公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

ここでも活きてる心理学

キャンプでも活きている心理学

八街市立川上小学校 教諭

上代 繁(かみしろ しげる)

Profile─上代 繁
千葉大学教育学部卒業。放送大学大学院修了。千葉県公立学校教員として小学校に勤務するとともに,日本ボーイスカウト千葉県連盟四街道第2団のカブ隊長,ボーイ隊長,ベンチャー隊長を歴任。

四街道2団30周年記念トーテンポールの前で
四街道2団30周年記念トーテンポールの前で

月曜日から金曜日は小学校の教員として勤務している私ですが,土,日ともなれば,制服に着替え,ボーイスカウトの指導者になるのです。私は,第16回日本ジャンボリー(16NJ)に12歳から17歳のスカウト36名を引率する隊指導者の一員(副長)として参加しました。以下,8泊9日のキャンプにおける心理学を活用した取り組みについて紹介します。

先行研究によれば,3泊以下より4泊以上,舎営より野営,提供食より自炊,穏やかな天候よりも厳しい天候が「生きる力」を育てるそうです。適度なストレスを含んだ活動内容が,「生きる力」を向上させるために効果的であると考えられますが,ストレスが程度を超えると不適応が生じやすくなります。そこで,私たちは,1日おきに中学生版精神健康調査票(JHQ-12:井上果子〔2012〕中学生版精神健康調査票JHQ-12の作成『横浜国立大学教育学研究科教育相談・支援総合センター研究論集第12号』より)を使用して,ストレスの度合いをアセスメントし,その結果に基づいたサポートを行うこととしました。

スカウトの中の上級班長,班長,次長はリーダー,それ以外をフォロアーと位置づけました。JHQ-12のスコア4以上をストレス高群,2と3をストレス中群,0と1をストレス低群として大会期間中の各群の頻度を集計し,リーダーとフォロアーで比較してみました。当初キャンプ経験が少ないフォロアーが高いストレスを受けるだろうと予想していましたが,実際には,キャンプ経験の多いリーダーのストレスが,高くなる傾向が見られました。

スカウトの日々の変化を見てみましょう。JHQ-12のスコアを見ると,フォロアーは次第にストレスが低下する傾向があるのに対して,リーダーは4日目に最も高くなりました。4日目は1時間に50mm以上という豪雨に遭遇し,装備品が水没するような被害があった日です。厳しい気象条件でスカウトの疲労はピークとなりました。テントの中の荷物の置き場所や濡れタオルの干す場所などを巡ってトラブルもありました。リーダーは,話し合いの中心となったり,調整役となったりする中で,次第にストレスが高くなってしまいました。指導者チームは,アセスメント結果を考慮して,4日目以降はリーダーに対するサポートを中心に行いました。特にJHQ-12のスコアが4以上の高ストレス群には個別面談をしたり,休息を与えたりしました。

スカウト(次長)の感想文には,「はじめの2日間は,正直あまり楽しくなかった。5日目になった時,家に帰りたくないなと思い始めるようになりました。最後の日,帰りたくなかったです。色々な人と会えたのに,もう帰っちゃうなんて,いやでした」と書かれていました。スカウトが次第にキャンプ生活に適応していったことがわかります。今では,突然のゲリラ豪雨に見舞われ,キャンプサイトが田圃のようになってしまったこと,土砂降りの雨の中で,雨乞いの踊りを踊っていたスカウトのことなど,懐かしい思い出として笑顔で語り合っています。

今後も,充実した活動を展開していくために心理学を積極的に活用していくつもりです。

PDFをダウンロード

1