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ここでも活きてる心理学

「わかりやすい」情報提供を通じた読解の指導

TOPS京都・医専 専任講師

内海 健太(うつみ けんた)

Profile─内海 健太
2016年,京都大学大学院教育学研究科教育科学専攻博士課程修了。専門は認知心理学。博士課程在学中から京都外国語大学で非常勤講師を兼任し,2017年よりTOPS京都・医専で国語科専任講師として勤務。

集団授業における授業風景
集団授業における授業風景

医学部受験指導

私は現在,「TOPS京都・医専」という医学部受験専門の学習塾で国語科講師として勤務しています。TOPS京都・医専は医学部に特化した受験システムを日々構築・研究しており,2017年度においては私立大学医学部合格率81パーセントという驚異的な成果を上げるに至りました。そんな学習塾での国語科指導において,私が研究者時代に培ったいくつかの能力が積極的に貢献していると実感しています。その代表的なものとして,「心の理論」と「プレゼンテーション能力」の二つを挙げたいと思います。

一点目の心の理論については,小論文や面接の指導に貢献しています。医学部受験では,小論文・面接課題を通じた情報の出力作業がしばしば要求されます。しかしながら現代の多くの医学部受験生が,文章を読むという情報の入力作業は得意である反面,この出力作業が苦手という弱点を抱えています。その一例として,小論文で自身の意見を問われた際に,小論文の主旨とあまり関係のない話から答えを作り出すという傾向を挙げることができるでしょう。一方私は研究者時代に,「読み手(あるいは聞き手)がどんな情報を求めるか」を考慮するという心の理論をもって論文や申請書を作成することの有効性を知り,これに沿って出力を行う技術を体得しました。これを小論文や面接の指導に取り入れることは単なる小論文指導に留まらず,「患者の心理を推察した上で医療を進める」という,患者のQOL向上を尊重できる医師の輩出に貢献すると確信しています。

二点目のプレゼンテーション能力に関しては,授業内での板書の構成に大きく役立っています。国語科指導においては,読解という複雑かつ抽象的な技術をいかに単純に提示するかが肝要だと考えています。さらにこの読解は手続き的な特性が強いため,国語科講師にとってはこれを言語で伝えるにあたり,より一層の工夫が必要になります。これらの特性ゆえに国語科は,指導内容を非常に複雑な形で提示してしまうとそれが汎用性のある技能として生徒に定着しない,という危険性を有します。これに対しては,私が研究者時代に経験した多様なプレゼンテーションから獲得した,「複雑な情報の単純化こそ有意義」という理念が有効に働いています。つまりこの理念は,「板書構成の単純化が,当該の一問を通じたより汎用性の高い技能(すなわち,読解)の供給に効果的である」という思考の基盤として確かに現職で活きていると実感しています。

私の研究と大学受験

私の博士学位論文のテーマは,展望記憶のメカニズムを抑制の役割から探ることでした。この結論として,表象あるいは反応に対する抑制経験のそれぞれが,展望記憶の検索に対して独自の影響をもつことを主張しました。これは,過去に何を行ったかが我々の未来に強く作用する可能性を示しています。

そして私はこの結論を,今私が関わる生徒に対して「何を実行してきたかが,君たちの未来を変える」という一つの人生観として説いています。心理学という学問が私に与えてくれたものは,研究に関わる専門的知識のみならず,このような人生観であったと振り返っています。私の人生に深みを与えてくれた心理学に,心から感謝しています。

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