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表彰

2020年度 日本心理学会賞 特設ページ

2020年度 日本心理学会賞 特設ページ

本特設サイトでは,2020年度の日本心理学会国際賞・優秀論文賞・学術大会特別優秀発表賞(2019)・シチズン・サイコロジスト奨励賞の受賞者・受賞論文や,受賞者による挨拶を掲載しております。

例年,日本心理学会年次大会の前日にプレコンベンション学術交流会を開催し,各賞授賞式や受賞者による講演等を行ってまいりました。しかし今年は,新型コロナウィルスの感染拡大防止のため,本会の開催を中止することになりました。そこで授賞式に代わるものとして,本サイトにて受賞者の皆様の業績や論文等を,会員の皆様に広くご紹介いたします

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選考経過

国際賞選考委員会は,第1回委員会(メール会議)において本年度もこれまでと同様に推薦を受け付けることを決定し,2019年11月中旬に学会ホームページで公募を開始した。その結果,2020年1月14日の締切までに国際賞特別賞に1件,同功労賞に2件,奨励賞に12件(他薦7件,自薦5件)の応募があった。「国際賞選考規則」および「国際賞審査手続きに関する申し合わせ」に基づき,2月21日に第2回選考委員会を開催,特別賞および功労賞の申請内容を確認するとともに,奨励賞については,応募が昨年に引き続き数が多かったため,各委員が2,3件を担当して評価することを決定した。第3回選考委員会(4月4日)においては,特別賞および功労賞の申請内容を精査した結果,苧阪 満里子氏が優れた国際的な研究業績により特別賞に,また,古賀 一男氏と仲 真紀子氏が日本の心理学の国際化への貢献から功労賞に該当すると判断され,授賞が決定した。奨励賞については,選考規則において「国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者」に授与することが定められている。今回は,各委員が候補者の論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容評価等に基づいて「総合評価」を行った結果を基礎に,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に審査を行った結果,鹿子木 康弘氏,野内 類氏,髙橋 康介氏,楊 嘉楽氏を受賞者とすることが決定された。


特別賞



Mariko Osaka
氏名:
苧阪 満里子
所属:
大阪大学 名誉教授/(国研)情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 主任研究員

評価理由

苧阪 満里子氏はワーキングメモリ(作動記憶,作業記憶)のはたらきとその神経基盤についての研究で国際的にこの分野を牽引してきた。特に実行系機能に関してワーキングメモリの個人差を生む神経基盤を調べる研究を多数発表した。リーディングスパンテストを1992 年に本邦で初めて開発した。ワーキングメモリは前頭前野の活動で維持されていること,注意の制御がワーキングメモリの個人差を生じさせていることを世界に先駆けて報告した。認知機能の加齢衰退にはワーキングメモリ機能維持が重要であること,ワーキングメモリの個人差が安静時ネットワークに依存することも発見した。個人差の知見は多数引用されており,国際的に高い評価を受けている。このように苧阪氏が精力的に研究を続けるようすは後進を強く勇気づける。苧阪氏は複数の国際誌や学会の編集委員や各種委員として尽力された。こうした幅広い活躍は国際賞特別賞を授与するにふさわしいものと評価された。

受賞者のコメント

このたびは,日本心理学会,国際賞特別賞の受賞を受けまして,大変光栄なことと思っております。日本心理学会への入会は,京都大学大学院教育学研究科に入学したころで,その後40年間ほど学術大会などに参加してきました。その間,多くの諸先達の先生方の研究に触れることができたことは,とても有難いことと感謝いたしております。

私の主な研究は,今回の大会の国際賞特別賞受賞講演「ワーキングメモリとその脳内基盤:ワーキングメモリをめぐるこころの探求」で紹介させていただきました。

概要は,目標とする行動に対して必要な情報を保持しながら遂行するこころの働きであるワーキングメモリ(working memory)は,思考や学習などの高次認知の基盤であり,特にその中核機能である実行系機能は,必要な情報への注意の焦点化と不必要な情報の抑制制御など,その司令塔としての重要な役割を担っていることを指摘しました。そして実行系機能を評価するテストであるリーディングスパンテスト(reading span test)により明らかになった個人差をもとに,その特徴と個人差引き起こす脳内基盤について,前頭葉を中心とする複数の脳領域の活動とその領域間の機能的結合がかかわることを紹介しました。

このような研究の成果が,日本心理学会の会員の皆様の今後の研究に役立つことを願っております。


功労賞



Kazuo Koga
氏名:
古賀 一男
所属:
元名古屋大学・環境医学研究所宇宙医学実験センター

評価理由

1992年,宇宙開発事業団(現JAXA)がNASAのスペースシャトル・エンデバー号を利用して日米共同実験(ふわっと’92)を実施したが,その際,12の生命科学実験の一つとして「宇宙空間における視覚安定性の研究」が採択された。古賀 一男氏はこのプロジェクトの代表者を務め,全体的な計画の設定や実験の準備,現地指示などあらゆる局面で多大な貢献をされた。そこで得られた成果は,宇宙科学に対する心理学からの貴重な貢献として国際的に高く評価されており,日本の心理学の歴史に大きな足跡を残したといえる。また,古賀氏は,二度にわたる日本・スイス実験心理学研究者合同セミナーの企画立案および運営を通じて両国の心理学研究者交流の活発化に尽力されたほか,欧州眼球運動学会の学会誌 Journal of Eye Movement Research の副編集長や第13回大会の主催大会委員として同学会の活動に大きく貢献してきた。選考委員会においては,以上をもって国際賞功労賞を授与するに相応しい業績であると評価された。






