心の七つの見方
岡 隆
本書は心理学を学ぶ大学生や大学院生のために書かれた「心の哲学」の入門書です。最初に,物理的世界とは異なるものとしての心というデカルト的な二元論を紹介しながら,その見方の問題を明らかにしていく中で,ここ一世紀の心理学の歴史の中で次々と現れてきた六つの非二元論的な見方を紹介していきます。それらは,話し方としての心,行動としての心,頭の中のソフトウェアとしての心,脳としての心,科学的構成概念としての心,社会的構成概念としての心です。これら七つの見方は,それぞれが問題を抱えていますが,それぞれが正しい主張も行っており,他にはない利点を持っています。ウォラック夫妻は,これらの利点を統合して,八つ目の見方を提案しようとしています。
この翻訳を通して,私自身は,これまで無頓着,無自覚だった自分の心の見方を反省し相対化してみるという良い機会に恵まれました。また,本書では触れられていない非西欧的な心の見方などをさらに学んでいく良い足掛かりを得ることができました。
PTGの可能性と課題
宅 香菜子
編集の過程で何度も読んだが,読むたびもっと知りたくなる。
先日,第7章を読んだときには,心理臨床の場面で「介入を行う支援者と介入を受ける対象者」という関係性よりは,対等なパートナーシップのもとでかかわるほうが,何らかの学びや気づきが促進されやすいのではないか,というところが心に残った。受け手と送り手,利用者と提供者。役割をあえて忘れる瞬間を意図的に作りだすか。執筆者ともっと話がしたくなる。
今,第10章のコラムを読んでいる。「こうやったらいい」と押し付けるのではなく,人や地域が持っている力に敬意を払い,小さな変化をサポートすることが成長につながるのではという提案だ。その小さな変化が起きた時,これが後に続く一歩になるという信頼があったのかな。ずっとこのまま変わらない可能性もあると思ったかな。
本書には,危機を経験した人のその後を語る27名の声が載せられている。「回復」と言えば回復なんだろうけれど,でもそれとは何か違うようなものを言葉を尽くして語っている。
出会ってほしい人ばかりだ。
子どもとお金おこづかいの文化発達心理学
高橋 登・山本登志哉
本書は「おこづかい」を手がかりに,日韓中越の子どもたちの親子関係・友人関係の築き方,消費社会での生き方を比較・分析したものです。お金は中立的な価値の徴表であるだけでなく,規範的な意味合いをもった文化的道具でもあります。子どもたちはどのようなお金の使い方は許されるのか,あるいは許されないのか,文化的な規範のもとで生きています。私たちは質問紙調査を行うだけでなく,四ヵ国の研究者が皆でそれぞれの国を訪れ,子どもの買い物の様子を観察・インタビューし,家庭で親子にインタビューし,ミーティングを繰り返してきました。「おごり」をめぐる態度の違いなど,四ヵ国の子どもたちの姿はそれ自身とても面白いので是非お読みいただきたいのですが,本書で私たちは,その上で,互いの文化を「理解する」ための方法論を提案しています。異文化と向き合う中で私たちの心を揺り動かすようにして文化が立ち現れてくる,その過程自体を理論化したのが私たちの考える「差の文化心理学」です。ぜひ手にとっていただき,ご意見をいただきたいと考えています。
子どもはテレビをどう見るかテレビ理解の心理学
村野井 均
日本では,テレビについて,誰でもわかる簡単なメディアだと思われています。しかし,海外ではメディア・リテラシー教育として,テレビの「読み方」を教えている国もあります。なぜ,日本ではテレビが簡単だと思われているのでしょう。
そもそも,テレビ画面は平らなのに,なぜ奥行きのあるものとして読み取ることができるのでしょう。また,視聴者はナレーション,会話,効果音といった多くの音と映像を組み合わせてテレビを見ています。この組み合わせ方を誰が教えたのでしょう。さらに日本語は時制表現が明確ではないにもかかわらず,アニメには,回想や想像シーンがたくさん出てきます。子どもはこうしたストーリーを理解できているのでしょうか。
このように心理学の視点からテレビを研究すると,実はとても難しいメディアなのです。本書では子どもだけでなく高齢者の例も取り上げながら,私たちがテレビを見ることができる背景には,私たちが子どもの頃から自然に学んだ,隠れたカリキュラムがあることを示しました。