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巻頭言

年次大会における研究発表の今昔

前 立命館大学 教授
松田隆夫(まつだ たかお)

私が日本心理学会に入会したのは1959年,最初の研究発表は翌年の第24回大会であるから,心理学徒の末席に名を連ねて以来,会員歴は60年近くになる。この間,幾度も勤務大学を変え,職を終えてからも年次大会には努めて参加しているものの,この年齢ともなると旧知の会員と顔を合わせる機会は極めて稀で,私自身の研究発表も72歳時の第73回大会を最後に絶えている。かくして今や,自らを老学徒と呼ぶのも憚れる「終わった人」ではあるが,今回せっかくの機会を得たので,年次大会での一般研究発表のことについて執筆させていただくことにした。

発表形式が口頭発表からポスター発表の時代に変わって,もう20年は経過しただろうか。この間,発表者に与えられた一畳分のスペースに貼付するポスターは,当初のワープロからパソコン作成へ,白黒から色付きへ,継ぎ接ぎから一枚のものへ……と格段に進化してきた。会場では,幾つかの時間帯に分けて各々 100件以上のポスターが展覧され,大勢の会員の間を縫ってあちこち目を配りながらフロアを一回りすれば,各研究部門でどのような課題がどれだけ展開されているのか,自分の専門分野以外の状況もそれなりに理解できるし,時には立ち止まって発表者との意見交換も可能で,その意味では大変都合がよい。新進気鋭の発表者が各所で議論を重ねている様子を傍観するにつけ,若い世代が支える心理学界の先行きに安堵すると同時に,私ごとき老会員は時代の推移を実感する。他方,近年は,大学等で指導的立場にある熟年の会員が発表者となる機会がめっきり減ったような気がするし,発表者となっても,若い世代の会員には敬遠されて素通りされてしまうことが多く,切歯扼腕の思いに駆られる。ポスター発表が,年配会員と若い世代との研究交流の場となるように,熟年の大先生は進んでポスターの前に立ってほしいし,若い会員は敬遠無用で先達会員と声を交わしてほしいと思う。

発表件数激増の今日,口頭発表の時代を回顧しても詮無いことではあるが,当時の会場では研究発表や質疑応答を介して当事者もフロアの聴衆も,世代や地域を超えて広く会員相互の顔と名前,立ち居振る舞いや声までも一致して知るところとなり,それを契機に今日までの交流に至っている人は多いと思う。昨年のICP2016では,ポスター発表と並行して,あれほど多数の一般研究発表が口頭で行われたことを想起するにつけ,現行のポスター発表に何かひと工夫加える余地はないものかと思案しつつ,学界の一層の発展を願ってこの小文を認めた次第である。

前立命館大学教授松田隆夫

Profile─松田隆夫
1966年,東京教育大学大学院博士課程実験心理学専攻単位取得退学。
文学博士(東京教育大学)。徳島大学教育学部講師,同助教授,同教授,信州大学教育学部教授,立命館大学文学部教授,同特任教授を歴任し,2007年退職。専門は実験系心理学(知覚・認知)。著書は『視知覚』(培風館),『知覚心理学の基礎』(培風館),『「知覚不全」の基礎心理学』(ナカニシヤ出版),『色と色彩の心理学』(共著,培風館),『心理学概説』(編著,培風館)など。

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