Makiko Naka
氏名:
仲 真紀子
所属:
立命館大学

評価理由

仲 真紀子氏は,国内の心理学の国際化を促進させるのみならず,世界において日本の心理学のプレゼンスを向上させ,国際的に心理学研究の発展に寄与されてきた。まず,横浜で開催されたInternational Congress of Psychology (ICP) 2016において,Emerging Psychologists Program Committeeの委員長を務め,国内外の若手育成に大きく貢献され,その記念事業は,現在では本学会の国際活動の柱のひとつとなっている。そして,East Asian Association for Psychology and Law第12回大会(大会委員長)とSociety for Applied Research in Memory and Cognition第13回大会(実行委員)の日本開催に大きく寄与し,国際的な研究交流を促進されてきた。さらに,専門とされる法と心理学の分野では,国内組織のみならず,国連アジア極東犯罪防止研修所や環太平洋諸国において司法面接の講義や研修を行い,弱者の人権擁護に尽くされてきた。加えて,日本心理学会の国際担当常務理事,International Union of Psychological Scienceの代議員,国際誌の編集委員等を歴任され,また,国際的な研究業績を多く上げられており,仲氏の多大なる国際的貢献は本学会国際賞功労賞にふさわしい。

受賞者のコメント

このたびは栄誉ある賞をいただき,どうもありがとうございました。10代の終わりに心理学の世界に招き入れられ,あっという間に40数年経ってしまいました。この短い時間,そして限られた資質,能力でできたことはとても少なく,感謝と嬉しい気持ちに加え,なにか申し訳ないような気持ちを感じております。

楽しく関わらせていただいた役割,没頭してきた研究は,それだけですでに報われていますが,2010年から携わることとなった ICP 2016 Yokohama での Emerging Psychologist Program やScientific Program,日韓中三カ国国際シンポジウム等に加え,もしもこの賞に目撃証言や法と心理学研究,司法面接にかかわる20―30年の仕事が少しでも含まれていましたら,この上なく嬉しく思います。

これらの小さな仕事を見出してくださった学会の皆さま,人生を通し導いてくださっています指導教員,すばらしい同僚,先輩,後輩,学生,実務家の皆さま,そして友人,家族に心より感謝申し上げます。どうもありがとうございました。


奨励賞



Kanakogi Yasuhiro
氏名:
鹿子木 康弘
所属:
大阪大学

評価理由

鹿子木 康弘氏は,これまで乳幼児における他者理解や道徳性の問題など社会的認知の発達に関する研究を幅広くおこなってきており,こうした研究の成果が第1著者論文4編を含む23編の国際誌論文として結実している。その一部は認知科学や発達心理学のトップジャーナルに掲載されている一方で,国際的評価が高い科学総合誌に掲載されているものもあり,専門領域を越えて強い関心を集めてきたことがうかがえる。また,ほとんどの論文は日本人研究者との共著となっており,鹿子木氏が日本人研究者の国際的な研究活動を推進する大きな力となっていることが推察される。今後,日本の心理学界を牽引しさらにその国際性を高めることに資する人材であり,奨励賞を授与するに相応しいと判断された。

受賞者のコメント

この度は国際賞をいただき,とても名誉のあることと嬉しく思っています。私がこのような喜びを得ることができましたのは,私を指導してくださった良き先生方や,ともに学び・議論し,お互いを高めあえる関係にある先輩・後輩に恵まれたおかげです。この場を借りて心から感謝申し上げます。また,今回の受賞を励みに,さらに一層研究に精進する所存です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。






Rui Nouchi
氏名:
野内 類
所属:
東北大学加齢医学研究所

評価理由

野内氏は,高齢者の認知機能や精神的健康に関する研究に取り組んできており,研究対象者が健康な高齢者・肺がん高齢者患者・若年者と広いという点や,心理学の研究実践における透明化が叫ばれる中で事前登録を行ったうえで研究を実施する点,心理学と医学の境界領域において突出した成果を挙げている点において,高く評価することができる。この10年間の外国語による筆頭論文が20本,分担112本,合わせて132本あり,チームで執筆した論文も少なくないものの,最も引用されている論文は300回(Google Scholar調べ)を越えるなどハイインパクトの論文を執筆しており,若手・中堅の研究者の中では存在感を放っている。論文執筆のみならず,多様な国々との共同研究,海外の教育機関等での講演,国際誌の編集や査読にも積極的に関わっており,国際的なリーダーシップをとっていくことが期待される。

受賞者のコメント

この度は,日本心理学会国際賞(奨励賞)を受賞することができ,非常に光栄です。私は,適応的な心の働きの個人差の解明や認知的健康を促進する方法の開発と実証を行っています。基礎的な研究を中心に行っていますが,私は,常に誰かの役に立ちたい,心理学で社会をより良くしたいと常々意識しています。

この意識は,「Do for Others」を教育理念とする明治学院大学で芽生え,3人の恩師との出会いにより高まり,確固たるものになりました。カウンセリング/コミュニティ心理学を専門とされる明治学院大学の井上 孝代 教授にご指導いただきながら,健康について個人レベルとコミュニティレベルで考える必要性を学びました。その後,中央大学の兵藤 宗吉 教授の指導のもと,精緻な実験を積み重ねることで心の働きを明らかにする認知心理学/認知科学的手法を学びました。学位取得後,東北大学の川島 隆太 教授の研究チームに合流し,高齢者の生活を改善させる生活介入の実証研究や様々な企業との共同研究を行う機会に恵まれ,研究の成果を社会に還元することの困難さと意義を教えていただきました。

