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心理学ライフ

趣味について

坂上 貴之
慶應義塾大学 名誉教授

坂上 貴之(さかがみ たかゆき)

Profile─坂上 貴之
1984年,慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。文学博士。慶應義塾大学文学部で助手,助教授,教授を歴任し,2019年に定年退職。専門は実験心理学(学習・行動),行動分析学,行動的意思決定。著書は『行動分析学事典』(共編著,丸善出版)など。

原稿の締め切りというのはいつも瞬く間に迫ってくる。決して締め切りに追われるのは私の趣味ではない。そもそも趣味とは道楽や娯楽などと同様,仕事や職業(勉学)としてではない「楽しみ」としての人間の活動を指す。あるサイト(http://mikakukyokai.net/2016/11/23/hobby/)を覗くと,好感度の高い趣味とそうでない趣味とがあるらしい。前者には順に料理,食べ歩き,ランニング(スポーツ),読書,音楽・楽器,写真,旅行(ドライブ)など,後者には笑いを取る目的もあるのか,パントマイム,狂言,引っ越し,アイドル,自分探し,地元めぐり,女子会,などが並ぶ。

また別のサイト(https://tech-camp.in/note/careerchange/51806/)では,企業が面接で趣味を聞く理由として「趣味の内容から人間性を推し量るため」と「趣味を業務に活かせる可能性があるため」とある。それとわかった途端,自分の趣味を開陳することが恐ろしくなった。ここは料理とか,食べ歩きといっておくべきか……しかしそれでは読者は承知しまい。そこで今から10年ほど前に自己紹介用に作成した「趣味の坂上」というスライドを元に自分の趣味を控えめに語ろう。

多くの友人や学生は,私がめちゃくちゃに歩くことを知っている。自分が勤めていた大学(田町)から品川,目黒,新橋,銀座はもとより,早稲田や本郷まで歩くことはよくある。休みには,横浜駅に近い自宅から大学まで歩くこともあるが,5時間かけて一体何だという気持ちにいつもさせられるのも確かである。しかしおかげで東日本大震災の晩は,何の問題もなく帰宅できたし,旧街道や低山をめぐる旅も,スローなfast hikingも楽しくこなしている。散歩が高じてこのような趣味となったのだが,最近では8時間くらい歩くことも苦ではなくなったから,あちこちの立ち飲み屋巡りやクラフトビール醸造所巡りなども楽しめるようになった。これは歩くと呑むの合体系趣味であろう。

乗り物も好きである。自転車は今でもまだ4台有しており,うち3台が折り畳みである。残りの1台もマウンテンバイクでありながら,輪行にして持ち運ぶ。電車に持ち込む時は,少なくともネットで乗り換えを検索するような野暮はしない。あくまで紙の時刻表と青春18きっぷとの旅である。ただ,最近は歩くことが主になり,こちらの頻度は下がってしまった。

下手な横好きということわざがあるが,それを絵にかいたようなものが楽器に触る趣味である。決して演奏とは言わず,ただ弄ってみたいのである。ドラム,尺八,10ホールズのハープ,クロマチックハーモニカ,鍵盤ハーモニカ,フルート,ピッコロ,ウインドシンセ,キーボードなど。ただこの趣味は,現在仕事化を企んでおり,運動学習の新しい展開,もしくは認知症対策の切り札として,デビューさせたいと思っている。

実は下手な横好きは楽器にとどまらない。絵や書も好きで,後者は最近ご無沙汰であるが,前者はペン書きでのスケッチなど,まだ病気は治っていない。カメラにも一時はのめり込み,ローライフレックスやライカをぶらさげ120㎜,36㎜フィルムでパチパチやっていた時代がある。その出発は立体視に嵌ったことで,立体カメラの購入に始まり,2台のカメラを雲台に距離を離して載せての撮影,現在はデジタルの立体カメラへと移行している。これは知覚系合体か?さすがに銀塩フィルムをいじる時間も資金もなくなってきたが。

最後の紹介は本についての趣味だろう。商売関係の本はさておき,自分の愉しみのための本の蒐集は比較的控えめである。写真と連動した裸眼立体視に関わる写真集や書物,粋・洒落・艶をテーマとする江戸以降の大衆文学,歌舞音曲,吉原,講談,大道芸などの本(時に変体仮名本も),川柳・俳句・警句・毒舌などの短詩文学,エスペラント語の様々な書物,自然地理や地図に関わる書物(これも時には裸眼立体視と関係する)。これら蒐集本はほとんどが自分でやってみることと合体している。

しかしこれらの趣味はよくよくみると好感度の高い趣味に入っているではないか! だがそんなことで気を許してはならない。どんな趣味も度を越せば人はやっぱり引いてしまうからだ。結局,趣味について人はあまり多くを語ってはならないのであろう。

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