公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

【小特集】

組織における変化への抵抗

三沢 良
岡山大学学術研究院教育学域 准教授

三沢 良(みさわ りょう)

Profile─三沢 良
2009年,九州大学大学院人間環境学府単位取得後退学。博士(心理学)。奈良大学社会学部専任講師などを経て2021年より現職。専門は社会心理学,産業・組織心理学。著書に『組織行動の心理学』(分担執筆,北大路書房)など。

外部の環境や社会の変動へ適応するために,組織には変化が求められる。その変化は,将来を見越して計画的に導入されることもあれば,予想していなかった突如の変動へ即応するために受動的に起こることもある。昨年来の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う職場環境や働き方の変化は,紛れもなく後者であろう。

いずれの変化にしても,組織内の成員にとっては,それまでの経験や知識,価値観の妥当性が揺さぶられる。成員の中には,変化を受け入れられず,抵抗を示す者が現れる。これを放置していると,組織は環境適応に必要な変化を円滑に遂げることが難しくなる。組織は大きなシステムだが,それを構成する成員が変容しなければ,組織自体の変革も成し得ない。

抵抗の様々な形態

変化への抵抗は,様々な形態で表出される。例えば行動としての抵抗は,能動的−受動的,明示的−隠蔽的の二つの次元で整理できる(Bovey & Hede, 2001)。能動的−受動的の次元は,変革に対する拒否や反対の意思を率直に表出する程度の違いである。表立った抗議は能動的な抵抗であるが,変革の取り組みに関与せず,傍観するのは受動的な抵抗にあたる。また明示的−隠蔽的の次元は,抵抗者の識別や,その行動を抵抗と認識・解釈することの容易さの違いである。表面的には方針に従うことを装いつつ,怠業や引き延ばし,必要な情報を出し渋るという行為が,隠蔽的な抵抗にあたる。

トップダウンで変革が行われる場合や前例踏襲主義の強い組織では,明白な形態で抵抗が表出されることは少ないであろう。行動しないことによる受動的な抵抗や,密かに変革を妨げる隠蔽的な抵抗が行われやすいと考えられる。表面的には抵抗していないから,一安心とはいかないのである。

また行動の表出に先行して,成員が心理的に経験する認知や感情面での抵抗も存在する。Oreg(2006)は,社会心理学の態度概念を参考に,成員の変化への抵抗を認知,感情,行動の三要素でとらえている。ここでの認知とは,成員が変化の意義や価値,変化に伴う組織と自身にとっての利益や損害に関する信念である。また感情面での抵抗には,変化に伴う不安,ストレス,フラストレーション,怒り,などの負の情動経験が含まれる。

変化へ抵抗する理由

組織の成員はなぜ変化に抵抗するのだろうか。その主な理由を以下に論じる。まず「既存の枠組みへの囚われ」である。日々の仕事の中で,成員は知識・経験を培い,働き方を習慣として確立している。仮に現状に問題点があったとしても,過去の成功経験から現状の利点の方を重視しやすい。慣れ親しんだ既存の枠組みを保持し,変化の受け入れによる自己否定を避けようとする。

次に「潜在的な脅威への不安」である。変化には,様々な不安や懸念が伴う(Erwin & Garman, 2009)。職務の内容や役割の変更により,裁量ややりがいを失う恐れがある。新しい技術の導入,人員配置,雇用制度等の変更は,地位や権限の失墜,雇用の喪失への不安を喚起する。変革導入後に仕事の負担が増加することも懸念される。さらに,新たな役割や職務で必要とされる技術や行動について,改めて学習しなければならないことへの不安も生じる。

「変革推進者への不信」も抵抗を発生させる。変革を推進する主体の意欲と能力を問題視し,変革を悲観的に考えるシニシズムが,成員の抵抗を促すことが報告されている(Stanley et al., 2005)。

抵抗の克服に向けて

組織変革の進展について,Lewin(1947)は組織を氷に喩えて,従来の固定化された価値観や行動を見直し(解凍),新しい価値観や行動を受け入れ(移行),新しい状態を確立して定着させることで実現される(再凍結)と論じた。変革の失敗事例の多くは,変化を導入する前の「解凍」段階に問題がある。つまり,組織に変化を円滑に導入するには,その必要性を成員が理解し,それを成功させる能力があると信じられるように変革へのレディネス(準備状態)を醸成する必要がある。

