公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

刊行物のご案内

心理学研究 第90巻 第5号(2019年12月)

ページ 461-470
種類 原著論文
タイトル 調査回答の質の向上のための方法の比較
著者 増田 真也・坂上 貴之・森井 真広
要約 調査で,真剣に回答しない回答者がいる。やる気がなかったり,不真面目であるような回答者を検出するための,近年用いられている2つの方法(インストラクショナル・マニピュレーション・チェック(IMC),シリアスネス・チェック)について検討した。さらに,回答者に,調査票への回答前に真面目に回答するという宣誓してもらうこと(冒頭宣誓)で,調査回答の質の向上を試みた。2つのWeb調査での回答者が,4条件のいずれかにランダムに割りふられた。主な結果は以下の通りである。(a) 指示に従わなかった回答者をサンプルから除くと,回答の質が向上した。(b) 真面目に回答すると宣誓した回答者は,「わからない」の選択,同一回答,中間選択が,統制群よりも少なかった。すなわち回答者は,当初のコミットメントと一貫した行動を示した。データの質を向上させる上でIMCは優れているが,冒頭宣誓のような不真面な回答を防ぐためのやり方は,サンプルサイズが減少しないという点で望ましい。
キーワード 回答の質,冒頭宣誓,データスクリーニング,WEB調査
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-5#18042
ページ 471-481
種類 研究資料
タイトル 対人関係欲求尺度と身についた自殺潜在能力尺度の日本語版の作成
著者 相羽 美幸・太刀川 弘和・Adam Jon Lebowitz
要約 自殺の対人関係理論は,負担感の知覚,所属感の減弱,身についた自殺潜在能力の3つの要素によって自殺が引き起こされると提唱した理論である。前者2つの要素を測定する尺度として対人関係欲求尺度(Interpersonal Needs Questionnaire: INQ),3つ目の要素を測定する尺度として身についた自殺潜在能力尺度(Acquired Capability for Suicide Scale: ACSS)が作成されている。INQでは10,12,15,18,25項目の5つのバージョン,ACSSでは5,20項目版,死への恐怖心のなさのみを測定するFAD版の3つのバージョンがこれまでの研究で用いられている。本研究では,INQとACSSの日本語版を作成し,各尺度の妥当性を検証した。さらに,これらの尺度の各バージョンのうち日本語版として最も適しているのは何項目版であるのかを明らかにした。研究1では,大学生189名に各尺度の項目表現のわかりやすさを尋ねた。研究2では,812名の大学生が,INQとACSS,妥当性検証項目に回答した。さらに225名が再検査信頼性のため約1ヵ月の間隔を空けて2回の調査に参加した。研究3では,104名の精神科患者が,INQ,ACSS,自殺念慮,自殺企図について回答した。内容的側面,構造的側面,一般化可能性,外的側面の妥当性を検証した結果,INQとACSSの各バージョンの妥当性は概ね確認された。総合的に判断して,INQではINQ-10もしくはINQ-15,ACSSではACSS-FADもしくはACSS-5が日本語版として適していることがわかった。
キーワード 自殺の対人関係理論,負担感の知覚,所属感の減弱,身についた自殺潜在能力
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-5#17241
ページ 482-490
種類 研究資料
タイトル 日本版バーンアウト尺度とMBI-HSSの異同に関する研究
著者 井川 純一・中西 大輔
要約 本研究では,対人援助職のバーンアウト傾向の測定のため世界的に利用されている Maslach Burnout Inventory-Human Services Survey (MBI-HSS) とわが国で利用頻度の高い日本版バーンアウト尺度 (JBS) の異同について3つの対人援助職 (450名) を対象として,Web調査によって検討した。まず,両尺度の採点法に基づいて確認的因子分析を行ったところ,MBI-HSSよりもJBSのほうが高い適合度を示した。次にそれぞれの尺度の因子同士の相関分析及び外的な参照点 (うつ) を従属変数とした共通性回帰分析によって両尺度の因子同士の類似性を検討した。バーンアウトの3症状のうち情緒的消耗感は高い類似性を持っていたが,脱人格化及び個人的達成感の低下についてはJBSとMBI-HSSの類似性は中等度であった。これらの結果は,両尺度は一定の類似性を持つ一方で,完全に同一の概念を測定しているとは言えないことを示す。これらの結果から,JBSには日本国内における先行研究の蓄積等のメリットが認められる一方,国際比較を行う場合には,MBI-HSSの使用が推奨され,研究の目的に応じた両尺度の使い分けが求められることが示唆された。
キーワード バーンアウト,日本版バーンアウト尺度,MBI-HSS
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-5#18230
ページ 491-500
種類 研究資料
タイトル 家庭の所有物を用いた中学生用簡易版社会経済的地位代替指標の作成
著者 石井 僚・村山 航・福住 紀明・石川 信一・大谷 和大・榊 美知子・鈴木 高志・田中 あゆみ
