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私の出前授業
高校生が心理学に魅力を感じる授業とは?
矢島 潤平(やじま じゅんぺい)
Profile─矢島 潤平
久留米大学大学院比較文化研究科後期博士課程満期退学。臨床心理士,公認心理師,指導健康心理士。別府大学大学院文学研究科臨床心理学専攻教授,別府大学臨床心理相談室室長,大分県臨床心理士会副会長,大分県DPAT運営委員会委員を兼任。専門は臨床心理学,精神神経内分泌免疫学。著書は『健康のための心理学』(分担執筆,保育出版社),『ストレス科学事典』(分担執筆,実務教育出版)など。
最近,高大連携の推進に伴い,大学教員が,高校生に出前授業や進路セミナー説明会を行う機会が増えています。大抵は,これから進路を決めようとしている1,2年生が対象になります。私も年に5回ほど高校に出向いていますが,当然ながら心理学に限らず様々な分野の教員(専門学校や自衛隊の方など大学以外の関係者も)が参加していますので,他の分野より心理学に少しでも多くの高校生に興味を持ってもらいたい思いで話しています。今回は,高校での出前授業の一端を紹介させていただきます。
高校生に対する出前授業の目的
私が授業をするにあたって,一番心がけていることは,一人でも多くの高校生が心理関係の学部に進学したいと思ってもらえるような話題を提供することです。特に,本年度より公認心理師の養成が始まったこともあり,例年より高い関心を持っている高校生も多く,少し追い風になっています。インターネットで公認心理師のことを調べて,具体的な質問をする高校生も少なくありません。質問に対しては,適切かつ理解しやすいように話をする工夫が必要です。出前授業は,50分間と大学の講義より短くなっています。そのため私は,具体的にイメージしやすく,そして高校生が参加しやすい楽しい授業を目指しています。
高校生は心理学をどう捉えているか
最初に,「心理学って,どんな勉強をすると思いますか?」と質問すると,「カウンセリング」や「心を研究する」という声が圧倒的です。多くの高校生は,「心理学」イコール「カウンセリング」と思っているようで,漠然とカウンセラーになりたいと考えているようです。大分県は,震災や北部九州水害などに遭遇したこともあって,「こころのケア」に注目されていることも一因かもしれません。高校には,スクールカウンセラーが配置されており,実際にカウンセラーと接する機会もありますが,仕事内容までは詳しく知らないようです。身近なカウンセラーがどんな仕事をしているかなど雑談で触れると興味を持って授業に参加してもらえます。
卒業後の進路と,取得できる資格の説明
高校生と保護者は,心理学を学んだ後の進路に興味を持っています。給料は?勤務形態は?など様々なことを知りたがっています。なので,授業の初めのほうで,本学大学院を修了して病院で臨床心理士として勤務している修了生の仕事の内容を紹介します。例えば,外来患者への心理面接や発達支援,鑑別診断補助としての心理検査,精神科デイケア,アウトリーチなどを挙げて丁寧に説明します。事前に修了生に「大学の時に特に勉強したこと」などを聞いておき,生の声を高校生に届けるようにしています。
心理学を学んで取得できる資格の説明も必須です。学部4年で認定心理士を取得でき,大学院2年で臨床心理士や公認心理師の受験資格を得られることや資格試験についても簡単に触れるようにしています(図1)。
第一印象は楽しく
授業の第一印象は,科目に関係なく大切です。高校生の気持ちをつかむための題材を何にするかは本当に悩みます。幸いにして心理学には,パブロフの犬,つり橋研究,監獄実験など多くの有名な研究があります。これらは,メディアや映画等で取り上げられ,高校生も知っていることが多いです。私はよく,「だまし絵」を使います。ルビンの壺など様々な図を提示して,「何に見えますか?」と質問して,参加してもらいます。終わりにちょっとだけもっともらしく「図と地」の説明をしますが,何より体験を重要視しています。ちなみに,図と地の説明には,スマホの写真を加工するときの機能を使うと注目してもらえます。
カウンセラーの仕事,事例紹介をする
前述したとおり,高校生はカウンセリングに興味を持っているため,このテーマは必須です。はじめに,カウンセラーはクライエントの悩みに直ぐアドバイスするのではなく,親身に話を聞き(傾聴),否定しない(受容)ことが基本的態度であることを説明します。以下は授業の抜粋です。
クライエントはカウンセラーに出会うまでに,友だちなどから色々なアドバイスをもらって困っています。困っている人にあれこれアドバイスするとどうなるでしょう?もっと困ってしまいます。どんな話でもじっくり聞いてくれると,皆さんも安心しますよね。このように信頼関係ができて,カウンセリングが成立するのです。……
次に,架空事例「犬が怖い人」をとりあげて,認知行動療法的な関わりを紹介します。カウンセリングによって,考え方の視点を少し変えることで不安を取り除くことができると説明をした上で(図2:実際はこんなに簡単ではありませんが……),以下のように事例を紹介します。
相談内容:幼い頃に犬に吠えられた。それ以来,犬に吠えられると思って近づけない。
カウンセリング:かわいい小型犬を連れてきて,吠えないという経験をしてもらう。つまり,「吠える犬が怖いだけで,必ずしも犬は怖いわけではない」ということを理解してもらう。
まとめ
高校生に心理学の授業を行う私の流れを紹介しました。心理学のいいとこ取りの授業で批判を受けそうですが,再度強調したいことは,私が考える出前授業の目的は,高校生に心理学に興味を持つきっかけ作りです。心理学の本質は,大学入学後に十分教示できます。限られた時間の中で,身近な心理学,面白い心理学など高校生が興味を持ってもらえる内容を授業に取り入れて,進学してもらうきっかけになればと切に願っています。
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