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心理学ライフ
生ハム手作りのすすめ
伊東 裕司(いとう ゆうじ)
Profile─伊東 裕司
1982年,慶應義塾大学文学部助手。同大学専任講師,助教授を経て,2000年より現職。専門は認知心理学,司法心理学。著書は『認知心理学を知る』(共編,おうふう),『記憶の心理学』(分担執筆,放送大学教育振興会)など。
食欲旺盛なティーンエイジャーの頃,母が家を留守にすることが多かったので空腹を満たすために簡単な料理をしていました。その後大人になってお酒を飲むようになった頃,友人の下宿に大勢集まった際に大学院の先輩のSさんが「男も酒の肴くらい自分で料理できなくちゃね」と言いながら何かを料理してくださったのに刺激を受け,少しちゃんとした料理をするようになり,必要に迫られて週に三度は夕食を作るような時期を経て,いつしか「趣味は料理です」と言うような大学教員になっていました。独断と偏見(と言いながらかなりの賛同を得る自信はあります)ですが,心理学の研究者なんて何か変なことに凝ったりする人が多い,その例に漏れず,手作りソーセージや手打ちパスタ,ビーフジャーキーなどを作って,人に来ていただき食べていただいて,「えーっ,これ手作りなんですか。すごい!」などと言われて悦に入っております。
そんな料理の中で,家に来ていただいて召し上がっていただくだけではなく,何かの折に家でスライスして持っていき評判を博しているのが生ハムです。人呼んで「伊東ハム」。伊藤ハムではありません。
生ハムを作ると言うと,よく,「家で生ハムなんて作れるんですか?」と尋ねられますが,意外と簡単です。天井から豚の足1本を吊るしておけるスペースさえあれば……というのは冗談で,いつも500グラム程度の豚のロースかモモの塊を二つ買ってきて,冷蔵庫の中で作っています。肉に塩と胡椒,少量の砂糖を擦り込み,一日置き,浸透圧で食材の水分を取るシートにくるんで3〜4週間もおけば(その間,シートは二度ほど交換します)食べられ,その後は冷凍庫で保存すれば,1〜2ヵ月は保存できます。出来上がった段階で燻製をかけてもよし,そのままでもまったく問題ありません。
こうして作った生ハムは,1年以上熟成させて作る市販のものとは別の食べ物と思ったほうがよいかもしれません。主な違いを述べると,まず市販のものより生っぽい感じがします。これは好き嫌いが分かれるかもしれませんが,生ハムが好き,という方には概ね好評です。次に多くの市販品より塩味はまろやかです。衛生上塩分を控えることはしませんが,それでも長期保存が前提の市販品よりは塩分濃度は低いのかもしれません。最後に,亜硝酸ナトリウムのように発がん性が心配される添加物は一切入っていないので,安心して食べることができます。
生ハム作りの良いところは,ほとんど手がかからないことです。仕込むのに20〜30分,そのあとは3回ほどシートに包む作業がありますが,これは1回5分もかかりません。それでいて食べていただいた人に手作りだと言うと驚いてもらえ,美味しいと言ってもらえるのですから。これが手作りソーセージや手打ちパスタだと,そうはいきません。時間もそこそこかかり,準備や片づけも面倒で,休みの日などに「やるぞ」と決意を固めないとなかなかできません。
簡単に作れると書きましたが,一つだけちょっと熟練を要する工程があります。それは薄くスライスする工程です。多くの市販の生ハムも薄くスライスして売られていますが,より生っぽいので,同程度か可能ならもう少し薄くスライスしたほうが美味しくいただけます。厚く切るとニッチャニッチャした食感で食べられません。冷凍したものを,少し時間をおいて柔らかくなりかけたところを切るのが楽ですが,これは慣れるしかないでしょう。失敗率や所要時間の対数は練習回数の対数に対して線形に減少するといいますので,最初にある程度の失敗を覚悟すればすぐに上達します(その後はなかなかですが)。失敗して厚く切れてしまったものや,端のほうのスライスしにくい部分は,適当に細かく切ってスープなどに入れると美味しく召し上がれます。
忙しい時期でもあまり手をかけずにでき,美味しく人にも喜んでいただける,そしてワインとの相性は抜群,研究の合間に試みてみられてはいかがでしょうか。それも面倒,という方は,「いいワイン用意したから,持って来て!」と声をかけていただければ持参できるかもしれません。
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