このような賞を頂くことができたのは,多様な研究を行う機会・環境を与え,サポートしてくださった先生方と共同研究者と研究室の皆さまと同窓の先輩・友人と家族のおかげです。この場を借りて,深く感謝いたします。今回の受賞を励みに,一層努力を重ね,社会の役に立つワクワク・ドキドキするような心理学研究を進めていきたいと思います。






Kohske Takahashi
氏名:
髙橋 康介
所属:
中京大学

評価理由

髙橋 康介氏は,これまで認知科学や知覚に関する研究で多くの成果をあげており,それらは英語論文32編(第1著者19編)として海外の主要雑誌に掲載されている。とくに知覚に関しては,錯視図形とその生起メカニズムを扱った論文4編が海外の専門誌に掲載されており,考案された錯視図形(「曲がり盲」など)は国内外の錯視コンテストで度々受賞するなど高い評価を受けている。この他にも認知科学領域における研究はもとより,アフリカにおいてフィールド実験を試みるなど,積極的な姿勢で多数の優れた業績をあげている。以上,全体的に見て髙橋氏の研究業績は国際賞奨励賞授与に相応しいものと評価された。髙橋氏がこれまで研究で示してきた関心の広さと国際性は日本の心理学界全体の活性化に資するものであり,今後のさらなる活躍が期待される。

受賞者のコメント

この度は日本心理学会国際賞奨励賞という大変名誉ある賞を頂きありがとうございます。初めて発見した錯視がBest Illusion of the Year Contest ファイナリストとして選出されたのが2010年のことでした。それから約10年,「曲がり盲(Curvature blindness illusion)」などの新しい錯視の発見や錯視・知覚に関する実験研究の発表を通して,数多くの国内外の研究者と知り合うことが出来ました。また小学校や市民講座などで錯視や知覚について紹介する機会も頂いております。このような交流は今の私にとって,錯視研究が図らずも与えてくれた財産です。

錯視・知覚研究者としてはまだまだ未熟な身であり,日々研究を進める中で先人たちの洞察の深さに圧倒されること数しれず,知覚の謎は自分の中でどんどんと膨れ上がっております。今回の受賞を励みに,錯視・知覚研究にさらに邁進する所存です。今回は本当にありがとうございました。






Jiale Yang
氏名:
楊 嘉楽
所属:
中央大学

評価理由

楊 嘉楽氏は,乳児における質感知覚と色知覚に関する発達研究に取り組み,知覚恒常性を獲得する前段階の乳児の知覚に関して,成人の意識に上らない視角や照明による画像変化に気がつける“pre-constancy vision”の概念を提案した。また,発達初期の乳児が成人より変化に富んだ世界を知覚することを世界で初めて明らかにした。さらに,言語獲得以前の乳児において「カテゴリカルな色」の神経表現が後側頭領域に存在し,色カテゴリの認知システムが言語システムとは独立であることを初めて証明した。インパクトファクターの高いトップレベルのジャーナルを含む国際誌に発表した論文が12件(そのうち筆頭著者論文が10件)ある点も評価できる。さらには,業績のみならずキャリアの国際性においても群を抜いており,今後の活躍に期待が寄せられる中堅研究者である。

受賞者のコメント

この度,日本心理学会国際賞奨励賞という栄誉ある賞を頂きまして,大変光栄に思います。審査にかかわってくださった審査員の先生に心から深く感謝しております。私がこのような賞をいただくことができましたのは,私の指導教官である中央大学の山口 真美 先生,および共同研究者である日本女子大学の金沢 創 先生,東京大学の本吉 勇 先生,東北大学の栗木 一郎 先生のご指導のおかげです。また,実験実施にあたり山口研究室の皆様には多くのサポートをいただきました。皆様に感謝申し上げます。今回受賞させていただいた研究は,知覚発達,すなわち知覚システムの生成過程を検証しようと試みたものであり,発達初期の乳児が大人と異なる特殊な視覚情報処理をもつことを明らかにしました。私たちの知覚システムは,外部世界を効率よく把握しています。この精巧な知覚システムがどのように作り上げられるかを検討することは,乳児の知覚世界を理解するのみではなく,成人の一般的な知覚システムを理解することにもつながります。今回の受賞を励みに,これからも知覚の発達過程を明らかにするよう精進してまいります。私は,留学生として日本の大学で博士号をとった後,日本学術振興会のサポートにより,イギリスに2年間留学しました。国内外問わず活発的な研究環境に身を置くことによって,様々な研究アイデアを得ることができました。これらの経験をいかし,私なりの還元として今後も日本の心理学の国際的研究と教育に貢献していきたいと思います。

 

選考経過

2020年度優秀論文賞選考委員会は規程により編集委員6名,石井 敬子,上瀬 由美子,小島 康生,古村 健太郎,守谷 順,山田 剛史各氏,理事および代議員経験者5名,梅田 聡,齊藤 智,島津 明人,白井 述,矢藤 優子各氏と,坂上 貴之理事長,原田 悦子編集担当常務理事が加わり構成された。なお,規程により委員長に梅田氏が指名された。

対象となった論文56編は,2019年度に完結した「心理学研究」第90巻第1―6号の原著論文,研究資料,“Japanese Psychological Research”第61巻第1―4号のOriginal Articleである。

選考委員会は,2020年4月4日(土)の第1回委員会で,理事・代議員,編集委員,優秀論文賞選考委員の推薦および編集委員会における評価を参考にして29編を第1次審査の候補として選び,第1次審査を行った。6月20日(土)の第2回委員会で第2次審査の候補を14編にしぼり第2次審査を行った。7月25日(土)の第3回委員会で,第1,2次審査の結果を総合して判断し,最終的に以下の2編を優秀論文賞とした。

