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ここでも活きてる心理学

心理学マインドを支えに

サントリー食品インターナショナル株式会社監査部 部長

清水隆徳(しみず たかのり)

Profile─清水隆徳
1991年,東京大学文学部心理学科卒業。同年にサントリー株式会社入社。洋酒事業部,経営企画本部グループ経営戦略部,食品事業部,経営企画本部国際戦略部,研究開発部等を経て現職。

研究開発部のあるサントリー商品開発センターにて

本年4月に現所属先に異動しましたので,今回は2014年より本年3月末まで所属しておりました「研究開発部」で経験したことをベースに,執筆させていただきます。

「せんみつ」の世界

私の勤務するサントリー食品インターナショナル社は,サントリーグループの中で清涼飲料に関する事業を手掛けている会社です。清涼飲料市場は非常に競争の激しい世界で,年間に1000の新製品が発売されるとも言われるのですが,翌年店頭に残ることができるのは3つだけと言われます。1000のうち3つだけで,別名「せんみつ」。このような環境を勝ち抜くためには,差別化された商品の開発,そしてそれを支える新たな技術や素材の開発が不可欠になってきます。

私が所属していた研究開発部では,清涼飲料の新たな価値につながる技術・素材の研究開発を行っています。その中にあって私自身は研究者としてではなく,研究をより市場価値の高いものにするため,研究領域の検討などを行う戦略企画業務や,部署のメンバーがベストパフォーマンスを発揮できるようにするための組織マネジメントを行ってきました。

心・組織・マネジメント

心理学関係の学科を卒業したとは言うものの,研究者ではない私が,業務において直接的に心理学の専門知識を用いることはありません。ですが普段の業務の中で,心のあり方や組織の雰囲気が業務に大きな影響を与えることは数多経験しており,また昨今そうした場面が増えているようにも感じます。

一例をご紹介します。研究開発部が設立されたのは,弊社のイノベーションに対する新たな取り組みの一環でした。技術研究テーマに対し,中長期的に腰を据えて取り組むことを念頭につくられた部署なのですが,短期的な結果を求められる部署が多い中,時間軸の違う研究を進めていくことは時に組織内外でコンフリクトを発生させます。研究が思うように進捗しなくなると,自分たちの研究の進め方や方向性に対する不安,関連部署との連携課題や自部署の存在意義への疑問等,数々の問題が噴出し,メンバー個々人の心のありようだけでなく組織全体のモチベーションも低下していくということがありました。

私にとっての心理学マインド

実際にこのような局面に接し,拙いながらも,発生している現象を科学的に理解しようとしている時に,自分なりの「心理学マインド」を感じます。具体的には「原因と結果の因果関係の整理・分析」や「何かしらの理論へのあてはめ」「自分の中でのノウハウ化」といった行動です。勿論,素人の思い込みは危険なことであり,最終的には専門性をもった方々のアドバイスを受けるのですが,個人の心や組織の雰囲気という眼に見えないものに対しても,心理学という科学的解釈の術があるという軸が自分の中にあることで,冷静で客観的な視点をもった行動につなげることができるのではないかと思います。

学部学生として学んだ心理学は,理論としては基礎的なものであったと思います。また卒業後10年,20年とたてば学んだことも古い理論になっていくのかもしれません。しかしながら「ココロを科学的に捉える」という意識をもち,社会生活の中の課題に対処していく姿勢,心理学マインドは,今も私の社会人としての行動の支えとなっています。

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