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心理学研究 第90巻 第3号(2019年8月)

ページ 231-241
種類 原著論文
タイトル 元恋人へのアタッチメント欲求が関係崩壊後の反応段階の移行を遅らせる
著者 古村 健太郎・戸田 弘二・村上 達也・城間 益里
要約 本研究の目的は,元恋人へのアタッチメント欲求の強さと関係崩壊後の反応段階の移行との関連を検討することであった。分析対象者は,1年以内に関係崩壊を経験しており,相手から別れを切り出された325名であった。潜在ランク理論による分析の結果,分析対象者は3つのランクに分類された。多項ロジットモデルによる分析の結果,ランク3からランク2への移行確率は,元恋人へのアタッチメント欲求やアタッチメント不安,別れる際の元恋人の申し訳なさそうな態度と負の関連を示した。ランク2からランク1への移行確率は,元恋人へのアタッチメント欲求と負の関連を示し,別れる際の元恋人の誠実な態度と正の関連を示した。これらの結果から,元恋人へのアタッチメント欲求は,アタッチメント・スタイルと同様に,関係崩壊後の反応段階の移行にとって重要な要因であることが示された。
キーワード アダルト・アタッチメント,アタッチメント欲求,恋愛関係,関係崩壊
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-3#17045
ページ 242-251
種類 原著論文
タイトル 防止焦点は認知資源の温存効果に優れているのか?
著者 外山 美樹・湯 立・長峯 聖人・三和 秀平・相川 充
要約 本研究では,認知資源の温存効果の観点から,制御焦点とパフォーマンスの関係を検討することを目的とした。実験参加者は大学生64名であった。本研究の結果より,防止焦点の状況が活性化された場合には,将来,優先順位の高い課題に従事することがわかっている時,認知資源を温存しようとする動機づけが働くため,優先順位の低い課題に対しては努力を差し控え,促進焦点の状況が活性化された場合よりもパフォーマンスが低いが,後続の優先順位の高い課題においては,促進焦点の状況が活性化された場合よりもパフォーマンスが高いことが示された。本研究より,防止焦点の状況下では,認知資源の配分を意図的に行っていることが示唆された。
キーワード 制御焦点,促進焦点,防止焦点,温存,パフォーマンス
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-3#17059
ページ 252-262
種類 原著論文
タイトル なぜ非行集団に同一化するのか――集団間関係に基づく検討――
著者 中川 知宏・仲本 尚史・國吉 真弥・森 丈弓・山入端 津由・大渕 憲一
要約 本研究の目的は,なぜ非行集団に同一化するのかということを集団間関係の観点から検討することである。具体的には,非行集団に対する差別が集団同一化に及ぼす効果は集団境界透過性によって調整されるだろうと仮説を立てた。調査は少年鑑別所に入所中の少年96名を対象に実施した。分散分析の結果,非行集団に対する差別と集団境界透過性の交互作用が有意であり,教師または警察から差別的な扱いを受けていると知覚した場合,非行集団以外に集団関係を持てない少年はそうでない少年に比べて認知的同一化を強く示した。これはわれわれの仮説を支持するものであったが,他の交互作用は非有意であった。一方,情緒的同一化については,同級生からの差別と集団境界透過性の交互作用のみが見られたが,これは仮説を支持するものではなかった。したがって全体的に,本研究の結果は仮説を支持するものではなかったといえるだろう。しかし,一部の結果は警察や教師から差別を受けていると感じていたとしても,非行集団の他に付き合える仲間がいることで非行集団への認知的同一化を低減することが可能であることを示している。
キーワード 非行集団,差別,集団境界透過性,集団同一化
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-3#18012
ページ 263-273
種類 原著論文
タイトル 犯罪予防行動の規定因――計画的行動理論の観点からの検討――
著者 荒井 崇史・菱木 智愛
要約 我々は,犯罪予防行動に肯定的な態度を有していたとしても,必ずしも行動を起こすわけではない。本研究では,このような行動への態度と行動との間のギャップについて,計画的行動理論(Theory of Planned Behavior: TPB)の観点から説明を試みた。研究1では,女子大学生及び大学院生(N = 302)に対して,TPBの変数(態度,主観的規範,自己効力感,そして制御可能性)を含んだ質問紙に回答を求めた。研究2では,TPBの変数から構成したWeb調査を7―12歳の子を持つ母親(N = 725)に対して実施した。構造方程式モデリングの結果,両研究においてデータに対するモデルの当てはまりは良好であった。また,研究1では,主観的規範並びに自己効力感が行動意図を促進し,それが行動を促していた。さらに,研究2では,態度,主観的規範,自己効力感,そして制御可能性が行動意図を促進し,行動意図が行動実行を導いていた。これらの結果は,犯罪予防行動を奨励するためには,行動への態度を考慮するだけではなく,主観的規範や自己効力感にも目を向ける必要があることを示唆する。
キーワード 犯罪予防行動,計画的行動理論,態度,主観的規範,行動統制感
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-3#18014
ページ 274-283
種類 原著論文
タイトル 変則的挙動に対する記憶ベース方略に関する実験的検討
著者 松林 翔太・三輪 和久・寺井 仁