なお,審査は日本心理学会優秀論文賞規程および優秀論文賞審査に関する申し合わせに則り行った。

委員が著者となっている論文を審査するケースが有ったが,当該委員以外が審査を行い,審議の場では,当該委員に退出を求め,厳正に審査を行った。


なぜ非行集団に同一化するのか――集団間関係に基づく検討――

Tomohiro Nakagawa

中川 知宏

Naoshi Nakamoto

仲本 尚史

Masaya Kuniyoshi

國吉 真弥

Takemi Mori

森 丈弓

Tsuyoshi Yamanoha

山入端 津由

Ken-ichi Ohbuchi

大渕 憲一

評価理由

少年犯罪において,非行集団への同一化は非行リスクを高める一因となる。そのため,非行集団への同一化を規定する要因を検討することは,非行の抑止にとって重要である。本論文は,非行集団への同一化を規定する要因として,非行少年の差別経験と集団境界透過性(個人が社会的カテゴリー間を移行可能であると期待する程度)に注目した。少年鑑別所に入所していた男子少年を対象とした調査が行われた。その結果,同級生,教師や警察,地域住民から差別を受けたことがあると感じている少年は,差別を受けたことがないと感じている少年よりも非行集団への認知的同一化が高くなっていた。また,教師や警察から差別を受けたことがある場合,集団境界透過性が低い(非行集団から別な集団への移行可能性がない)少年は,集団境界透過性が高い少年よりも,集団への同一化が高くなっていた。本研究の特筆すべき点として,少年鑑別所に入所していた男子少年を調査対象者としているというデータの貴重さが挙げられる。また,非行少年の属性や内的要因ではなく,差別や集団境界透過性といった非行少年を取り巻く環境に注目している点も特筆すべき点である。そのため,考察で述べられた非行への再統合的な非難の表明や少年の居場所づくりといった非行抑止の対策が説得力を持ち,大きな実践的示唆を提供するものとなっている。本論文はこれらの点が評価され,優秀論文にふさわしいと判断された。

受賞者のコメント

この度は,優秀論文賞という身に余る賞を頂き,大変嬉しく思っています。本論文は,なぜ少年たちが非行集団に同一化するのかという問題を,非行集団を取り巻く集団間関係から分析を試みたものです。その結果,同級生や学校の教師,警察から差別的な扱いを受けていると感じている少年ほど非行集団の一員であるという感覚を強める傾向がみられ,これは特に,非行集団以外に人間関係を持たない少年たちの間で顕著でした。従来は,非行集団に所属する少年たちの相互作用に着目されがちでしたが,本論文は,他集団と非行集団の間での集団間葛藤が同一化を強め,ひいては非行を促す可能性があることを示すものでした。検討課題は尽きませんが,本論文が非行集団に身を置く少年たちについて考えるための一助となれば幸いです。

そして,本論文の掲載に至るまで共同研究者の先生方には多大なご尽力を頂きました。特に,少年鑑別所に入所している少年たちから調査協力を得るにあたって,多くのご配慮を頂きました。ただ,とても残念なことに共同研究者の一人である國吉 真弥 先生が6月に急逝されました。コロナ禍の中で,葬儀に参列することもかないませんでしたが,本論文が優秀論文賞を受賞したことをきっと喜ばれていることと思います。最後になりますが,本論文の審査を丁寧にしてくださった査読者の先生方にお礼申し上げます。これを励みに,研究に一層精進してまいりたいと思います。





Positive and Negative Affects Facilitate Insight Problem-Solving in Different Ways: A Study with Implicit Hints

Ryo Orita

織田 涼

Masasi Hattori

服部 雅史
(photo: Ryudai Abe)

評価理由

本論文は,洞察問題解決における感情の影響を検討したものである。これまでの知見によると,肯定的な感情と否定的な感情のいずれも問題解決を促進しうるが,肯定的な感情によって直観的かつ暗示的なプロセスの促進される一方,否定的な感情によって努力を要しかつ明示的なプロセスが促進される。著者らは,その過去の知見に基づき,暗示的な(例えば,閾下呈示によって再認するのが難しいような)ヒントによって洞察問題解決が促されることに着目した上で,そのような暗示的なヒントによる効果は肯定的な感情が喚起されているようなときに顕著になることを予測した。大学生を対象とした2つの実験では,参加者に対し肯定的,否定的,中性的な感情のいずれかを喚起させた後,ドゥンカーの放射線問題に解答するよう求めた。加えて実験1では,感情を喚起させる前に,放射線問題と同じ構造の「ヒント」問題,または異なった構造の「誤解を与える」問題に解答するよう参加者に求めた。その結果,正答率が極端に低く,そこでの期待された効果は見られなかった一方,典型的な誤答の割合に着目したところ,「誤解を与える」問題と比較して事前の「ヒント」問題によって誤答の割合が低くなる傾向は,肯定的な感情を喚起された場合においてのみ有意に見られた。実験2では,正答率を上げるために実験デザインが改良され,事前問題の代わりに,参加者が放射線問題に解答する直前にそのヒントまたは無関連な動画が閾下で呈示された。そして予測と一致し,無関連な動画と比較してこの暗示的なヒントによって正答率が高くなる傾向は,肯定的な感情が喚起された場合のみに見られた。また2つの実験において,否定的な感情が喚起されたときには,事前の問題や暗示的なヒントの有無にかかわらず,全般的に誤答の割合が低く,正答率が高くなった。これは,否定的な感情によって思考が精緻化されることにより,暗示的なヒントによる効果が減衰することを示唆する。この結果は,新奇性が高くユニークであるのに加え,感情がどのような思考法を促すかに関する既存の理解を前進させ,読者の関心を大いに惹きつけるものである。加えて,最初の実験における問題点を改善し,綿密な実験デザインを伴った次の実験においてより明確な結果を見出すという研究の組み立て方は,心理学研究における定石を踏んでおり,後学にとって大いに参考になる。このように本研究は,見出された知見およびその鮮やかな実験的手法の両面において,その意義が高く評価されるものである。以上を踏まえ,選考委員会は本論文を優秀論文として選出した。

