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心理学研究 第89巻 第4号(2018年10月)

ページ 345-355
種類 原著論文
タイトル 向社会性のバウンスバック――児童期中期から青年期前期を対象として――
著者 西村 多久磨・村上 達也・櫻井 茂男
要約 向社会性の発達および向社会的行動の発達的軌跡は多くの発達心理学者の関心を集めてきた。本研究では,児童期中期から青年期前期の中学生を対象に,向社会性の顕れとされる向社会的行動の縦断的変化を関係性アプローチ(家族,見知らぬ人,友達に対する向社会的行動)にもとづき検討した。1,829名の児童生徒(男子944名,女子885名)が1年間の縦断調査に参加した。このサンプルは第1回目の調査時期において小学4年生,5年生,6年生,中学1年生(7年生),2年生(8年生)の5つのコホートから構成された。その結果,あくまで平均的な変化の傾向ではあるが,向社会的行動は,一度は減少することが示された。一方で,中学2年生から3年生にかけては,向社会的行動が増加することが示され,向社会性のバウンスバックが確認された。また,関係性アプローチの観点にもとづくと,このようなバウンスバックは見知らぬ人および友達に対する向社会的行動においてみられ,家族に対する向社会的行動ではみられなかった。
キーワード 向社会性,向社会的行動,縦断調査,児童期中期,青年期前期
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-4#16077
ページ 356-366
種類 原著論文
タイトル 同性愛者・両性愛者の抑うつ・不安を高める媒介モデルの検証
著者 佐藤 洋輔・沢宮 容子
要約 本研究では性的指向と対人関係,反応スタイル,およびメンタルヘルスの関連について検討を行なった。1,330名の大学生・大学院生(205名のLGB(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル)と1,125名の異性愛者)が2つの反応スタイル(反すうと問題解決),抑うつ,不安,対人ストレス,ソーシャルサポートについて質問紙に回答した。分散分析の結果,LGBにおいて異性愛者よりも多い反すうと対人ストレス,少ないソーシャルサポートが報告された。さらに,パス解析と媒介分析の結果,性的指向は対人関係と反応スタイルを介して抑うつや不安を高めることが示された。これらの結果より,LGBは対人関係において多大なストレスにさらされており,またそのようなストレスが不適応的な反応スタイルを促進することにより,メンタルヘルスを増悪させることが示唆された。
キーワード LGB,反応スタイル,メンタルヘルス,ソーシャルサポート,対人ストレス
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-4#17018
ページ 367-375
種類 原著論文
タイトル 食品リスク認知の感情ヒューリスティックに及ぼすニューメラシーの抑制効果
著者 伊川 美保・楠見 孝
要約 本研究の目的は,ニューメラシーが食品のリスクやベネフィットの理解にどの程度の影響を及ぼすかを検討することである。先行研究では,人々がリスクやベネフィットを知覚するとき,ポジティブまたはネガティブな感情に依拠する傾向にあることが示されている。また,リスク認知とベネフィット認知は負の相関を示す傾向にあり,人々は必ずしもリスクとベネフィットをバランスよく知覚している訳ではないことも指摘されている。しかし,リスクとベネフィットをバランスよく知覚するために,どの心理変数が効果的かを検討する研究はなかった。そこで本研究では,ニューメラシーと批判的思考態度が効果的であるという予測を立てて検討した。ウェブ調査の結果からは,ニューメラシーが高い人ほどリスクやベネフィットの情報をよく理解していた。また,ニューメラシーが高い人の場合,情報提供後にリスク認知とベネフィット認知が正の相関に変化していた。以上の結果は,コーヒーを題材とする研究1(N = 461)と,赤肉・加工肉を題材とする研究2(N = 496)でほぼ同じであった。以上の結果は,ニューメラシーの高い人ほど感情よりも数値に依拠して,リスクとベネフィットをバランスよく知覚する可能性を示唆している。
キーワード ニューメラシー,リスク認知,ベネフィット認知,感情ヒューリスティック,批判的思考
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-4#17034
ページ 376-386
種類 研究資料
タイトル 洞察問題としての日本語版Remote Associates Taskの作成
著者 織田 涼・服部 雅史・西田 勇樹
要約 本論文は,新しい日本語版Remote Associates Task(RAT)を提案する。洞察問題の解決に取り組む過程では,初期に行き詰まりに陥りやすく,解の発見時や呈示されたときにはAha体験を伴うことがある。新たに考案された80問のRATは,解決者が固着語を想起することによって行き詰まりに陥るよう意図して作成された。二つの実験により,新しいRATの問題では,先行研究で提案された問題より強いAha体験が経験されることが明らかにされた。本稿では,この新しいRATの問題リストと,各問題の正答率およびAha体験の強さを含む基礎データを提示する。
キーワード 洞察,表象変化,固着,Aha体験
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-4#17201
ページ 387-395
種類 研究資料
タイトル 日本版後悔・追求者尺度の公募型Web調査における信頼性と因子的妥当性
著者 藤島 喜嗣・髙橋 幸子・江利川 滋・山田 一成
要約 日本版後悔・追求者尺度(The Japanese version of the "Regret and Maximization Scale": JRMS)は意思決定スタイルの個人差を予測する尺度である。しかしながら,JRMSの信頼性と妥当性を検討した2つの先行研究では,尺度の信頼性はそれほど高くない。さらに,JRMSが何因子からなるのかが曖昧で,因子的妥当性の検討が必要である。本研究は,公募型WEB調査を用い,JRMSの因子パタンを検証した。研究1では1,121名のサンプルに探索的因子分析を実施し,研究2では,480名のサンプルに確証的因子分析を行った。両分析ともに,JRMSが,人生後悔,購入後悔,追求者の3因子からなることを示し,因子的妥当性を確認することができた。また,各下位尺度とも容認可能な内的整合性を示した。各因子得点は相互に正相関し,調査協力者の年齢とも正相関した。後悔が2カテゴリに分割される理由と他研究へのJRMSの活用について考察した。