要約 本研究の目的は,家庭の所有物を用いた中学生用簡易版社会経済的地位代替指標を作成し,その妥当性を検証することであった。研究1では,中学生とその親192組を対象に調査を実施し,PISAで用いられる家庭の所有物を問う17項目から社会経済的地位を相対的に高い精度で測定できる3項目を選定することで,家庭の所有物を用いた中学生用簡易版社会経済的地位代替指標を作成し,その妥当性を検討した。その結果,世帯年収や両親の最終学歴,階層意識などとの関連および再検査信頼性が示され,一定の妥当性が確認された。研究2では,研究1における項目選択および示された妥当性が標本誤差に依るものではないことを確認するため,研究1のサンプルとは独立したサンプルにおいて妥当性が再現されるか検討し,代替指標の交差妥当化を行った。研究1とは異なる中学生とその親195組を対象に調査を行った結果,研究1と同様の妥当性が示された。社会経済的地位は,直接的な検討対象としてのみでなく,様々な心理的現象を検証する際に交絡変数となり得るものであり,今後,本研究で作成された代替指標を用いることで,各領域における研究の発展が望まれる。
キーワード 社会経済的地位,簡易版,中学生用
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-5#18233
ページ 501-510
種類 研究資料
タイトル 公正感受性尺度日本語版 (JSI-J) の作成
著者 ターン 有加里ジェシカ・橋本 剛明・Manfred Schmitt・唐沢 かおり
要約 公正・不公正に対する感受性――不公正な出来事に対して怒りや罪悪感などの感情を覚える程度やそれについて反芻する程度――には個人差がある。公正感受性尺度(Schmitt et al., 2010)は,これを測定するために開発された尺度であり,その特徴は被害者,第3者,受益者,加害者という4つの立場を区別する点にある。つまり公正感受性尺度は,不公正な出来事によって損失を受けることに対する感受性,不公正な出来事を第三者として知ることに対する感受性,不公正な出来事から受動的に利益を得ることに対する感受性,不公正な出来事を能動的に引き起こすことに対する感受性という4つの下位次元概念を分けて測定する。各下位次元概念は,協力行動をはじめとする様々な行動や心身の健康に対してそれぞれ異なる影響を持つことが明らかにされてきた。この尺度はこれまで,英語,ドイツ語,中国語を含む多くの言語で用いられてきたが,日本語版はまだ作成されていない。そこで本研究は,公正感受性尺度日本語版およびその短縮版を作成し,それらの信頼性と妥当性を検討した。信頼性と妥当性は概ね確認されたが,数項目に関しては予測されていなかった結果が得られた。本論ではこの尺度の有効な使い方について議論する。
キーワード 公平,怒り,罪悪感,反芻,個人差
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-5#18234
ページ 511-517
種類 研究報告
タイトル 一時的に構成されたカテゴリー表象によって生じる虚記憶の検討
著者 田中 光・中條 和光
要約 本研究では,アドホックカテゴリーリストの学習によって一時的に体制化されたカテゴリー表象において虚記憶が生起するかどうか,また,テーマ(カテゴリーラベル)とともにリストを学習した場合に虚記憶が増加するかどうかを検討した。実験では,Deese–Roediger–McDermott を用い,大学生48名が参加した。リストのテーマに気づきにくくするため,参加者には,アドホックカテゴリーにおいて典型性の高くない事例で構成された単語リストを呈示した。参加者は,カテゴリーラベルとともに,または,カテゴリーラベル無しでリストを学習し,再認テストを行った。各リストのルアー項目は,学習していないカテゴリー事例であった。実験の結果,アドホックリストの学習によって虚再認が生起した。また,ラベルとともにリストを学習した場合に虚再認が増加した。さらに,ラベルを呈示しない条件であっても,リストのテーマに気づいた参加者には,気づきの生じなかった参加者よりも多くの虚再認が生じていた。これらの知見は,ラベルの呈示の有無にかかわらず,テーマへの気づきが,虚再認の生起を促進することを示唆している。
キーワード 虚記憶,DRMパラダイム,アドホックカテゴリー,心内表象,意味ネットワーク
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-5#18323
ページ 518-537
種類 展望論文
タイトル 心身脳問題――からだを巡る冒険――
著者 田中 彰吾・浅井 智久・金山 範明・今泉 修・弘光 健太郎
要約 本論文は,身体意識とその神経表象に関する過去の研究,そして,身体・自己・および脳についての現在の研究を概観するものである。身体意識は最初,20世紀初頭に身体スキーマと身体イメージとして概念化された。幻肢などの現象についての経験的知見から,身体意識は脳内の身体表象に還元しうることが示唆された。身体スキーマと身体イメージは,神経過程に全面的に還元できるわけではなさそうであるが,両者はともに,体性感覚野と運動野を含む関連する脳領域に堅固な基盤を持っている。さらに,身体イメージは,神経処理の二つの異なるストリームに対応する二側面(身体セマンティクスと身体トポロジー)により良く分類することができる。最後にわれわれは,所有感と主体感の相互作用から創発する自己を探求した。主観的な自己感は,複数の身体表象のボトムアップ統合の結果ととらえることができるであろう。
キーワード 身体表象,身体スキーマ,身体イメージ,自己表象,自己感
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-5#18403