心理学ライフ
古墳はそそる
水野邦夫(みずの くにお)
Profile─水野邦夫
1993年,同志社大学大学院文学研究科博士課程後期課程中退。博士(心理学)。専門は人格心理学。著書は『心理学概論』(共編,ナカニシヤ出版),『カウンセリング心理学事典』(分担執筆,誠信書房)など。
はじめに
小学生の頃,たかしよいち先生の『日本人のなぞをさぐる』という本を読んで,古代史の世界にすっかり魅了され,それ以来,「考古学者になるぞ!」というのが私の将来の夢となりました。
それがどういうわけか,心理学の道へ進むこととなり,しかも大学入学時分は心理学のことなどまるで理解していなかったので,新入生歓迎会で自己紹介をした時には,軽々にも「将来は古代日本人の心理を研究したいです」と口走ってしまいました。後日,その話を伝え聞いた某先輩から「古代日本人の心理を研究するいうても,被験者みんな死んでおらへんがな!」とツッコミを入れられました。今思えば,たしかにその通りだなと思います(苦笑)。
とにもかくにも,「古代史好き」という流れから,昔の遺跡や伝承地,由緒ある神社などを訪ねたり,古墳を巡ったりするのが趣味となりました。とりわけ,今住んでいる奈良県は古墳の宝庫でもあり,巡るネタには事欠きません。木の生い茂るこんもりとした丘を見かけると,「おお,古墳や!!」と,まさに「古墳にコーフン」状態に陥ります(ベタなオチですみません)。
古墳は1人でも巡りますが,ここ8年ほどは,大学に「はにわっこ倶楽部」という非公認サークル(?)を設立し,同僚の先生や職員さん,大学院生,学部生,卒業生,その他ゆかりのある人たちとともに,奈良や大阪を中心に数々の古墳を巡り歩いています(写真参照)。もっとも,純粋に古墳を楽しんでいるのはごく一部のようで,ほとんどのメンバーは「みんなでわいわいできるから」,「運動不足の解消になるから」,「『部活』の後の飲み会が楽しみだから」と,全く別の動機で参加しているように見えなくもないのですが。
古墳の魅力
ところで,多くの人にとって,この趣味はどうにも奇異に感じられるようで,「一体何がおもしろいの?」と,いつも怪訝そうに聞かれます。「何が?」と言われても,そんなに深く考えたことはなかったのですが,改めて考えてみると,やはり「ワクワク感」ではないかなと思います。古墳を眺めていると,「今から千数百年も前に,ここで人々がどんな営みをしていたのだろう」,「舗装もされていなかった道を,みんなでえっちらおっちらと土や石を運び,どんなことを考えながら,あんな大きなものを造ったのだろう」,「当時のこの辺の景色はどうだったのだろう」……などなど,いろんなことをあれこれ夢想すると,何かしらその時代と一体化したかのようにワクワクしてきて,そのワクワク感が堪らないのだろうと思います。この感じは,なかなか言葉で上手く説明できません。
仮に理解してもらえたとしても,「別に古墳でなくても,寺院や城郭でもいいじゃないの(むしろそっちの方が自然?)」と言われるかもしれません。しかし,やはり古墳でないとダメなのです。なぜダメなのか。おそらく古墳の場合,被葬者もわからず,築造の年代や方法などが必ずしも明確ではなく,なぜあんな形や大きさなのかも不明で……と,あまりにも謎に満ちあふれていること。そして,人工物でありながら自然の産物のように見えて,何となく神秘的であること。さらには,多くの古墳が神話の世界とリンクしていること。こういったことが想像の自由度を広げさせ,私を非現実の世界へと誘い込むのかもしれません。
今もこの原稿を書きながら,次の日曜日に行く古墳のことを考えています(ちなみに,奈良の纏向遺跡周辺へ行きます)。今度はどんな世界に引き込まれていくのやら。
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