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Over Seas

朝焼けのミシガン湖

石金浩史
専修大学人間科学部心理学科 教授

石金浩史(いしかね ひろし)

Profile─石金浩史
2000年,東京大学大学院人文社会系研究科心理学専門分野博士課程修了。博士(心理学)。東京大学助手,理化学研究所脳科学総合研究センター研究員,専修大学文学部講師,人間科学部准教授を経て,2016年より現職。専門は生理心理学,神経科学,電気生理学。著書は『イラストレクチャー認知神経科学』(分担執筆,オーム社)など。

 

在外研究の機会を得て,2016年4月から2017年3月末までの1年間,アメリカ合衆国イリノイ州シカゴに滞在しました。シカゴは北米神経科学会の大会が開催されたり,ハブ空港として有名なオヘア空港があったりと馴染みのある都市です。滞在先は専門性と受け入れ先研究室の教授で選ぶので気候は無視したのですが,ミシガン湖が完全に凍る冬の寒さは雪国出身の自分にも格別でした。チューリップで飾られたシカゴの春は短く,5月末のメモリアルデーを過ぎるとすぐに夏になるのですが,爽やかな高原のような初夏の季節が続いたまま盛夏がいつ来るのかしらと待っているうちに夏が終わりました。

 

滞在先はノースウエスタン大学医学部のSteven DeVries教授の研究室です。大学のメインキャンパスはシカゴ郊外のエバンストンにあるのですが,医学部キャンパスはダウンタウンにあります。渡航前には郊外に住んで電車か車で研究室に通うことを想定していたのですが,DeVries教授から研究室まで歩いて通えるところに住むことをstrongly recommendされたので,素直に(泣く泣く)相場の高いダウンタウン内のアパートを探しに探して契約しました。歩いて通える必要については研究開始後に分かることになります。家具付きの物件がなかったので,全てAmazonでBest Sellerとなっている激安品を調達して生活の立ち上げを行った後に,本格的に実験を開始しました。

 

DeVries教授は眼科医ですが,視覚初期過程を対象とした神経生理学がご専門で,多細胞同時記録法やパッチクランプ法を駆使して,Natureなどのインパクトの高い論文に加え,Nature NeuroscienceやNeuronなどにもコンスタントに成果を発表している研究者です。私は実験技術をDeVries教授から教わる過程で,実験に対する真摯さや集中力,そしてその技術力の高さに驚嘆しました。

 

実験は標本を作製してから正午頃開始するのですが,終了するのは翌朝4〜5時頃です。途中適当に夕飯を挟むのですが,おおよそ15〜16時間は実験セットに向かってマニピュレータを動かし続けるというものでした。ミシガン湖沿いの帰り道で,外で作業をしている早番のレストランスタッフに「グッモーニン」と声をかけられながら帰宅したら即気絶寝です。標本を研究チームで有効に活用するためにもこのスケジュールは必要なのですが,なかなかハードな毎日でした。向こうの習慣で週明けには必ず教授やポスドクの皆さんに「週末はどうだった?」ときかれるのですが,渡航後半年ぐらいは「ただ寝ていました」と答えることが続きました。ということで,研究室徒歩圏内に住むことが必須だったわけです。ただし,半年後には慣れて平気で週末に出歩けるようになるから不思議です。近場の美術館を巡り,Frank Lloyd Wright設計の建築群を眺めたことが最高の思い出となりました。研究のほうはというと,二つ実施したテーマのうち,一つは日本で実験継続となりましたが,もう一つは論文投稿までこぎ着け,現在査読中です。

 

米国滞在中,メジャーリーグのカブスによるワールドシリーズ優勝,トランプ大統領誕生に関連する市民の抗議活動など,シカゴは喜怒哀楽に充ちた1年でした。また,DeVries教授がNIHのグラントの査読を行っている様子を垣間見ることができたり,学会のオーガナイザーとして活躍する様を見ることができたりと,実験以外についてもなかなか知り得ないことを勉強させていただきました。今後,研究・教育を続けていく上で,極めて貴重な体験となり,国際学会に参加するだけでは得られない自分の成長の糧となったことを実感しています。

 

最後に,大学の恩師と所属大学の学科スタッフおよび事務職員の支えにより大過なく在外研究を終えられたことを感謝申し上げます。

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