公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

私の出前授業

心身相関を題材にした自然科学教育

長野 祐一郎
文京学院大学人間学部 准教授

長野 祐一郎(ながの ゆういちろう)

Profile─長野 祐一郎
早稲田大学大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(心理学)。札幌医科大学助手,早稲田大学医療科学研究所助手,文京学院大学人間学部助手,助教を経て准教授。専門は生理心理学,健康心理学,感情心理学。著書は『心理学の視点 躍動する心の学問(心について考えるための心理学ライブラリ1)』(分担執筆, サイエンス社),『改訂 生理心理学 第Ⅰ巻』(分担執筆, 北大路書房)など。

文京学院大学人間学部では,地域交流の一環として,様々な出前授業を行っています。自分が生理心理学の授業を担当していることもあり,特に生体計測の楽しさを多くの子どもたちに知ってもらいたいと思い,心身相関を題材にした教育プログラムを実施しています。ここでは,「子ども大学ふじみ野」と「付属高校スポーツサイエンスコース」での授業を紹介します。

子ども大学ふじみ野

「子ども大学」は,ドイツ発の地域教育活動で,大学や企業などが専門的知識及び教育力を活用し,地域の子どもたちに様々な教育を行い,知的好奇心を呼び起こすことを目的としています。文京学院大学は,ふじみ野市が主催する「子ども大学ふじみの」に様々な授業を提供しています。小学校4 〜 6年生,約60名を対象に,ストレス負荷中の皮膚温変化を測定し,心身相関現象について解説を行った事例を以下に示します。

課題は子どもたちにも親しみやすいすごろくとし,皮膚温はマイクロコンピュータArduinoを使った自作計測器で4人同時に測定しました(写真1左)。子どもたちは8人一組で実験に参加し,4人が指先の皮膚温を測りながらすごろくを行い,残りの4人は皮膚温変化を記録用紙に記録しました。「負けたものは罰ゲームを行う」との教示の効果もあり,参加者の皮膚温は緊張により徐々に下降していきますが,ゴールした参加者は緊張から開放され皮膚温が上昇していきます。子どもたちの笑い声のなかプログラムは進行し(写真1右),課題終了後,記録した皮膚温をグラフ用紙にプロットし,勝敗によって波形が違うかを確認しました。

対象者が小学生であることから十分に理解してもらえるか,大人数であるためプログラムを予定通り進められるか等の不安がありましたが,8台の計測器を使い,10名のゼミ生にアシスタントをしてもらい,概ねスムーズに進めることができました。参加者からは,「心身相関現象や心理学に興味をもった」,「大学での教育に興味をもった」,「身近なテーマで楽しめた」,「自分も計測器を作ってみたい」などの感想が得られ,自然科学教育としても十分な効果が得られたと感じました。詳細は,子ども大学ふじみ野実施報告書(下記アドレス)をご覧ください。http://www.city.fujimino.saitama.jp/doc/2015050600085/file_contents/4.pdf

写真 1 皮膚温計測器およびプログラム実施の様子
写真 2 心拍計測器およびダーツ課題実施の様子

付属高校スポーツサイエンスコース

文京学院大学女子中学校・高等学校には,「アドバンストサイエンス」「グローバルスタディーズ」「スポーツサイエンス」の3コースがあり,スポーツサイエンスコースの生徒たちは,自らトレーニングメニューを構築することを目標に,各種身体機能の測定方法や,自然科学的な研究手法を学んでいます。本教育プログラムは,競技中の心拍数測定を目標とし,高校1年生約30名を対象に実施しました。その際,ゼミ生を中心に4名の大学生がアシスタントとして参加してくれました。

課題はダーツを用いた競争としました。竹串とネオジウム磁石を用いた矢,A3コピー用紙に印刷した的はゼミ生の手作りであり,的の大きさや距離,投数などを事前に検討し,適度なゲーム性を保てるよう調整し,現場に臨みました。心拍数は,Arduinoをベースに開発した,ポータブル測定器を用いて測定しました(写真2左)。

競技は1枚のホワイトボードに的を2つ貼りつけ,2人が同じスケジュールで8投を行い,合計点で勝敗を決める形式としました。心電図計を装着しダーツを投げる役,計測器を操作する役,ダーツを渡す役,得点を算出する役の4人を1組とし,8組合計32人で実験を実施しました。その際,声援の有り無しの2条件で,競技中の心拍数上昇がどのように変化するかを調べました。競技は予想以上の盛り上がりを見せ,教示の声をかき消すほどの声援の中,ダーツ競技が行われました(写真2右)。

参加した生徒たちは,心拍数変化のグラフをスクリーンで確認し,条件や個人によって上昇の度合いがどのように異なるかを議論しました。90分以内に実験実施から結果処理,解説まで行う厳しいスケジュールでしたが,経験豊富なアシスタントに協力してもらうことで,比較的スムーズにプログラムを進めることができました。

まとめ

今回紹介した教育プログラムは,いずれも手作りの実験課題,測定装置で構成されており,アシスタントを務めてくれた学生たちは,何日も前から装置の動作を点検し,実施案を練り,綿密な打ち合わせを行ったうえで当日に臨みました。「小学生でもわかる?」「どうしたらもっと楽しくなるの?」といった私の問いかけに対し,ゼミ生たちは様々なアイデアを出しプログラムを改善してくれました。年齢の近い彼らの発想が,実施時の盛り上がりには大きく貢献しているように感じます。これらの活動は,表向きは小中高校生向けの出前授業ですが,実際には大学生のための教育プログラムを兼ねています。アシスタントを務めるゼミ生たちには,子どもたちへの自然科学教育を通し,地域社会に積極的にかかわることで,心理学への理解を深めると同時に,責任感や自己効力感を育ててもらう狙いがあります。このように,今心理学を学んでいる大学生と,これから学ぶ子どもたちが,同時に学びあう機会を設けることで,心理学の楽しさを広く伝えていければよいと考えています。

上記プログラムで使用された計測機器の作成法は,下記URL において解説されています。 http://protolab.sakura.ne.jp/OPPL/?page_id=735 http://protolab.sakura.ne.jp/OPPL/?page_id=756 詳細に関しては,prototypings@gmail.com にお問い合わせください。

PDFをダウンロード

1