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- 100号 「弱み」を「強み」に変える心理学
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巻頭言
78歳まで現役を振り返って
芝垣正光(しばがき まさみつ)
本稿執筆を大変光栄に思っている。現役で78歳まで研究と大学生活を送ったのを振り返る。研究の始めは福井大学教育学部で,心理学者・睡眠研究の先駆者だった藤澤清先生からポリグラフによる睡眠研究の手ほどきを受けた。東北大学大学院教育心理学専攻で松野豊先生の指導の下,「知的障害児の眠りと夢」の研究を始めた。その後就職し,カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部脳研究所,野田寬治先生の下で,サルを用いて眼球運動に伴う小脳片葉プルキンエ細胞(ユニット)活動の研究に従事した。次に愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所で自身の研究の他に,清野茂博先生の下で,ラットを用いてマーク・ローゼンツバイクの「豊かな環境・貧しい環境」の発展研究の手伝いをした。この間,岐阜大学医学部の渡邉悟先生の下で,ネコを用いて「視覚誘発電位による脳の働き」を調べた。律動的な閃光刺激を周波数の漸増および漸減の形で与えた場合に,出現する履歴現象の道筋(ヒステリシス)の違い,位相の変化から,脳にはかなり複雑な非線形を持った発信系があることが予想された。この論文が国際誌のElectoroencephalography and Clinical Neurophysiology(脳波と臨床神経生理)に掲載され,医学博士を授与された。その後,名古屋芸術大,富山大(65歳で定年退職),名古屋産業大,関西国際大(2022年3月退職)に勤め,障害児心理の研究に従事した。現在,非常勤で同朋大に勤めている。
ところで,筆者が数十年間調べてきた知的障害児の夜間睡眠中の夢は,同年齢の健常児に比べて少なかった。フロイトの夢の考察(「夢は昼間に起きている時に,見たり聞いたりなど経験したことの再現である」)から,知的障害児は健常児に比べて,昼間見たり聞いたりなどの経験が少ないので,その再現である夢を見ることも少なくなると考えられる。そこで,家族には,子どもたちにさまざまなことを出来る限り多く経験させるようにお願いした。そうすれば,子どもたちはその再現である夢をたくさん見ることになる。
人の心と行動を調べる心理学では,心理学本来の手法で研究を行うのが筋である。しかし,睡眠研究の第一人者である北浜邦夫先生に代表されるように,心理学は医学との融合で研究が進められている。かたくなに,脳の中はブラックボックスにして,人の心と行動を調べるには限界がある。ゆえに従来言われているように,心理学と他分野(医学など)が連携をして研究を進めて行くことが求められる。
Profile─芝垣正光
1975年,東北大学大学院教育学研究科教育心理学専攻修士課程修了。UCLA医学部脳研究所Staff. Res. Assoc.,愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所主任研究員,富山大学教授などを経て同朋大学社会福祉学部客員教授。専門は障害児心理学。医学博士。著書(分担執筆)にControl of gaze by brain stem neurons(Elsevier/North-Holland Biomedical Press),『不眠』( 同朋舎),『障害児の発達神経心理学』(青木書店),Avances en la investigación del sueño y sus trastornos(Siglo Veintiuno de España Editores), 編著に『現代心理学の基礎と応用』(樹村房)など。
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