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新たにテレワーク(在宅勤務)をする人へ,心理学者からのアドバイス
(Psychologists’ advice for newly remote workers)

By ザラ・グリーンバウム 2020年3月20日

原文はこちら


企業が新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延を遅らせようと職場を閉鎖するこの時期,上司と部下の双方がより効果的に仕事できるよう,産業・組織心理学者からアドバイスをします。

Psychologists’ advice for newly remote workers

新型コロナウイルスの蔓延を遅らせるために,多くの人が自主的に,もしくは要請を受けて隔離生活を送っている中,会社はテレワークを実現しようと試行錯誤しています。企業が事業を継続し,経済が回り続けるためには,生産的なテレワークが欠かせません。また,日常業務を継続することは,隔離生活を送る人にとって刺激になるかもしれません。しかし,テレワーク経済への早急な移行は、簡単ではありません。

「たとえあなたが普段からテレワークをしているのだとしても,今は非常時なのです。」と,フロリダ国際大学で経営学の教授を務める R. ガジェンドラン博士は言います。「まず,仕事を以前とは違ったものに感じる可能性を考慮すべきでしょう。」

例えば,従業員には,気を配らないといけない子どもや家族がいるかもしれません。従業員たちは,自分の健康,親や祖父母の健康,収入の安定などを心配しているかもしれません。自宅に閉じこもっている間に,彼らは,落ち着きを失い,イライラしてくるかもしれません。

「上司は部下の負担が大きいことを認識しなければなりません」とガジェンドラン博士は言います。「それは単なる、普段どおりだが遠隔で行う作業,ではありません。それは,存在の危機のような何かを感じながらのテレワークなのです。

心理学の研究は,この突然の変化の中で,初めてテレワークをする人や,あらたな要求をなんとかこなそうとする経験豊富なテレワーカーに,テレワークのあり方に関する洞察を提供します。

「テレワークにとって,これはある意味画期的な瞬間です。テレワークは何年もかけて普及してきましたが,新型コロナウイルスの大流行でもたらされた突然の要請は,危機に瀕しても生産的に働き続けるために,過去の教訓から学ぶ機会を与えてくれます 」と,産業・組織心理学者である,レンセラー工科大学の T. ゴールデン博士は言います。「パニックになるのではなく,過去に学んだ教訓を有効に活用するときなのです。」

本稿では,社会的隔離が続く中,上司と部下が効率よく仕事をするヒントを紹介します。

障害を最小限に抑える

まずは,家中の雑音や活動から離れた仕事場所を選ぶことから始めましょう。理想的にはドアを閉められる部屋が望ましいです。次に,仕事に集中できるよう,これらの雑音から精神的に距離を置くようにします。ゴールデン博士は,家族と話し合って,みんなで静かにしておく時間や休憩時間,そして,どのような場合なら仕事を中断させてよいかを確認するよう勧めています。

もちろん,パンデミックにまつわるストレスは,集中を難しくします。ニュースや情報を遮断する時間を設けて,危機から離れて「充電」するようにしましょう。例えば,本を読んだり,外を散歩したりすると良いでしょう。また,毎朝数分間,会社や関係する人々に対する自分の貢献を(肯定的に)考えるのもよいでしょう。

「例えば,私は今,オンライン授業をしています」とガジェンドラン博士は言います。「オンライン授業は学生にとって学ぶ機会であるだけでなく,生活の混乱が続く彼らの息抜きの場にもなっています。加えて学生は,オンライン授業を通して物事に主体的にかかわっている感覚(自己統制感)を得ることもあります。」

ガジェドラン博士は,仕事と育児のやりくりのために,同僚や上司にその難しさを伝えたり,早朝や深夜など気が散らない時間帯を確保してそのときに大事な仕事をしたり,できる限り配偶者やパートナーと協力して育児をすることを提案しています。

