【特集】
保健医療の現場から①

槙 貴浩(まき たかひろ)
Profile─槙 貴浩
公認心理師・臨床心理士。東北福祉大学大学院修了。専門は動機づけ面接,家族心理教育,認知機能リハビリテーションなど。
仕事の現場
宮城県立精神医療センターという,仙台市の南に隣接した名取市の公立の精神科単科の病院に勤めている。院内には急性期病棟,慢性期病棟,児童思春期病棟があり,また精神科救急に対応している病院のため,幅広い年齢層,精神疾患を抱える人々が日々,通院・入院している。
私は大学院修了後に新潟の精神科病院に4年勤めた後,2011年から現職で働き始め,15年目になる。
心理職の役割とやりがい
私の現在の主な業務は,心理検査や心理面接を中心に,精神科デイケア,家族心理教育プログラム,医療観察法関連の支援などである。精神科医療では,心理職のみでクライエントへの支援を行うことはない。必ず担当の医師がいて,看護師,精神保健福祉士,作業療法士などの多職種による支援チームで関わる。チームで助け合い,支え合えることは,精神科医療の仕事の魅力の一つである。とはいえ心理職がクライエントに関わる場面は個室での一対一が多い。そのため自分の関わりのあり方を直接見てもらえる機会は少なく,心理職としての自分を点検していくことは簡単ではない。自分とクライエントの関係性において起こっていることを俯瞰する視点を養うことが必要である。時には,クライエントとの関係で不協和が生じることがある。自分が感情的になっていると特に自己点検に苦しさが伴う。心理職自身もスーパービジョンや他職種との交流などから支援を受けたり,セルフケアをすることが大切と感じている。
心理職のやりがいについてまず頭に思い浮かぶのが,クライエントやご家族からの感謝や支援チームからの労いの言葉で,受けた時は素直にうれしいと感じることが多い。ただし,それをやりがいと言ってよいかは迷う。過剰な感謝の言葉の背景には,支援への不安や期待が強くなり過ぎているなど,関わりがうまくいっていない場合がある。また他の職種の人からの労いの後に,大変な仕事を任されたこともある(笑)。
あらためてやりがいに感じるのは,出会ってきたクライエントから教わってきたことだ。私たちは心理学の専門家として関わるが,その人の心の専門家はやはりその人自身である。クライエントが歩んできた道を伝えてもらい,大変な環境で生き抜く工夫,知恵,心の持ちようを聞くと自分の世界が広がるように感じ,またその人の心の変化に携われるのは,他の仕事では得がたい貴重な経験と思う。
この領域で心理職を目指す人へ
私は学部では経済学を学び,大学院から心理学の世界に入った。当初は知識の少なさに苦労したが,この選択を後悔したことはない。全ての学びや経験が今の仕事に活きていると感じる。しかし単純に人生経験が豊富であればよいと言いたいわけではない。自分の経験を心理学的な知識と関連させて理解し,それをクライエントの支援に活かす想像力や柔軟性が重要だと感じる。これらを高めるために人に関するさまざまな知識を得たり,刺激を受ける経験に恵まれることが役立つと思う。
また学び始めるタイミングも大事だと思う。自分の中の問題意識,人への関心,他者を支援したいというエネルギーが内から自然と湧き上がった時こそ主体的に学び始められると考える。そのタイミングに遅すぎることはないと感じている。この領域に関心を持ち,共に学び,支えあえる心理職が増えることを願っている。
文献
- *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。
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