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心理学ってなんだろう
赤ちゃんがかわいいのはなぜ?
子どもを育てた経験がないのに,電車の中や街角で赤ちゃんを見かけると,つい笑いかけたりあやしたりしてしまいます。自分の子どもや親戚の場合だけでなく,初めて会う赤ちゃんもなぜかわいらしく思えるのでしょうか。容姿は赤ちゃんによってさまざまですが,かわいらしい赤ちゃんとそうではない赤ちゃんの違いはありますか。
A.梶川祥世
赤ちゃんのかわいらしさの要因の1つとして,外見の特徴すなわち「見ため」が挙げられます。動物行動学者コンラート=ローレンツは,ヒトだけでなくイヌやトリなど多くの生物に共通する赤ちゃんの形態的・行動的特徴を調べています。その特徴とは,「体に対する頭の大きさの割合が大きい,顔より頭蓋のほうが大きい(大きい額),目が大きく丸くて顔の中の低い位置にある,鼻と口が小さく頬がふくらんでいる,。体がふっくらして手足が短くずんぐりしている,動作がぎこちない」というものです。このようなベビーシェマと呼ばれる特徴が大人に「赤ちゃんらしい」というメッセージを送り,大人は思わず微笑したり手を差し伸べたりしたくなるのです。この赤ちゃんの特徴と大人のほぼ自動的な反応が組み合わせられているため,誕生後すぐに1人では生きられないほど未熟な状態である赤ちゃんが,大人による愛情行動を引き起こし世話や保護を受けることができるようになっています。
赤ちゃんは皆こうした赤ちゃんらしい特徴を備えていますが,赤ちゃんの外見の個人差に注目し,大きな目や頬といった特徴が顕著な赤ちゃんは大人から愛情反応を引き出しやすいのかどうかを調べた研究があります。実際にローレンツが述べたような形態的特徴が顕著な赤ちゃんは,親以外の大人から注目される時間が長く,「かわいらしさ」の評価が高いこと,月齢がより低く評価されることがわかっています。そして「かわいらしさ」の評価は,平均して11か月齢ころがピークになります。これは,誕生直後よりもむしろ運動能力が発達し活発に動き回るためにけがなどの危険が増加する月齢に,大人の注意をひきつけておくことがより重要になることに関係しているようです。
ただし上記に述べたような大人による評価や反応の違いは,複数の赤ちゃんの写真やビデオを比べて見るときに起こるもので,個別に1人ずつを見た場合には注目する時間に赤ちゃんによる違いはみられません。さらに特定の赤ちゃんに長く接しているほどに愛着が形成され,かわいいという評価は高くなっていくので,赤ちゃんのかわいらしさの個人差に対する形態的特徴の影響は,初対面の場合より小さいと考えられます。
また赤ちゃんのかわいらしさには,表情の影響もあります。笑っている赤ちゃんは泣いている赤ちゃんよりも,大人からかわいいと思われます。赤ちゃんが相手を選ばず反射的に微笑む能力をもって生まれてくることは,周囲の大人との愛着と社会的関係を構築していくうえで有効に機能しているのです。
文献
Hilderbrandt, K. A. , & Fitzgerald, H. E. (1983).The infant's physical attractiveness: Its effect on bonding and attachment. Infant Mental Health Journal, 4, 3-12.
山口真美(2003).赤ちゃんは顔をよむ─視覚と心の発達学─ 紀伊國屋書店
かじかわ さちよ
玉川大学学術研究所講師。
専門は,発達心理学。
心理学ワールド第37号掲載
(2007年4月15日刊行)