目標と境界を設定する

仕事や課題をどこまで達成したいのか,毎日の目標を設定しましょう。必要に応じて上司と協力して目標を設定します。これらの目標を同僚や家族と共有してみるのも一考です。

「ときには,その日に何を達成するかを公言することで,自分に責任を課すこともできます」とゴールデン博士は言います。

いくつかの研究によると,テレワークの人は,職場で働く人に比べて,より多くの時間働き,その結果,家庭と仕事との境界が曖昧になる傾向にあることが示されています。

「職場で仕事をしている場合,始業時間と終業時間は自然に決まっています」とガジェンドラン博士は言います。「テレワークでも同じような境界とルーティンを用意することが大事です。」

毎日同じスケジュールを守り,できる限り,就業時間が終わったらメッセージやメールのチェックをしないようにしましょう。

コミュニケーションプランを立てる

上司と部下の双方が,進捗予想や発生した問題を積極的に伝え合うべきです。例えば,インターネットの接続状況や携帯電話の電波が悪いなど,新しい仕事環境が原因で課題遂行に問題が生じたときは,上司に伝えましょう。

「あらたにテレワークする人の上司は,いつ,どのようにコミュニケーションをとるかについて具体的なプランを決め忘れることが多いのです 」とゴールデン博士は言います。

情報や報告,分析などを共有する場合には,メールでのやりとりが最適かもしれません。しかし,チームで複雑な情報を共有する場合には,電話やビデオ会議で話し合うようにしましょう。相手とリアルタイムにやり取りできるメディアを使用することで,より迅速に伝達でき,また誤解が生じにくくなるとガジェンドラン博士は言います。

社会的なつながりを求める

テレワーカーは,職場で働く従業員に比べて,社会的にも仕事上でも孤独を感じやすい傾向にあります。その上,「社会的隔離」措置により,何百万人もの労働者が仕事以外の対面的な社会的サポートシステムからも切り離されるため,こうした孤独な状態は今後さらに悪化すると考えられます。

「テレワークを成功させるためには,他の同僚や上司,顧客とのつながりを維持することが重要です」とゴールデン博士は言います。「在宅勤務をしていると,自分は無人島で働いているようなものだと考えたくなるかもしれません。テレワーカーは互いに社会的,専門的な支援を提供し,職場では確保されていたような他者とのつながりや相互支援体制がテレワークでも再現されるよう努力する必要があります。」

上司は,電話会議やビデオ会議を使った非公式な会話の機会を設けることで,部下同士の健康的で,そして相互に助け合えるような関係を維持することができます。また,会社は,新型コロナウイルス関連ニュース専用,あるいは時事問題やオフィスアプリの更新情報,個人的な話,物品調達や助言の依頼など,いろいろなテーマについて話ができる場所をオンライン上に設けてもよいでしょう。


新型コロナウイルス(COVID-19)への対処法に関する,アメリカ心理学会(APA)による他のアドバイスについては,こちらを参照してください。日本心理学会の特設サイトはこちらです。


この記事は,アメリカ心理学会(American Psychological Association: APA)公式Webサイトに掲載された記事 "Psychologists’ advice for newly remote workers" を,アメリカ心理学会の許諾を得て日本語に翻訳したものであり,翻訳の質や正確さの責任は日本心理学会広報委員会にあります。なお,この記事をAPAの許諾なく複製・再配布することを禁止します。ご紹介くださる際は,必ずこのページを引用して下さい。

This material originally appeared in English as [Greenbaum, Z. (2020). Psychologists’ advice for newly remote workers. https://www.apa.org/news/apa/2020/03/newly-remote-workers?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=apa-pandemics&utm_content=new-remote-workers]. Copyright 2020 by the American Psychological Association. Translated and Adapted with permission. The American Psychological Association is not responsible for the quality or accuracy of this translation. This translation cannot be reprinted or distributed further without prior written permission from the APA.



    日本語訳(協力:日本心理学会広報委員会)
  • 藤島 喜嗣(昭和女子大学人間社会学部)
  • 樋口 匡貴(上智大学総合人間科学部)
  • 平石 界(慶應義塾大学文学部)
  • 三浦 麻子(大阪大学大学院人間科学研究科)