受賞者のコメント

このたびは優秀論文賞にご選出くださり誠にありがとうございます。大変光栄に存じます。貴重なご意見をいただいた査読者および編集委員のみなさまをはじめ,本論文に携わっていただいた方々に心より感謝を申し上げます。

本論文は,研究プロジェクト「創造的認知の潜在性と意識的コントロール」(代表:服部雅史)の一環として行われた二つの実験の結果をまとめたものです。このプロジェクトでは,潜在手がかり(本人の気づきを伴わずに獲得されたヒント情報)が,洞察問題解決や創造的思考に及ぼす影響を調べてきました。研究を始めてすぐの頃は,潜在手がかりが問題解決を促進する現象がさまざまな洞察課題で観察されたのですが(e.g., Hattori, Sloman, & Orita, 2013, Psychonomic Bulletin & Review),その後に同様の手続きで行った実験では,潜在手がかりが問題解決を妨害するケースもあり,当時の我々は大いに頭を悩ませました。その苦闘のなかで,解決者の内的な状態変化やパーソナリティ特性が手がかりの利用のしかたに影響を与えるのではないかという考えに至り,その検証の第一弾として感情状態の影響を調べたのが,本論文に記載した二つの実験です。実験の結果,ポジティブ感情とネガティブ感情はどちらも洞察問題解決に影響しますが,そのプロセスも効果も異なることが明らかになりました。潜在手がかりの利用が観察されたのは,ポジティブ感情時のみでした。ポジティブ感情は,注意を拡散したり連想的思考を促したりすることが知られていますが,外から与えられた(潜在)手がかりを利用したアイデア探索も生じやすくすることがわかりました。

その後は,解決者の個人差特性(e.g., パーソナリティ,認知コントロール)の影響に焦点を当てた研究を行い,現在も継続しています。今後もこの受賞を励みに,人間の思考や感情の解明および心理学の進展に貢献できるよう邁進したいと存じます。

選考経過

日本心理学会第83回大会の一般研究発表について,役員ならびに学術大会委員会委員の審査により,15件に特別優秀発表賞,35件に優秀発表賞を授賞することを決定した。

※優秀発表賞については,こちらをご覧ください。


発表者名 ○長谷川 晃,杣取 恵太,西村 春輝,服部 陽介,国里 愛彦
タイトル 衝動的行為と反すうが抑うつを強める過程――行動的衝動性に対する潜在変数アプローチを適用して――
受賞者のコメント
 この度は学術大会特別優秀発表賞を頂くことができ,大変光栄に感じております。今回の研究では,大学生を対象とした実験を行うことにより,衝動性の1側面である衝動的行為(習慣的な行動を抑制する困難さ)が,ストレスフルな出来事の経験頻度の増加を介して反すうを導くことが示唆されました。本研究の特徴は,衝動的行為を測定する3つの課題を用い,3課題のパフォーマンスから構成される潜在変数を分析の対象とした点にあります。心理的変数を測定する課題のパフォーマンスには,測定の対象とした構成概念とは異なる要因も反映されています。このような誤差の影響を緩和し,測定したい変数を抽出するための方法として,本研究で採用した潜在変数アプローチが提案されています。本研究においても,個々の課題の成績を用いた場合よりも潜在変数を用いた場合の方が,予想された変数間の関連が強まることが示されました。
 潜在変数アプローチを用いるためには,少なくとも150名程度のデータを取得する必要があります。今回は1人の参加者につき1時間程度掛かる実験を行いましたので,1つの研究室の構成員だけでデータ収集を行うことは困難です。本研究では3大学の先生方にご協力頂いたおかげで,必要なサンプルサイズを確保することができました。多くの時間を割いてご協力下さった共同研究者の先生方に感謝を申し上げます。
 今回は,私自身が作成した実験課題を用いた最初の研究となりました。共同研究者の先生方からご助言を頂きながら課題の作成を行い,自分自身で実験を行いましたが,その中で新たな研究のアイディアが得られました。やはり研究を行うことによって初めて分かることがあります。今回の受賞を励みにして,今後も有意義な研究を行えるよう,日々精進していきたいと思います。どうもありがとうございました。

発表者名 ○原田 勇希
タイトル 中学校理科の観察・実験において研究不正は生起しうるのか?その背景は何か?―――認知された教師の態度と考察に対するコスト感に着目して――

