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【特集】

青年期におけるセックス ─セックスからの逃走とセックスとの闘争

追手門学院大学心理学部 教授

金政祐司(かねまさ ゆうじ)

Profile─金政祐司
大阪大学大学院人間科学研究科で博士(人間科学)取得。相愛大学講師,大阪人間科学大学講師,准教授,追手門学院大学心理学部准教授を経て,2015年より現職。専門は社会心理学。著書は『エピソードでわかる社会心理学』(共編,北樹出版)など。

弘前大学人文社会科学部 講師

古村健太郎(こむら けんたろう)

Profile─古村健太郎
筑波大学大学院人間総合科学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。新潟大学教育・学生支援機構特任助教を経て,2017年より現職。専門は社会心理学。論文は「恋愛関係における接近・回避コミットメント,感情経験と精神的健康の関連」(『心理学研究』)など。

久留米大学文学部 講師

浅野良輔(あさの りょうすけ)

Profile─浅野良輔
名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程後期課程修了。博士(心理学)。浜松医科大学子どものこころの発達研究センター特任助教を経て,2016年より現職。専門は社会心理学。著書は『計量パーソナリティ心理学』(分担執筆,ナカニシヤ出版)など。

はじめに

2017年4月,生涯未婚率(50歳までに一度も結婚したことがない人の割合)が過去最高とのニュースが流れた。国立社会保障・人口問題研究所(2017)の報告によると,2015年の段階での生涯未婚率は男性で23.4%,女性で14.1%とのことであった。これはある程度予想されていたこととはいえ,男性の約4人に1人,女性の約7人に1人が生涯未婚という現状にはやはり驚愕する。現在,結婚の約9割が恋愛結婚であること(国立社会保障・人口問題研究, 2016),また,現代においては恋愛や結婚とセックスが不可分であることを踏まえると,セックスに関する諸事は,単にそれのみの問題としてではなく,少子化や介護問題とも密接に絡み合う問題として浮かび上がってくると言えるだろう。

愛という名のもとに

図1 婚前交渉への態度の年次推移(NHK放送文化研究所,2015)
図1 婚前交渉への態度の年次推移(NHK放送文化研究所,2015)

私たちのセックスに対する態度は時代と共にどのように変化してきたのであろうか? それを探るための一つの指標として,婚前交渉への許容度,すなわち結婚前の男女の性交渉に対する考え方を取り上げてみよう。図1は,婚前交渉に対して,「結婚式がすむまでは,性的まじわりをすべきでない〈不可〉」あるいは「深く愛し合っている男女なら,性的まじわりがあってもよい〈愛情で可〉」が選択された割合の年次推移を示したものである(NHK放送文化研究所〔2015〕の調査では4択であったが,図には〈不可〉と〈愛情で可〉の数値のみを表記した)。1970年代から80年代までは,婚前交渉に対して〈愛情で可〉よりも〈不可〉の割合が高かったが,90年代に入るとそれが逆転して〈愛情で可〉とする割合のほうが〈不可〉を上回るようになる。さらに,2000年代以降は,婚前交渉を〈愛情で可〉とする割合は,〈不可〉のそれの約2倍にまで及んでいる。このデータを見る限り,私たちは愛情を伴うセックスに対して寛容になった。言うなれば,愛の名のもとに性が解放されたのである。そして,この性の解放,「性の春」は,時代的には90年代中期に訪れたとみなすことができるだろう。それは奇しくも,宮台真司が性を売る女子高生に焦点を当て『制服少女たちの選択』(1994年)を上梓し,援助交際(エンコー)なる言葉が世間に流布した時期(1996年)との重複を見せている。

若者はセックスから逃走したのか?

図2 性経験のない者の割合の年次推移(国立社会保障・人口問題研究所,2016)
図2 性経験のない者の割合の年次推移(国立社会保障・人口問題研究所,2016)

「草食系」という言葉が若者を修飾するための言葉として用いられ始め,それが人口に膾炙してから久しい。「草食系」は,特に男子の「枕詞」として使用されることが多く,また,近年では,若者の「草食化」というように,若者が全般的に恋愛や性に対する興味を失いつつある傾向を表現する(あるいは,もう少し広義に若者の欲望のなさややる気のなさを揶揄する)場合に用いられることもある。では,男性(もしくは若者)は本当に草食化したのだろうか? また,草食化したのであれば,それはいつからなのだろうか? 図2は,未婚者のうち性経験のない者の割合(セックス未経験率)を年齢別,男女別に示したものである。確かに,セックス未経験率は,18〜19歳と20〜24歳の男女の4群すべてにおいて2005年をピークとし,その後,2010年,2015年とその割合は上昇している。この点から見れば,若者は,この10年間に性に関して草食化し,セックスから逃走しているように見える。しかし,図2を全体として見た場合,セックス未経験率は,1987年もしくは1992年頃に回帰しただけと捉えることもできるだろう。同様の傾向は日本性教育協会(2013)の報告においても見てとれる。先のように,「性の春」が90年代中期に訪れたのであれば,現在の傾向は,若者の性に対する草食化というよりは,一時の潮流からの揺り戻し化と捉えたほうが妥当であろう(そもそも,「草食系」という言葉がマスメディアに登場し始めたのは2006年頃とされており〔森岡, 2009〕,データ的にはセックス未経験率が最も低い2005年とアイロニックな被りが見られる)。