要約 機械故障や自律的エージェント,不規則な自然現象など,システムによる様々な変則的な挙動を目にすることは少なくない。そのような変則的挙動を予測するため,その対象となる領域について,原因構造を推論することは有用であることは広く知られている(推論ベース方略)。それに対して,本研究では,予測のために変則的挙動を記憶する記憶ベース方略に着目し,空間的位置予測課題を用いて,記憶ベース方略の特性と効用について検証を行う。実験1,2の結果から,記憶ベース方略の適用を促された参加者は,変則事例のみを記銘し,正則事例を記銘しないことが示された。また,複雑さの低い課題では推論ベース方略が有効である一方,複雑さの高い課題においては記憶ベース方略が有効であることも明らかになった。実験3から,課題の複雑さに合わせた適応的な方略選択は困難であり,また,複雑さの高い課題において有用な記憶ベース方略を自発的に選択し実践したとしても,その効用は発現されないことが示された。
キーワード 記憶ベース方略,推論ベース方略,変則的挙動,正則的挙動
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-3#18018
ページ 284-293
種類 研究資料
タイトル ウェーブレット変換,特異値分解,フーリエ変換を用いた樹木画の画像解析
著者 川杉 桂太・竹村 和久・岩滿 優美・菅原 ひとみ・西澤 さくら・塚本 康之・延藤 麻子・小平 明子・轟 純一・轟 慶子
要約 本研究では,バウムテストを定量的に評定するために3つの画像解析手法(ウェーブレット変換,特異値分解,フーリエ変換)を提案し,統合失調症患者の描いた樹木画に対する実施例を示した。また,呈示する樹木画の描画形式に関する質問紙調査を実施し,樹木画に対して画像解析を利用することで樹木画のどのような特徴が明確になるかを検討した。ウェーブレット変換からは描画の位置や描線の方向,濃さ,太さを,フーリエ変換からは描線の方向,濃さを,特異値分解からは描線の位置や方向についての情報を得られる可能性が示された。質問紙調査の結果からは,画像解析を利用することで,描かれ方の規則性やバランスといった,肉眼のみからでは判断の難しい特徴について明らかにできる可能性が示された。各画像解析手法の特徴を詳細に検討しバウムテストの分析に適用するために,さらに検討を重ねる必要があると考えられる。
キーワード 画像解析,バウムテスト,ウェーブレット変換,特異値分解,フーリエ変換
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-3#18219
ページ 294-300
種類 研究報告
タイトル 身体運動の大きさが拡散的アイデア産出に与える効果
著者 永井 聖剛・山田 陽平・仲嶺 真
要約 先行研究では身体動作が創造的課題に影響することを示している。本研究では,さらなる検討として,大きいまたは小さい腕の運動が創造的なアイデア産出に影響するかを調べた。実験1ではいずれかの運動の後に,新しいお米の名前を回答するように求められた。大きな腕運動では小さな腕運動よりも典型的ではないアイデア産出が多くなった。実験2では友人へ送る独創的なプレゼントを回答することが求められ,大きな腕運動で多様なアイデア産出が行われる可能性が示された。これらの結果から,運動の大きさが創造的なアイデア算出に影響し,大きな運動は拡散的な情報処理モードを駆動し,その結果,拡散的な創造的思考が促されることが示唆された。
キーワード 創造性,アイデア産出,拡散処理,腕の運動
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-3#17342
ページ 301-307
種類 研究報告
タイトル 発想に及ぼすあいづちの種類の効果
著者 三宮 真智子・山口 洋介
要約 本研究では,あいづちの種類がアイデア生成に及ぼす影響について検討した。あいづちの種類は,肯定的・中立的・非肯定的の3種類とした。課題は,結果予想課題と解決法考案課題の2種類であった。実験参加者は,30名の大学生であった。従属変数は,発想量,発話時間,考える意欲,聞き手からどのくらい関心・同意・賞賛を感じられたかの認知であった。おもな結果は次の通りである。(a) 肯定的あいづちは,予想課題においてのみ有意に発想量を増加させた。(b) 肯定的あいづちは,他の従属変数に関して,両方の課題において促進的に働いた。これらの知見は,肯定的あいづちがアイデア生成を促進する方略として効果的であることを示している。あいづちの種類と課題の間における交互作用は,2種類の課題が異なる思考プロセスを含んでいる可能性があるという観点から解釈された。交互作用は発想量においてのみ見られたため,あいづちは2つの経路を通して影響していると推測された。すなわち,1つは,ポジティブな感情を通して動機づけを促進するという経路であり,もう1つは,アイデア生成自体を活性化させるという経路である。
キーワード アイデア生成,思考,あいづち,コミュニケーション
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-3#18311
ページ 308-326
種類 展望論文
タイトル ワーキングメモリトレーニングと流動性知能――展開と制約――
著者 坪見 博之・齊藤 智・苧阪 満里子・苧阪 直行
要約 ワーキングメモリは容量制約を持つ認知機能であり,流動性知能を含む高次認知機能に強く関与する。近年,ワーキングメモリをトレーニングすることにより容量が増加し,さらには知能を高められるという報告がある。本レビューでは,これらの知見を検討するため,これまでに出版されたワーキングメモリトレーニングに関する9つのメタ分析研究をまとめて再分析した。その結果,流動性知能や実行機能,学業成績を向上させるワーキングメモリトレーニングの効果は小さいことを見出した(averaged Hedges' adjusted g < .20)。さらに,これまでのトレーニング研究には,研究デザインの問題(プラセボ効果の混入,不十分なサンプルサイズ),解析の問題(不適切な条件間比較や統計学的処理),理論の問題(トレーニング効果のメカニズムに関する理論の不備)がある可能性についても指摘した。これらを踏まえて,今後の研究の方向性を示し,ワーキングメモリ自体をトレーニングするのではなく,長期記憶の効率的な利用を促す方略の学習によって,知能や高次認知機能が高められる可能性があることについて考察した。
キーワード ワーキングメモリ,トレーニング,流動性知能
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-3#18402