発表者名 ○鈴木 敦命,江見 美果,石川 健太,小林 晃洋,大久保 街亜,中井 敏晴
タイトル 顔で人柄がわかると信じる人の顔特性推論は実際に正確か
受賞者のコメント
 この度はこのような栄誉ある賞をいただき,誠に光栄です。この発表は,専修大学の大久保 街亜 先生の研究室,国立長寿医療研究センターの中井 敏晴 先生(現:大阪大学)の研究室との共同研究です。多くの人の協力の成果が高い評価として報われ,大変嬉しく存じます。この研究の目的は,顔から種々の特性を判断できると信じる人(人相学的信念の高い人)が実際にそうした判断に長けているかを明らかにすることでした。そこで,過去の研究(Okubo, Kobayashi, & Ishikawa, 2012)で信頼性(協力的傾向)が測定された人物の顔写真を用いた実験を行い,人相学的信念の高い人ほど実際に顔写真から正しく信頼性を判断できるかを検討しました(n = 83)。結果として,人相学的信念の高さと顔信頼性判断の正確さの間に正の相関(r = .385)が観測されましたが,詳細に分析すると,この相関関係は顔信頼性判断の容易な顔に限定されていました。この結果から,我々は,人相学的信念の高い人による顔信頼性判断は正確であるというよりもステレオタイプに忠実なだけかもしれないと推察しています。今後の研究では,この推察や他の可能性を検証していく予定です。これから研究を進めて行く上で大いに励みになる賞をいただきましたこと,深くお礼を申し上げます。

発表者名 ○Davis Brian R.
タイトル 日米における性的指向に関する本質主義的思考――異文化主題分析――

発表者名 ○山田 怜奈,久藏 孝幸
タイトル 聴覚障害者の障害受容とアイデンティティに関する研究――手話によるライフストーリー・インタビューを通じて――
受賞者のコメント
このたびは大変名誉な賞をいただき,ありがとうございます。
 先輩の勧めで,2018年度の大会で「学部生プレゼンバトル」に出場した際,いろいろな方の発表を見て「来年は自分も本発表を」という思いを持ちました。このときには実はまだ半分も書けていないような卒業論文でしたが,そこから試行錯誤して書いたものがこの発表の元になっています。
 学会発表は初めてのことで,右も左もわからない状態での挑戦でしたが,ポスター前に来てくださった方々から「抄録を見て,発表を聞きたいと思っていた」「話してみたかった」と声をかけていただき,とても嬉しかったのを覚えています。
 反省もたくさんあり,受賞通知をいただいた際は,本当に自分が受けていいのかと迷いもありましたが,激励の意と捉えお受けすることにいたしました。
 この発表のテーマにもなっている聴覚障害の人たちは,どのような特性があるか,どのような配慮が必要か,まだ社会的認知が低い状態です。彼らとともに時間を過ごす中で,聴覚障害者の持つ豊かな世界観や,あまり知られていない彼らならではの苦悩,アイデンティティの多様性に触れ,これをもっとたくさんの人に知ってほしいと思うようになりました。
 私の発表を目に留めてくださった方々にとって,この発表が,少しでも聴覚障害の人のことを考えていただくきっかけになっていれば,これほど嬉しいことはありません。
 今後も微力ながら,彼らがどのような世界を見て,何を感じているのか,私たちがともに生きるために何が必要なのか,考え続けていきたいと思っています。
 末筆ではございますが,本研究にご協力いただいたAさんをはじめ,ご指導くださった先生,関わってくださったたくさんの方にお礼を申し上げ,挨拶とさせていただきます。

発表者名 ○渡邉 和美,平間 一樹,横田 賀英子,大塚 祐輔
タイトル 犯罪手口がカーネル密度推定による犯行予測の精度に与える影響――連続住宅対象窃盗事件に関する検討――
受賞者のコメント
 このたびは,2019年の日本心理学会で行った私たちの研究発表に対して特別優秀発表賞を授与していただき,ありがとうございます。
 私たちの研究発表は,科学警察研究所の捜査支援研究室と知能工学研究室が共同で取り組んでいる「地理的プロファイリングの高度化に関する研究」という研究課題の中で行った,犯行予測に関する基礎的な研究の結果を示したものです。
 今後の犯行が行われるエリアが予測できれば,有効な捜査支援となり得ますが,現状では研究の蓄積はあまりありません。私たちの研究発表では,侵入窃盗事件の情報を用いて,地理的な犯⾏予測の⼿法がよってたつ「近接反復被害(Johnson et al., 2007)」という理論に基づき,カーネル密度推定による犯行予測を行いましたが,この手法による精度の高さは,犯行地点分布だけでなく,犯罪手口の要因からも影響を受けていました。このことは,犯行予測においても犯罪のやり方を考慮した予測を行う必要があり,さらに環境要因やターゲット分布を考慮した犯行予測モデルを構築する必要があることが示唆されました。
 このたびの研究発表に対して賞をいただいたのは,今後の発展性を踏まえ,「さらに知見を積みあげなさい」という声をいただいたものと考えています。発表者一同は,これを励みに,さらなる研究の推進,研究の質の維持・向上を目指して,精進したいと思っています。

発表者名 ○横山 実紀,大沼 進,近藤 由基
タイトル NIMBY問題における負担の分散が社会的受容に与える影響――除去土壌再生利用事業を用いた仮想シナリオ実験――
発表内容の紹介
PDFファイル
受賞者のコメント
 この度は,2019年度日本心理学会学術大会特別優秀発表賞を授与していただき,ありがとうございます。心理学の学会でこのような栄誉ある賞をいただき,大変光栄に存じます。今後とも精進してまいります。
 授賞対象の発表についての内容に関しましては、PDFファイルを参照いただければと思いま す。

発表者名 ○小野 洋平
タイトル 隠匿情報検査で生起する眼球運動の心理的背景
発表内容の紹介
パワーポイント(音声あり;9MB)