図3 異性の交際相手がいない者の割合の年次推移
図3 異性の交際相手がいない者の割合の年次推移
 
図4 セックス(性交渉)することに関心があるとした者の割合の年次推移(日本家族計画協会,2017)
図4 セックス(性交渉)することに関心があるとした者の割合の年次推移(日本家族計画協会,2017)
 

ただし,上記の調査(国立社会保障・人口問題研究所, 2016)の「異性との交際状況」に着目すると,その様相は若干変わってくる。異性との交際状況について,恋人として,あるいは友人として「交際している異性はいない」と回答した未婚者の割合の年次推移を見ると(図3),18〜19歳と20〜24歳の男女の4群すべてにおいてほぼ右肩上がりになっており,特に男性でその傾向は顕著である。先のセックス未経験率の推移と合わせると,若者(特に男性)は,セックスから逃走したというよりも,親密な関係から逃走した,あるいはその煩わしさゆえに,愛という幻想にしらけてしまったのかもしれない。実際,髙坂(2013)は,近年における恋人を欲しいと思わない青年の増加を指摘しており,経年的なデータではないものの,現在恋人がいない大学生のうち,恋人を欲しいとは思わない者の割合が男性で28.7%,女性で30.9%(論文の数値より再計算)にも上ることを示している。また,今回,我々が独自に行った18〜29歳の男女1380名(男性684名,女性696名; 平均年齢=23.3歳, SD=3.4)を対象としたWeb調査(未発表)においても,恋人がいない者のうち,恋人を欲しくないと回答した者の割合は,男性で33.8%,女性で43.7%と,その年齢層は異なるものの,先の髙坂(2013)と同様にかなり高い割合を示していた。

セックスへの関心はどこへ消えた?

青年期の性的関心は,近年どのような傾向にあるのだろうか。図4は,16〜19歳と20〜24歳の男女別に「セックス(性交渉)をすることへの関心の有無」について,「とても関心がある」「ある程度関心がある」に回答した者の割合を調査年度別に示したものである。全体的に見ると,女性よりも男性のほうが,また,16〜19歳よりも20〜24歳のほうがセックスへの関心は高く,特に,20〜24歳の男性は,年度を問わず70%以上と高い値を示している。ただし,明確なトレンドはこの図を見る限り読み取れない。強いて挙げるとすれば,20〜24歳の女性のセックスへの関心が2008年以降緩やかに減退していることぐらいであろう。

日本性教育協会(2013)の報告でも,いままでに性的関心を持ったことがあるかについて,「関心なし」とする者の割合は,男子大学生では,1999年で0.5%,2005年で4.4%,2011年で4.4%と,それほど大きな増加は見られないが,女子大学生では,それぞれ8.1%,10.1%,26.0%と,その割合が近年増加傾向にある。また,高校生については,性的関心を持ったことがない割合は1999年から2011年にかけて,男子では,7.1%,19.3%,25.0%,女子では,20.7%,41.2%,53.5%とかなり増大している。これらの結果から,近年,性的関心が低下しているのは,「草食化」が叫ばれる男性よりもむしろ女性においてであり,さらに,男女ともに,性的関心を持つことに対しての遅延化が起こっているとみなすことができるだろう(もしくは,それを報告することに対する抵抗感が増大しているという可能性もあり得るが……)。

図5 ネット以外とネット上での性的描写の視聴頻度、ならびに自慰行為の頻度について1週間に1回程度以上と解答した者の割合
図5 ネット以外とネット上での性的描写の視聴頻度、ならびに自慰行為の頻度について1週間に1回程度以上と解答した者の割合
 

