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心理学ってなんだろう

なぜ時間を長く感じたり,短く感じたりするのですか?

楽しい時間はあっという間に過ぎるのに,退屈な時間はとてつもなく長く感じることがあります。同じ長さの時間なのに,どうして長く感じたり短く感じたりするのでしょうか。また,楽しい時間を長くすることはできるのでしょうか。



A.一川 誠

時計で計測される時間はいつでもどこでも同じ間隔を保ち,同じように進行するものなのに,感じられる時間はさまざまな要因によって長くなったり短くなったりします。感じられる時間の長さに影響を及ぼす要因には複数あると考えられています。これまでの研究によれば,時間経過に対する注意,身体的代謝,体験される出来事の数,感情の状態などを挙げることができます。こうした要因は,今のところ,共通する何らかの原理を通して感じられる時間の長さを変動させるのではなく,それぞれ個別に感じられる時間の長さに影響を及ぼすものと考えられています。


楽しい時間はあっという間に過ぎるのに,退屈な時間はなかなか過ぎない。このように感じた経験は誰もがもっていることでしょう。この感覚を引き起こしている主な要因は時間経過に対して向けられる注意であると考えられています。時間の経過に注意が向けられる頻度が高いほど時間がより長く感じられるのです。逆に,時間の経過に注意が向けられる頻度が低い場合や,時間の経過以外の事柄に注意が向けられる場合には,時間は短く感じられます。


この時間経過に対する注意の要因を操作することで楽しい時間を長くすることは難しいことです。楽しいことをしているときに,その時間を長く感じるために時間経過に注意を向けようとすると,当の楽しいことに集中できないということになってしまいます。これでは,楽しみが損なわれてしまうことになるでしょう。楽しい時間を長く感じさせるためには注意以外の要因を利用することを考える必要がありそうです。


感じられる時間の長さに影響を及ぼす要因には身体的な代謝を挙げることもできます。同じ長さの時間であっても,代謝が激しいときには長く,逆に代謝が落ちているときには短く感じられます。


時間知覚が身体的な基礎をもつものだとすると,身体的代謝が激しいときには,時間の長さの知覚の基礎にある過程も活動が激しくなります。たとえば時計が同じ1分間を示す場合(図左)であっても,通常よりも速く心的時間が刻まれることによって,1分間よりも長い時間が経ったように感じられることになります(図中)。逆に,身体的代謝が落ちているときには,時間の長さの知覚の基礎にある過程の活動も落ちているため,1分間がいつもより短く感じられます(図右)。


運動すると身体的な代謝は激しくなります。運動を楽しみながら代謝を盛んにすれば,その運動に注意を集中していたとしても,楽しい時間を長く感じることができるかもしれません。試してみてください。



いちかわ まこと
千葉大学文学部行動科学化准教授。
専門は,実験心理学。
主な著書は,『時計の時間,心の時間』(教育評論社),『大人の時間はなぜ短いのか』(集英社新書)など。


心理学ワールド第48号掲載
(2010年1月15日刊行)