発表者名 ○原島 小也可,鳥羽山 莉沙,横澤 一彦
タイトル 音名が曖昧な音に対する色聴共感覚者の色の励起に関する検討
受賞者のコメント
この度は,2019年度日本心理学会学術大会特別優秀発表賞にご選出いただき,大変光栄に存じます。研究から学会発表当日まで親身にサポートしてくださった横澤先生と鳥羽山さん,研究室の皆様に心より感謝申し上げます。
 本研究は,音を聴くと色を感じる色聴共感覚という現象において,一部の共感覚者で色の感じ方に主観的な音のカテゴライズの影響が見られたことを示したものです。複数の音名情報を含む雑音を刺激として用い,文字を併せて提示して認知音名を操作したところ,絶対音感を持つ共感覚者では物理的には全く同じ音でも認知音名が変化すると感じる色に違いが生じた一方,絶対音感を持たない共感覚者では感じる色に変化が見られませんでした。非絶対音感の共感覚者では何に基づいて共感覚色が決定しているのか,この点については更なる検討が求められますが,色聴共感覚におけるトップダウン的認知の影響を明らかにし,加えて共感覚者内でも共感覚色を規定する要因が異なることを示唆した点で,興味深い知見が得られたと考えております。
 本研究は,学部の卒業研究として取り組んだものでしたが,当時は新型コロナウイルスが蔓延した未来など全く想像しておりませんでした。皮肉にもこの未曾有の事態によって,真理を探求するという創造的な営みの尊さを痛感するとともに,多くの方々にご協力いただきながらその営みに携わることができていた自らの幸運と,科学に真摯に向き合う責任の重さを再認識いたしました。この先の時代により良い社会を築いていくことができるよう,一構成員として今後とも精進を重ねて参りたいと思います。

発表者名 ○河原 美彩子,山本 寿子,田中 章浩
タイトル 多感覚的な感情認知における話者の顔に対する注視パターンの文化差
受賞者のコメント
この度は,2019年度の日本心理学会学術大会特別優秀発表賞に選んでいただき,誠に光栄に思います。選考をしてくださった皆様に心より感謝申し上げます。本研究は,顔の表情と音声を手がかりとして感情を認知する場合に,感情表出者の表情に対する視線の向け方には文化差が見られるのかを,日本とオランダの文化間比較によって検討したものです。実験の刺激や方法にはまだ改善の余地がありましたが,ポスター発表の会場では,多くの有益なコメントをいただくことが出来,次の研究ステップに繋がる非常に実りの多い学会発表となりました。今回の受賞を励みに,さらに研究に邁進していきたいと思います。ありがとうございました。

発表者名 ○小川 時洋,常岡 充子,野村 奈都
タイトル 隠匿情報検査時の弁別ルールの適用可能性
受賞者のコメント
この度はこのような賞を頂き,大変光栄です。受賞対象となった研究は,日本の犯罪捜査において,心理学を応用した科学的鑑定技術として実際に用いられているポリグラフ検査に関するものです。研究の結果,ポリグラフ検査時の生理反応が,色や形などの刺激の特徴だけに規定されるのではなく,生体がそれらの刺激を捉える際に持つ基準・ルールによって大きく規定されることが分かりました。隠匿情報検査は,科学的に適切な記憶検査の手法であると評価されています。実は日本は,この隠匿情報検査によるポリグラフ検査の実践的利用において,世界をリードしています。心理学の中では小さな分野ですが,ポリグラフ検査,隠匿情報検査の研究は,実験的手法を中心としつつ,実践・応用場面にその成果の還元を図ることができる領域です。また,生理反応の背景にあるメカニズムの理解のためには,基礎的な領域の知見も必要としています。基礎・応用両方にまたがって日本独自の実験心理学的研究を展開できる点は,この分野の大きな魅力です。今回の受賞を糧として,今後とも共同研究者と共に研究を発展させるべく努力して参ります。

発表者名 ○貫(緒方) 万里子
タイトル 閾下呈示された表情の処理過程と表情認識に共感性が及ぼす影響――連続フラッシュ抑制法を用いて――
受賞者のコメント
このたびは,学術大会特別優秀発表賞を授与いただき,誠にありがとうございます。
 受賞した「閾下呈示された表情の処理過程と表情認識に共感性が及ぼす影響――連続フラッシュ抑制法を用いて――」という研究は,無意識下での表情認識の過程を,連続フラッシュ抑制法を用いて検討し,さらに,共感性との関連を明らかにしたものです。実験の結果,無意識下に呈示された表情刺激が後続する意識下に呈示された表情刺激の認識に影響を及ぼすことが示されました。これにより,表情の処理が無意識下で行われている可能性が示唆されました。また,表情認識と共感性の自己指向的反応性因子が,怒り顔の表情認識と関連することが示されました。
 このような栄誉ある賞をいただくことができましたのは,多くの先生方,ならびに先輩方のご指導によるものです。専修大学でご指導いただいた山上 精次 先生,石金 浩史 先生,専修大学の先輩方,また,東京大学大学院入学から日々ご指導いただいている遠藤 利彦 先生,遠藤研究室および教育心理学コースの先輩方,そして調査に参加していただいたみなさまに,心から感謝を申し上げます。
 現在,この研究をもとにした,共感性と身体感覚についての調査を進め,修士論文に向けて準備をしております。今後とも,ご指導ご鞭撻を賜りますよう,お願い申し上げます。