古くから知られる有効な方法の一つは,変革の計画と決定に成員が参加することである。近年の研究においても,成員の参加は変革の円滑な導入に資することが報告されている(Oreg et al., 2011)。

変革の推進者には,成員に危機意識を持たせることが求められる。変化の必要性に関する理解を促すために,現状のままでは組織の理想や目標を達成できないことを,その根拠とともに明確に示さなければならない。

ただし,危機意識を高めるだけでは,混乱を生じさせるだけで,変化への抵抗を硬化させかねない。Schein(2010/2012)は現状に留まることの不安(「生存不安」)を高めると同時に,変革導入後の未知の状態への適応に関する不安(「学習不安」)を可能な限り低減することが必要と論じている。この「学習不安」には,前節の変化に伴う潜在的な脅威となる不安が該当する。2種類の不安のバランスに配慮し,特に新しい技術や知識の学習が求められる場合には,成員に対し,それを補償するための研修やサポートを講じる必要がある。

また変革の推進者は,変革を通じて目指す組織のビジョン,それを実現するための道筋となる戦略・計画を明示する必要がある。一貫性のある変革の方針と施策の導入が重要である。これにより,成員は変化とどのように向き合い,何を行わなければならないのか,具体的な見通しを持つことが可能となる。いきなり全てを改めることは困難なため,変革に伴う新たな挑戦を段階的に経ていくことになる。小さな成功体験を積み重ねることで,成員の変革への効力感を醸成できる。変革の推進者がリーダーとして範を示し,変革型リーダーシップを発揮することの重要性も報告されている(Oreg & Berson, 2011)。

抵抗のポジティブな意義

本稿では,組織が環境適応する上での障壁として,変化への抵抗を議論してきた。しかし近年,変化への抵抗は,組織変革にポジティブな意義を持つことも指摘されている。最後にこの点について論じておきたい。組織に導入される変化は,必ずしも全てが完璧で正しいとは限らない。変革の計画や施策に改善の余地がある場合もある。このとき,成員は現状打破のための変革に積極的であるからこそ,具体的な方策について疑問や反対意見を示すことがある。Piderit(2000)は,成員の変化に対する反応を単に「抵抗」とみなすことで,導入しようとする変革の問題点に関する妥当な懸念を見逃してしまう危険性に警鐘を鳴らしている。変化への抵抗は,より適切な組織変革を行うための貴重な情報源にもなりうるのである。

文献

  • Bovey, W. H., & Hede, A. (2001). Resistance to organizational change: The role of cognitive and affective processes. Leadership and Organization Development Journal, 22, 372-382.
  • Erwin, D. G., & Garman, A. N. (2009). Resistance to organizational change: Linking research and practice. Leadership & Organization Development Journal, 31, 39-56.
  • Lewin, K. (1947). Frontiers in group dynamics: Concept, method and reality in social science; Social equilibria and social change. Human Relations, 1, 5-41.
  • Oreg, S. (2006) Personality, context, and resistance to organizational change. European Journal of Work and Organizational Psychology, 15, 73-101.
  • Oreg, S., & Berson, Y. (2011). Leadership and employees’ reactions to change: The role of leaders’ personal attributes and transformational leadership style. Personnel Psychology, 64, 627-659.
  • Oreg, S., Vakola, M., Armenakis, A. (2011). Change recipients’ reaction to organizational change: A 60-year review of quantitative studies. Journal of Applied Behavioral Science, 47, 461-524.
  • Piderit, S. K. (2000). Rethinking resistance and recognizing ambivalence: A multidimensional view of attitudes toward an organizational change. Academy of Management Review, 25, 783-794.
  • Stanley, D. J., Meyer, J. P., & Topolnytsky, L. (2005). Employee cynicism and resistance to organizational change. Journal of Business and Psychology, 19, 429-459.
  • Schein, E. H. (2010). Organizational culture and leadership, 4th ed. Hoboken, New Jersey: John Wiley & Sons. [エドガー・H・シャイン/梅津祐良・横山哲夫(訳) (2012). 『組織文化とリーダーシップ』 白桃書房]

PDFをダウンロード

1