心理学 Q & A

心理学ふしぎふしぎ

Q20.繰り返し接しているうちにどんどん好きになるのはなぜ?

このごろ,ある音楽が気になります。最初はそれほど興味がなかったのですが,CMでよく流れているのを聞いているうちに,口ずさんだり,ダウンロードしたりしてしまいました。何度も聞いたりすると好きになることってあるんですか。

A.松田 憲

ある刺激に触れれば触れるほど,それを好きになっていく現象を単純接触効果といいます。この現象は1960年代後半にザイアンス(Zajonc, R. B.)によって取り上げられ,主に社会心理学の分野で研究が進められてきました。近年では認知心理学や感性工学などの分野における研究も増えつつあります。

単純接触効果の生起要因には諸説ありますが,現在までに研究者たちの間でいちばん受け入れられているのが「知覚的流暢性の誤帰属」説です。これは,「ある刺激に接触し続けることで,刺激に対する知覚情報処理レベルでの処理効率が上昇することによって刺激への親近性が高まる。この親近性の高まりが,刺激自体への好ましさに誤帰属される」というものです。この説によれば,刺激への接触経験が想起可能な状況では誤帰属が生じず,その結果として呈示刺激に対する好意的反応傾向が抑制されてしまいます。

しかし,繰り返し刺激に接触した経験を顕在的に意識することでその刺激を好むという場合も多いのが事実です。CMをよく見たことでの商品購買や,今回の質問のようにCMやドラマのタイアップ曲を何度も聞いているうちに好きになるというのもそれに当たります。これらの現象は「知覚的流暢性の誤帰属」説とは矛盾するものです。

そこで,われわれの研究チームでは,単純接触効果が生起するには刺激への反復接触による概念形成および既知性が重要であると考え,一連の実験を行いました。従来の研究では同一刺激を反復呈示して学習―未学習項目の好意度を比較することによって論じられてきました。それに対してわれわれは,同一カテゴリーに属するさまざまな事例(たとえば寺カテゴリーであれば,個々の具体的な寺に相当)を呈示することによって,単純に同一刺激の処理効率の向上だけではなく,接触頻度と共通特徴に基づくプロトタイプ(抽象的な寺のイメージ)を中心とした概念形成と,典型的刺激に対する既知感の向上が介在し,好意度が上昇することを示しました(図)。

ただ,接触頻度と典型性が高ければ高いほどその刺激が好きになるかといえば,必ずしもそうではありません。刺激への好意的判断は刺激のもつ不確定性(予期できない要素の度合い)が最適な水準にあるときに最大になります。刺激への反復接触によって概念が形成され,典型的刺激への既知感が上がり,不確定性は減じられていくと好意度は上昇します。しかし,いくら好きな曲でも聞きすぎると飽きて嫌いになってしまうように,最適水準を超えると逆に好意度は低下していきます。「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」ということでしょう。

文献

松田 憲・楠見 孝(2002). 単純接触効果を支える表象形成過程の検討─概念の典型性が好意度評定と再認判断に及ぼす効果─ 日本心理学会第66回大会発表論集,637.

まつだ けん
京都大学大学院教育学研究科研究員。
専門は,認知心理学。
主な著作は,「サウンドロゴの反復呈示とメロディの親近性が商品評価と購買意図に及ぼす効果」(共著,『認知心理学研究』第4巻第1号)など。

心理学ワールド第36号掲載
(2007年1月15日刊行)