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【小特集】

音楽と運動の不可分な関係

東京大学大学院総合文化研究科 助教

三浦哲都(みうら あきと)

Profile─三浦哲都
2007年,早稲田大学スポーツ科学部スポーツ医科学科を卒業。2012年に東京大学大学院総合文化研究科にて博士(学術)取得。2017年より現職。専門はスポーツ心理学,運動制御,神経科学。

東京大学大学院総合文化研究科

惠谷隆英(えたに たかひで)

Profile─惠谷隆英
2013年,慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2015年,東京藝術大学大学院音楽研究科音楽音響創造修士課程修了。2016年より現所属(博士後期課程)。専門は身体運動科学,音響心理学。

東京大学大学院情報学環 准教授

工藤和俊(くどう かずとし)

Profile─工藤和俊
東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程修了。2016年より現職。専門はスポーツ心理学。著書は『身体:環境とのエンカウンター』(分担執筆,東京大学出版会)など。

ヒトは音楽を聴くと,自然と音に合わせて身体を動かしたくなってしまいます。音楽に合わせて踊ることは,時代や洋の東西を問わず観察される極めて普遍的な行為であり,生後5ヵ月の乳児においても既に認められる基本的な能力です1。一方で動物の世界に目を向けると,音楽に合わせて動くことができるのは鳥,アシカ,チンパンジーなど限られた種のみであることが明らかになっています2。このことは,歌い踊ることがヒトという種において高度に進化したことを示唆しています。本稿では,ヒト社会における音楽と運動の深い結びつきについてご紹介します。

運動を組織化する音情報

音楽に合わせて自由に踊っているとき,私たちの踊りは本当に「自由」なのでしょうか? 実は音楽のビート音と私たちのリズム運動は,無意識にある特定のパターンになってしまうことがわかっています。このことを明らかにしたストリートダンスの研究をご紹介します3。ストリートダンスには,ビート音に膝を曲げる運動を合わせる「ダウン」と,膝を伸ばす運動を合わせる「アップ」の2種類のリズム運動があります。この2種類のリズム運動を,様々な速度のビート音に合わせて行うと,ダウンはどの速度でも誰でも簡単に行うことができました。一方アップは,ビート音が速くなると,「無意識に」ダウンに切り替わってしまう相転移現象が観察されました(図1)。そこで次に,アップからダウンに切り替わらないように最大限努力をするように指示をしました4。それでもやはり,ダンス未経験者は2Hz(120拍/分)の速度でダウンに切り替わってしまいました。つまりヒトの神経系は,ビート音に対して特定の位相パターンをもつ運動を自発的に作ってしまうのです。熟練ストリートダンサーも,意図に反してアップからダウンへと切り替わってしまいますが,非ダンサーよりも速くアップを行うことができます。ストリートダンスの世界チャンピオンは,なんと3Hz(180拍/分)の速さでもアップを行うことができました。熟練ストリートダンサーは,通常ヒトが持っている神経系の制約を克服することで「自由」に踊ることができるのです。

音と運動の密接な関係は他にも報告されています。手に持った振り子をメトロノーム音に合わせて振る実験では,振り子を振る際の一方の端を音に合わせる単一メトロノーム条件と,同じ運動リズムで両端を合わせる二重メトロノーム条件とで,動きの安定性を比較しました。リズミカルな運動のアトラクタ(安定軌道)を再構成する再帰定量化解析法(recurrence quantification analysis)を用いて動きを評価したところ,二重メトロノーム条件では運動時のノイズが低減し,アトラクタ強度が増大することによって,動きが時空間的に安定することが明らかになりました5。

さらに,一定のテンポを保つようにして,①単独で発声する場合,②単独で運動する場合,③発声と運動を両方行う場合,とでテンポの変動を比較すると,声を出しながら運動することによって,それぞれを単独で行うよりも時間的変動が小さくなることが分かりました6。このことは,歌い踊ることでシナジー(相乗)効果が生まれることを示唆しており,この効果が両者の共進化を支えていたのではないか,などと想像を逞しくしてしまいます。

図1 非ダンサーのアップからダウンへの相転移現象。膝の運動の1サイクルを360度(0-180度:伸ばす期間,180-360度:曲げる期間)で表現し,360度中のどの時刻(位相角)でビート音が鳴ったかを定量化し,ヒストグラムにした図。([3]よりElsevier社の許可を得て引用改変)。
図1 非ダンサーのアップからダウンへの相転移現象。膝の運動の1サイクルを360度(0-180度:伸ばす期間,180-360度:曲げる期間)で表現し,360度中のどの時刻(位相角)でビート音が鳴ったかを定量化し,ヒストグラムにした図。([3]よりElsevier社の許可を得て引用改変)。

