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新型コロナウイルス(COVID-19)に関わる偏見や差別に立ち向かう
(Combating bias and stigma related to COVID-19)

原文はこちら

    日本語訳(協力:日本心理学会広報委員会)
  • 藤島 喜嗣(昭和女子大学人間社会学部)
  • 樋口 匡貴(上智大学総合人間科学部)
  • 平石 界(慶應義塾大学文学部)
  • 三浦 麻子(大阪大学大学院人間科学研究科)

コロナウイルスとともに広がる偏見,差別を止めるには

Combating bias and stigma related to COVID-19

歴史的に見て,伝染病やパンデミックは,偏見や差別を誘発しがちです。かつては,エボラやMERSのような病気がそうであり,現在では新型コロナウイルス(COVID-19)が該当します。新型コロナウイルスの流行後,アメリカでは,アジア系と思われる人々に対する偏見,嫌がらせ,いじめを報道するニュースが増えています。

ウイルスの起源は中国の特定地域に関連するようですが,特定の人種や民族で感染や拡散のリスクが高いわけではありません。

新型コロナウイルスを中国や中国国内の特定地域に関連付けること,例えば「チャイナウイルス」や「武漢ウイルス」などと呼称することは,偏見や差別を助長することになります。そのため,世界保健機関(WHO)は,伝染病を特定地域に結びつけることを強く反対し,すべての政府機関がその使用を控えるよう求めています。

なぜ偏見への取り組みが重要なのか?

何十年にもわたる研究の結果,差別が性的マイノリティや人種マイノリティの心身の健康を損なうことが明らかになっています。偏見や差別の対象となった人々は,伝染病やパンデミックの際に特に弱い立場におかれます。この点は,彼らや他の人々をより大きな危険にさらす可能性があります。元から差別されている人々が,さらなる差別を恐れて,病気の症状を隠しかねないからです。彼らは必要なときに医療を受けようとしないかもしれません,さらに孤立を選択するかもしれません。これらは,彼らの健康を危険にさらすことにもつながります。

さらに,偏見の対象である人々は,無保険,または十分な保険の対象になっていなかったり,(訳者注:たとえば言語の問題などによって)社会文化的に適切なケアを受けられなかったり,医療制度の問題に直面している可能性が高いと考えられます。これらはすべて,最終的にはウイルス拡散の抑制を難しくします。

私たちができること

WHOは,政府,市民,メディア,発信力のある人々(インフルエンサー),そして地域社会が,偏見や差別が広がらないよう対抗策を講じることを勧めています。そのためのステップは,以下のとおりです。

「事実」を広める

正確な情報がないと,人々は偏見やステレオタイプ(固定観念)の影響を受けやすくなります。幅広い層の人々へ正確な情報を行き渡らせるためには,明確で簡潔,そして,それぞれの文化に沿った,複数の言語による情報伝達が必要です。特に情報が届きにくい,社会から排斥されている人たちを意識することが大事です。

社会的に影響力を持つ人たちを巻き込む

こうした適切な情報伝達の模範例となり,伝染病を特定の地域や集団と結びつける取り組みをやめさせる上で,大企業のリーダー,議員,著名人,宗教指導者などの役割はとても大きくなります。社会的に影響力を持つ人たちが,偏見の対象となっている人々との積極的な交流を目に見える形で示すことは,とても効果的でしょう。

感染経験者の声を広める

新型コロナウイルスに感染しても,ほとんどの人々は回復します。彼らの経験を聞くことで,一般市民は安心を得ることができます。感染経験者が私たちのコミュニティの多様性を反映していればさらに効果的です。同様に,現場で働く医療従事者をたたえることで,彼らに対する批判や偏見を減らすことができます。

広報資料で民族の多様性を示す

リスクを減らすために多様なコミュニティが協力しあっている様子を示すことで,お互いの心身の健康のために団結し,協力していることを力強く伝えることができます。その一方で,新型コロナウルスの場合,アジア系アメリカ人への過度の注視は有害かもしれず,慎む必要があります。

倫理的な報道の推進

感染者個人の行動や,ウイルスを拡散させた「責任」に焦点を当てたメディア報道によって,感染者が差別の対象となる恐れがあります。ニュースの視聴者は,予防法,注意すべき症状,受診時期などについての責任ある報道を,メディアに要求しなければなりません。

根拠のない話,うわさ,ステレオタイプを正し,偏見を助長する言説に異議を唱える

私たちには,偏見を助長する言説を正し,根拠のない話に異議を唱える責任があります。選挙で選ばれた議員は,伝染病を特定の人々や地域に結びつけるような言説をしてはならないし,私たちにはそのような言説に異議を唱える責任があります。同様に,人々が情報源に不信感を抱いている局面にあって,事実とうわさを峻別することが重要です。



偏見,差別は公衆衛生上の脅威です。これらは,偏見の対象となる人々の心身の健康や福祉にダメージを与えるばかりではなく,現在および将来の伝染病の封じ込めを困難にします。私たち全員に,公衆衛生にきちんと取り組む責任があります。手を洗い,適切な社会的距離を維持することが大事なのと同じく,多様な人々やコミュニティを受け入れることもまた,重要な公衆衛生上の実践なのです。

心理学の専門家および一般市民のための新型コロナウイルスに関するそのほかの情報は Pandemicsのウェブページ を見てください。なお,日本心理学会で一部の記事を翻訳・提供しています。


この記事は,アメリカ心理学会(American Psychological Association: APA)公式Webサイトに掲載された記事 "Combating bias and stigma related to COVID-19" を,アメリカ心理学会の許諾を得て日本語に翻訳したものであり,翻訳の質や正確さの責任は日本心理学会広報委員会にあります。なお,この記事をAPAの許諾なく複製・再配布することを禁止します。ご紹介くださる際は,必ずこのページを引用して下さい。

This material originally appeared in English as [American Psychological Association (n.d.). Combating bias and stigma related to COVID-19. https://www.apa.org/topics/covid-19-bias]. Copyright 2020 by the American Psychological Association. Translated and Adapted with permission. The American Psychological Association is not responsible for the quality or accuracy of this translation. This translation cannot be reprinted or distributed further without prior written permission from the APA.