を与えられ,大きな重みづけがなされるでしょう。そうであれば,当該商品の総合評価は高くなります。


さらに,説得的コミュニケーションの研究では,一般に,気分の良いときのほうが気分の悪いときより単純な情報処理をしやすくなり(※),説得されやすくなるといわれています。この知見をふまえると,「特売」といわれて良い気分になると,薦められるままに買ってしまいやすくなると考えられます。


「特価」や「格安」についても,同様の説明ができると思います。
(※)広告研究では,逆の結果が出ているものもあります。



ほりうち けいこ
成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科助教授。
専門は,消費者行動研究。
主な著書は,『「快楽消費」の追究』(白桃書房),『<快楽消費>する社会』(中央公論新社)など。


心理学ワールド第35号掲載
(2006年10月15日刊行)