音楽と運動が結びつく神経基盤

ヒトはリズムを知覚すると,身体を動かしていないにもかかわらず,運動を司る脳の部位が活動することが知られています。ベングトソンら7は,実験参加者にリズムのある音の系列とランダムな音の系列を聴かせ,そのときの脳活動を調べました。その結果,リズムのある音の系列を聴いた場合に,運動前野背側部,補足運動野,前補足運動野がより活動することが分かりました。ヒトが自発的にリズムに合わせて身体を動かしてしまうのは,運動皮質の興奮性が高まることによって,運動を実行するための閾値が下がるためだろうと彼らは述べています。

音楽のグルーヴと身体運動

ソウル,R&B,ファンクなど主にブラックミュージックの世界では,音楽に合わせて身体を動かしたくなる感覚を「グルーヴ」と呼びます。日本では「ノリ」と呼ばれる感覚です。ジャナタら8は,まず148種類の音楽を実験参加者に聴かせてグルーヴを評価してもらい,グルーヴのランキングを作りました。次に,この主観評価のランキングを用いて,グルーヴの高い音楽が実際に身体運動を引き起こすか否かを調べました。その結果,予想された通り実験参加者は高いグルーヴの音楽を聴いているときに,より多くの自発的な身体運動をみせました。また,音楽家の場合,グルーヴの高い音楽を聴いているときのほうが,一次運動野がより興奮することも報告されています9。

音楽を用いた運動支援・運動療法

スポーツ教育やリハビリテーションの現場では,音楽と運動の結びつきを上手く活用することで成果をあげています。シンプソンとカラゲオジス10の研究では,音楽を聴いたときとそうでないときの400メートル走のタイムを比較しました。その結果,走るリズムと合った音楽を聴いた場合に,音楽を聴かなかった場合と比較してタイムが縮むことが分かりました。興味深いことに,モチベーションを高める音楽とそうでない音楽との間では効果に差がみられませんでした。つまり,音楽によるパフォーマンスの向上は,音楽によるモチベーションの向上が原因ではなく,音楽の持つリズムが重要であることを示唆しています。また,高齢者が運動をするときには音楽に合わせて運動をするほうが,音楽なしで運動をするよりも,脳の老化を抑え認知機能に良い効果をもたらします11。さらにパーキンソン病や脳卒中のリハビリテーションでは音楽に合わせて動くことで,症状が緩和されることも報告されています12, 13。

音楽と運動の研究

これまで見てきたように,ヒトの運動は音と深く結びついています。ヒトはなぜ音楽という文化を発展させてきたのかは未だ明らかになっていません。しかし,音楽と運動の結びつきを研究していくことで,この答えに近づくことができるかもしれません。音楽やダンスのイベントに参加する人ほど,他者とのつながりに関して主観的な幸福感が高いことが報告されています14。音楽とダンスは人と人を強固に結びつける芸術です。音楽を聴いて,体を動かし,他者とつながる。このサイクルを総合的に研究していくことが,ヒトの起源にも迫る道だと私たちは考えています。

文献

  • 1. Zentner, M. & Eerola, T.(2010)P Natl Acad Sci USA., 107, 5768-5773.
  • 2. Patel, A. D.(2014)PLoS Biol., 12, 1-6.
  • 3. Miura, A., et al.(2013)Neurosci Lett., 544, 157-162.
  • 4. Miura, A., et al.(2011)Hum Movement Sci., 30, 1260-1271.
  • 5. Kudo, K., et al.(2006)J Exp Psychol Hum Percept Perform., 32, 599-609.
  • 6. Miyata, K. & Kudo, K.(2014)PLoS One, 9.
  • 7. Bengtsson, S. L., et al.(2009)Cortex, 45, 62-71.
  • 8. Janata, P., et al.(2012)J Exp Psychol Gen., 141, 54-75.
  • 9. Stupacher, J., et al.(2013)Brain Cognition., 82, 127-136.
  • 10. Simpson, S. D. & Karageorghis, C. I.(2006)J Sport Sci., 24, 1095-1102.
  • 11. Tabei, K., et al.(2017)Front Aging Neurosci., 9, 174.
  • 12. Lim, I., et al.(2005)Clin Rehabil., 19, 695-713.
  • 13. Nascimento, L. R., et al.(2015)J Physiother., 61, 10-15.
  • 14. Weinberg, M. K. & Joseph, D.(2017)Psychol Music., 45, 257-267.

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