大学で学ぶ心理学
学部生・大学院生のための専攻ガイドブック
金坂弥起
訳者は本書を,心理学専攻生が座右の書とするべき一冊として位置づけた(「訳者あとがき」)。加えて,訳者ならびに担当編集者のもうひとつの本音は,心理学部や心理学科への進学を希望する高校生にも,入学後の自分自身をイメージアップするための「予習」として本書を読んでいただきたいということである。昨今,高大連携や初年次教育など,高校と大学を繋ぐ「シームレス」な教育実践が求められるようになってきた。ところが,監訳書『心理学をまじめに考える方法』(誠信書房)の「監訳者あとがき」でも問題提起したように,心理学教育においては,大学入学前と大学入学後との間には,シームレスとはほど遠い大きな陥穽が待ち受けていることを認めざるを得ないのである。そうした現状を前提にした本書がその陥穽をどれだけ埋め尽くせるかは,手に取ってくださった方々の評価を待ちたいところである。少なくとも,初学者に懇切丁寧な心理学教育を準備する一助にはなり得るであろう。本邦においても,アメリカのような心理学教育学会の誕生が待ち遠しい。
音楽知覚認知ハンドブック
音楽の不思議の解明に挑む科学
大串健吾
本書は,第1回音楽知覚認知国際会議(ICMPC,京都,1989)の引き受け機関として1988年に創立された音楽知覚認知研究会(後に学会)の創立30周年記念行事として,音楽心理学関連分野の研究の歴史,動向,現状などを解説としてまとめ刊行されたものです。3人の監修委員,6人の編集委員を含めた90人の執筆者による学会の総力を挙げた成果です。この国際会議はすでに世界各地で15回開催され,国内の研究発表会は毎年2回行われており,この分野の発展に寄与しています。本書の内容は,音楽の知覚・認知・感情についての音楽心理学的研究をはじめ,音楽学習と教育,音楽と脳,音楽と情報,音楽の演奏,音楽と映像メディア,音楽と健康・音楽療法,音楽と社会・産業,それにこれらの研究の土台となる音楽のための音響学,聴覚心理学から成っています。音楽の好きな学生,社会人,研究者の方々に興味のある章を読んでいただければ幸いです。また多くの参考文献もつけられており,大学の卒業論文や大学院生の修士論文のテーマ探しに大いに参考になると思います。
B. F. スキナー重要論文集Ⅰ
心理主義を超えて
三田地真実
私たちは自分の自由意志で行動していると信じて止まない生物種である。コロナ禍にあって,政治家が幾度となく私たちに「行動変容」を呼びかけるのも,意志の力で「新しい生活様式」を行えるという根拠なき信念があるからだろう。
これに対し,多くの実験結果を示すことで真っ向から「行動は環境との相互作用による」と主張し続けているのが,スキナーである。そのエッセンスを訳者として副題「心理主義を超えて」に込めた。
20世紀に影響を与えた心理学者として海外では著名なスキナーであるが,日本においては翻訳自体が多くないこと,またその主張が日常的直観─すなわち,意識や意志が行動を制御している─に相反することから,なかなか正確に理解されているとは言い難い。
本書は,スキナーの主要業績約30本を3巻シリーズにして出版する,その第一弾である。このコロナ禍において繰り広げられる様々な人間行動を行動分析学の視点から見直すと全く違う世界が見え,かつ本当の問題解決のためにはどう環境を制御していけばよいかの一助ともなると確信している。
職場学習の心理学
知識の獲得から役割の開拓へ
伊東昌子
本書は,就職し職場の成員へと向かう学生と,キャリア開発の過程にある職業人を対象に,「学び」と「熟達」に焦点をあてて書きました。人が職場に参入してから遭遇する多様な学びを,理論,方法論,データ,体験談を用いて,心理学的に解説しています。職業人にこそ学びの開発が求められる現代,またナレッジワーカーの活躍が期待される現代において,重要性が益々高まる領域です。
各章の主な話題は,組織で働く職業人はどのような学びに遭遇するか,どう成長して組織を動かすようになるか,熟達者の実践知研究法,適性と自己開発の関係,人と組織の学習の接面に潜む問題,女性の活躍と障壁です。
主要執筆者は企業内事業開発の実務経験があり,研究者と実務者の観点から解説しました。共著者の専門である臨床領域の職場で求められる学びも掲載しました。
職場に適応し他者と協働して新たな知を創造し,その過程のマネジメントも求められる現代,そこで生きキャリア開発を目指す方々や実践を支援する方々にも,ぜひ読んで頂きたいです。
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