ラテアートのすゝめ

徳岡 大(とくおか まさる)
Profile─徳岡 大
心理学(博士)。専門は教育心理学,心理統計教育。著書に『心理学統計法』『あなたの経験とつながる教育心理学』(ともに分担執筆,ミネルヴァ書房)など。
2年ほど前からラテアートを始めてみました。ラテアートは,ラテをいれるときに,ミルクの注ぎ方を工夫したり,液面をキャンバスに見立てて絵を描くものです。私がはまっているのは,ミルクの注ぎ方を工夫するだけで模様を描くフリーポアという技法を使うラテアートです。現在は,研究室にエスプレッソマシンを持ち込んで,一息入れたいとき,気分に合わせてラテを作っています(図1)。私一人では1日に何杯もラテを飲めないので,研究室を訪ねてこられた方や同僚に私のラテを飲んでもらうことで,ラテアートを描く練習回数を増やしています。

珈琲を好んで飲むようになったのは大学院生の頃からでしたが,カフェラテを好んで飲むことはなかったように思います。珈琲にミルクを入れると珈琲もミルクも薄まった気がしていました。おしゃれなものへの警戒心があったのか,ラテアートは写真映えを意識しただけの飲み物で,そんなにおいしいものでもないと思っていました。あまり印象のよくなかったラテアートでしたが,1杯のラテアートにはさまざまな技術が詰まっているという話を聞き,ちょっとだけ興味がわき,ものは試しと喫茶店でラテアートを注文してみることにしました。
初めて体験したラテアートは,見た目がツヤツヤと綺麗なだけでなく,非常においしいものでした。上層にあるなめらかな口当たりのミルクと,その下に隠れる珈琲とミルクの混ざった液体が,一口目から同時に口の中に入ってきます。蒸気によって空気を入れながら適度に温められたミルクは,砂糖を入れずともほのかに甘く,珈琲とミルクの混ざった液体は,それぞれ単独では味わうことのできない一体感のある味わいとなっていました。このときからラテアートの印象ががらっと変わりました。珈琲の楽しみ方としてカフェラテも加えてみたくなり,せっかくするならラテアートもできるようになってみたいと思いました。
機材や道具をそろえてさっそくラテアートに挑戦してみるのですが,アートを描く練習にはたどり着けず,ラテアートにさまざまな技術が含まれていることを身をもって体感しました。ラテアートするには,高い気圧を加えながら抽出する濃い珈琲であるエスプレッソと,空気を適量含ませながら温めたスチームドミルクが必要になります。エスプレッソマシンを使って,これらを用意することになるのですが,珈琲豆をちょうどよい細かさにしないと,エスプレッソが数滴しか落ちてこなかったり,ドリップした珈琲と変わらないようなエスプレッソが出てきてしまったり,空気を入れすぎて泡だらけのスチームドミルクができてしまったり,ラテアートを挑戦する入り口に立つために必要なことがいろいろとありました。始めるときに想定した以上に大変だとも思わされたのですが,うまくできると目に見えて見た目が変わり,質感が変わるせいか感じるおいしさも変わるので,それはそれで楽しくもあります。
ラテアートは,スチームドミルクをどのくらいの高さから注ぐのかによって,ミルクを浮かせたり,エスプレッソの下に沈みこませたりすることができ,ミルクを注ぐ強さによっても浮かび上がる模様が変わってきます(図2)。自分の手の動きによって,浮き上がる模様をコントロールできる感覚が,少し不思議で面白いです。イメージ通りに模様を作れるようになったら,オリジナルのラテアートを考えて,作ってみたいものです。

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