では,若者の「性的関心」ではなく,その直接的な指標となり得る「性的行為」についてはどうであろうか? 先に触れた我々のWeb調査では,18〜29歳の回答者に対して「インターネット以外で,アダルトビデオ(AV)や性的な描写を含む雑誌(ポルノ雑誌)を見る頻度(アニメや漫画は除く)」,「インターネット上で,アダルトビデオ(AV)や性的な描写を含む雑誌(ポルノ雑誌)を見る頻度(アニメや漫画は除く)」,また,「自慰(マスターベーション,オナニー)を行う頻度」について尋ねている。その結果(図5),それらの行為について「1週間に1回程度以上(ほとんど毎日,2〜3日に1回程度,1週間に1回程度)」と回答した者の割合は,ネット以外での性的描写の視聴については,男性全体の16.5%,女性全体の2.4%,ネット上での性的描写の視聴については,男性全体の54.1%,女性全体の13.4%,また,自慰行為については,男性全体の75.3%,女性全体の23.0%であった。男性に限って言えば,約半数が1週間に1回程度以上の頻度でネット上での性的描写を視聴し,4人中3人が1週間に1回程度以上の頻度で自慰行為を行っていることになる。この調査結果は経年的なデータではないため,それらの変化についての言及はできないものの,若者の性的関心がそれほど低くはないことが,あるいは,我々が操る糸を断ち切ってはいないことが,このような性的行為の頻度によっても示唆されていると言えよう。

セックスの導火線に火をつけるのは? ─青年期の性的経験に影響を与える要因

青年期の性的経験に対して影響を及ぼす可能性のある要因とはいったい何だろうか? 先の日本家族計画協会(2017)の調査によると,子どもの性交開始年齢には,親や家庭環境が少なからず影響を及ぼすことが報告されている。また,大学生を対象とした調査研究では,ダークトライアド(自己愛傾向,マキャベリズム,サイコパシー傾向という反社会性の高い三つのパーソナリティ特性)あるいはサイコパシー傾向自体が,短期的配偶戦略(複数の相手と短期的に性的関係を築くような行動パターン)の取りやすさやソシオセクシャリティ(コミットメントのない相手と性的関係を築く傾向)の高さと関連することが示されている(Jonason, Li, Webster & Schmitt, 2009; Kastner & Sellborm, 2012)。先に言及した我々のWeb調査においても,ダークトライアドは男女ともにソシオセクシャリティと有意に関連するという上記の研究と同様の結果が得られており(男性 r=.29, p<.001; 女性 r=.19, p<.001),本邦においても,反社会性の高いパーソナリティ特性が,短期的な性的関係,あるいはコミットメントのない相手との性的関係の築きやすさを増大させることが示唆された。ただし,青年期の性的経験に影響を及ぼす要因に関しては,心理学の分野においてこれまでそれほど多くの研究知見が蓄積されているとは言いがたく,リスクのあるセックスや望まないセックスといった青年期におけるリスクファクター等を含め,今後,さらに検討を行っていく必要があるだろう。

セックスの彼方─まとめとして

先にも触れたように,近年,恋人がいない若者の増加,さらには,恋人を欲しくないと考える若者が増加していることで,セックス(あるいは性的行為全般)をどう考えるかという問題も顕在化してきていると言える。セックスは消費なのか,生産なのか。消費であればその対象は二次元や画面上の人物でもかまわない。しかし,生産と考えるならその対象は三次元である必要があるのではなかろうか。恋愛や結婚とセックスが不可分である現代において,セックスに関する問題は,晩婚・非婚・少子化・介護・貧困といった現代の日本が抱える大きな問題とも密接に絡み合う。セックスを考えることは広く社会の問題に目を向けること,さらに言えば,社会のあり方について考えることにもつながっていくのである。

文献

  • Jonason, P. K., Li, N. P., Webster, G. W. & Schmitt, D. P.(2009)The dark triad: Facilitating short-term mating in men. European Journal of Personality, 23, 5-18.
  • Kastner, R. M. & Sellborm, M.(2012)Hypersexuality in college students: The role of psychopathy. Personality and Individual Differences, 53, 644-649.
  • 国立社会保障・人口問題研究所(2016)第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査) Retrieved from http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/doukou15_gaiyo.asp(2017年4月11日)
  • 国立社会保障・人口問題研究所(2017)人口統計資料2017年度版 Retrieved from http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2017.asp?chap=0(2017年4月11日)
  • 髙坂康雅(2013)青年期における“恋人を欲しいと思わない”理由と自我発達との関連.『発達心理学研究』24, 284-294.
  • NHK放送文化研究所(編)(2015)『現代日本人の意識構造 第8版』NKH出版
  • 日本家族計画協会(2017)第8回 男女の生活と意識に関する調査報告書:日本人の性意識・性行動.一般社団法人日本家族計画協会
  • 日本性教育協会(編)(2013)『「若者の性」白書:第7回 青少年の性行動全国調査報告』小学館
  • 宮台真司(1994)『制服少女たちの選択』講談社
  • 森岡正博(2009)『最後の恋は草食系男子が持ってくる』マガジンハウス

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