キーワード 後悔・追求者尺度,因子分析,Web調査
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-4#17219
ページ 396-402
種類 研究報告
タイトル 2人実験場面での教示と自己教示がスケジュールパフォーマンスに与える影響
著者 中村 敏・大河内 浩人
要約 随伴性の言語的な記述 (ルール) はしばしばヒトの行動を制御する。本研究は,実験中に2人の参加者が部分的に相互作用するという状況下でルールが行動に与える影響を検討した。大学生のマウスクリックは,多元定比率50低反応率分化強化10-sスケジュールに従って点数をもたらした。2成分呈示後,参加者はスケジュールの随伴性について記述するように求められ,記述後,教示者はパートナーである被教示者に記述したルールを教示した。被教示者の弁別指数は,ルールを記述することも他者のルールを聞くこともなかった統制群と比べて高かった。定間隔10-sスケジュールに移行すると,全群がスケジュールの変化に敏感であった。これらの結果は,教示は実験者以外の他者が呈示したものである場合や,内容が不正確な場合であっても適切な行動の獲得を促進するものとして機能することを示唆している。また,教示や自己教示の効果が2人実験で再現されうることも示唆している。
キーワード ルール支配行動,言語行動,2人実験,成人
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-4#17317
ページ 403-408
種類 研究報告
タイトル 日本語における信念質問文の処理と理解
著者 鈴木 孝明
要約 本研究では日本語の誤信念課題に使用される信念質問文の処理と理解を探った。日本語の信念質問文には語順によるバリエーションが存在するため,これが文処理や文理解に影響を与える可能性が考えられる。しかしながら,信念質問文はこれまで標準化されることなく,子どもの心の理論の発達を調査する誤信念課題において広く使用されてきた。本研究では30名の成人日本語母語話者を対象に,オフラインの難易度判断課題とオンラインのセルフペースト・リーディング課題を用いて5タイプの信念質問文の処理と理解を調査した。その結果, 同一内容を表す信念質問文でも,異なる語順による効果が認められた。この結果に照らし合わせて,信念質問文の統語的特徴とこれが子どもの誤信念課題の理解に与える影響について考察を行う。
キーワード 誤信念課題,信念質問文,文処理,文理解,日本語
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-4#17319
ページ 409-415
種類 研究報告
タイトル 視覚的記憶の長期持続性と変化検出過程への影響
著者 益岡 都萌・西山 めぐみ・寺澤 孝文
要約 多くの先行研究によって,変化検出過程において視覚的記憶が重要な役割を果たすことが知られている。Nishiyama & Kawaguchi(2014)は変化検出課題以前の過去に獲得した視覚的長期記憶に焦点を当て,そのような視覚的長期記憶が変化の見落とし現象の生起に影響を与えることを報告している。本研究はNishiyama & Kawaguchi(2014)が示した結果の再現性を確認することを目的とした。実験はNishiyama & Kawaguchi(2014)と同様の手続きによって,学習フェイズ,変化検出フェイズ,間接再認フェイズの3つにより構成された。学習フェイズにおいて,後続の変化検出フェイズに出現する変化前の情報の事前学習が行われた。実験1では学習回数は1つの刺激につき5回であり,実験2では5回及び1回の条件が設けられた。その後の変化検出フェイズにおいて,学習フェイズにおける事前学習が変化検出率に影響を与えるか否か検討された。また,間接再認フェイズにおいて,事前学習によって獲得した視覚的記憶が変化検出課題後にも保持されているか否かについて検討された。2つの実験の結果,学習フェイズで獲得された視覚的記憶は詳細な長期記憶として変化検出課題後まで保持されることが示された。しかしながら,Nishiyama & Kawaguchi(2014)が示した結果とは異なり,視覚的長期記憶による変化検出率への影響を確認することはできなかった。本研究の結果から,課題以前に獲得した視覚的長期記憶による変化検出過程への影響を検討する上では,その現象をより確実に検出するための手法の確立が必要であることが示された。
キーワード 視覚的長期記憶,変化の見落とし,偶発学習
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-4#17327
ページ 416-421
種類 研究報告
タイトル 構成漢字の意味が日本語漢字表記語の意味処理へ及ぼす抑制的影響
著者 水野 りか・松井 孝雄
要約 本研究の目的は,日本語の2文字の漢字表記語の第2文字の意味が漢字表記語の意味処理に及ぼす抑制的影響を検討し,実際の漢字表記語の処理過程を正確に把握することである。用いた課題は2文字の漢字表記語が人間を指す単語(人間語)かそうでない単語(一般語)か判断する意味分類課題であった。一般語も人間語も半数は第2 文字が人間を指す漢字(人間字)であり,半数はそうでなかった。その結果,人間字が含まれた一般語よりも含まれない一般語の意味分類時間が長く,誤答率が高く,抑制的影響が確認された。一方,人間字が含まれた人間語と含まれない人間語にはいずれも差がなく,促進的影響は確認されなかった。最後に,これらの結果を合理的に説明しうる漢字表記語の処理過程の考え方を提案した。
キーワード 日本語漢字表記語,意味処理,構成漢字,促進的影響,抑制的影響
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-4#17329