発表者名 ○坂田 千文,上田 祥行,森口 佑介
タイトル 並行行為をする他者の注意が統計学習に与える影響
発表内容の紹介
PDFファイル

発表者名 ○小野間 統子,佐藤 文紀
タイトル 列車運転時における先取喚呼の速度超過防止効果の検証
受賞者のコメント
この度は,名誉ある賞を授与いただきましたことに,心より感謝申し上げます。通例であれば,皆様の面前でご挨拶申し上げるべきところですが,新型コロナウイルス感染拡大防止のためプレコンベンション学術交流会が中止となりましたことにあわせ,文面でのあいさつにて失礼いたします。
 受賞のご連絡をいただいた際には,驚きのあまりしばらく何が起きているのか理解できませんでしたが,後日職場の先輩に報告したり,いつもお世話になっている方々に喜んでいただけたりしたことで,徐々に受賞の実感が湧き,嬉しさがこみ上げました。
 私は,自分の研究成果が現場で使用される様子が見たいということ,鉄道総研であれば,鉄道というフィールドで研究成果が全国に広まる可能性があるということなどを考え,鉄道総研に入所しました。そして,研究を通して鉄道の安全に寄与したい,鉄道総研でお世話になっている先輩方の力に少しでもなりたいという気持ちでこれまで努力して参りましたが,今回このような賞をいただけたことで,その努力が実を結んできたのかと思います。
 最後になりますが,今回受賞できたのは,この研究テーマを主体的に行っている先輩,学会発表にあたりご助言くださった方々,日頃から私をご指導くださっている皆様方のおかげです。今後も鉄道業界の安全や,心理学の発展に微力ながら貢献できればと存じます。皆様今後ともご指導ご鞭撻のほど,どうぞよろしくお願いいたします。

発表者名 ○川上 澄香,魚野 翔太,大塚 貞男,義村 さや香,趙 朔,十一 元三
タイトル 高機能自閉スペクトラム症者の時間分解能と多感覚統合
受賞者のコメント
 このような大変栄誉ある賞をいただき,発表者一同,大変嬉しく感じております。本研究では,高機能自閉スペクトラム症者の時間分解能と多感覚統合を扱っています。
 表情のみならず声色の情報もあれば他者の感情が理解しやすいように,複数の感覚情報を統合することは社会的情報を効率的に処理する際に役立ちます。しかし,社会的コミュニケーション及び対人的相互反応の障害を中核症状とする自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)をもつ方では,視聴覚統合の起こりやすさが定型発達者と異なるという報告が(一貫はしていませんが)いくらかあります。また,複数情報を統合すべきか否かの判断基準として,時間的に近いタイミングで存在したか否かは重要な情報ですが,この非同期性判断についてもASDをもつ方に非定型的特徴があると報告があります。本研究では,①定型発達者と比較してASDをもつ方のほうが,多感覚統合が起こりにくい,②非同期性の判断が正確であるほど,かえって多感覚統合が起こりにくい,と仮説を立てて実験を行いました。
 結果はクリアなものではなく,①,②については概ね仮説を支持する結果が得られ,社会的情報の処理に影響を与えていることが示唆された一方で,非同期性判断の正確さ自体には両群の違いは検出されず,というものでした。こうした基礎的な能力は一概に高ければ(あるいは低ければ)よいというものでもないと思いますので,調整できるのか,発達パターンはどうなのか,といった視点も踏まえて,今後の研究が行われ,介入等に活かされることを願っています。

選考経過

2019年11月1日(金)―2020年1月23日(木)の期間に公募し,3件の申請があった。選考委員会において審査し,羽藤 律氏が授賞にふさわしいと判断された。



    Tadasu Hatoh
    氏名:
    羽藤 律
    所属:
    ゆたかカレッジ横浜キャンパス

    評価理由

    羽藤 律 氏は,工学,音楽学と心理学という複数の観点を活用し,福祉施設での音楽療法を含む多様な取り組みを通じて,知的障害・発達障害のある方への包括的な支援を行っている。また,その経験を日本心理学会音楽心理学研究会論文集にて発表するなど,社会への情報発信も行っている。学部で心理学を修得した後,その知識と技術を隣接する領域に拡充するとともに,社会のニーズに持続的に適用してきた姿勢は科学者-実践家モデルとして卓越している。自立訓練事業と就労移行支援事業を組み合わせた多機能型事業所にて,心理学の学びで得た知識・技術を活用しながら障害を有する方の心の健康と福祉の増進に寄与する活動は,シチズン・サイコロジストとしてのプレゼンスを大いに高めるものである。以上の理由から,シチズン・サイコロジスト奨励賞の受賞に相応しいと判断した。

    受賞者のコメント

    このたびは,シチズン・サイコロジスト奨励賞を授与下さり,まことにありがたく存じます。私にとって思いがけない受賞で,とても嬉しく,励みになります。

    私の職場は,知的障がいの発達障がいのある高等学校や特別支援学校を卒業した利用者様(普段は学生と呼ばせていただいています)のさらなる学びの場を提供しています。学生は,日常生活や働くうえでの様々な知識,技能のほか,課題に直面した時の考え方や知恵,生きる力などを主体的に学んでおり,活動に際しては私自身も新たな経験をさせていただいています。日本心理学会大会におきましても,一般発表や日本心理学会音楽心理学研究会の公募シンポジウム等におきましてコツコツと発表しています。

    少年時代から,私は音楽に親しみ,歌を歌うとともに聴いてきました。これからも,いろいろな音を「聞く」から「聴く」,そして,いろいろな声や歌が「聞こえる」から「聴こえる」ようになりたいです。「聴こえる」の世界に至るには,深遠な道のりでしょう。今回の受賞は,私の人生の一つの里程標(マイルストーン)かもしれません。今後も学びつづけ,自分を深めていく所存です。

    受賞に際しまして,本賞の選考にあたって下さった先生方,平素より私が薫陶を受けている桑野 園子 先生,難波 精一郎 先生,普段よりご指導いただいている勤務先の長谷川 正人 先生,山本 和子 先生,職員のみなさま,日ごと何気ない日常を支えてくれる家族に深く感謝申し上げます。