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裏から読んでも心理学

何ごとも心がけ次第ですよね。

慶應義塾大学文学部 准教授

平石 界

春ですね。人の心を読めるようになって大学生活充実させちゃうぞーと「心理学入門」の教室をのぞいた大学一年生が錯視の飛び交うOKGoのMVを見せられて目をグルグルさせる季節ですね。思っていたのと違う。でも面白い!となれば担当教員としてはしめたもの。さぁ次はちょっと考えてみよう。自動車に乗るのと,飛行機に乗るのと,どっちが怖い? そう,飛行機怖いよね。でもね,飛行機事故に遭う確率なんて,車に乗ってて事故に遭う確率よりずっと小さいんだよ。人の心なんて当てにならないもんだろう!? 春は一年のうちでもっとも心理学者のドヤ顔が見られる季節です。

そうは言われてもやっぱり「心」にはすごい力もあるって思いたいのが人情ですよね。Ames さんとFiske さん(2015), 実験参加者に,看護師がムカつく患者にイタズラで違う薬を飲ませたという話を,パソコン上で読んでもらいました。そのせいで患者さんに生じたさまざまな健康上の被害(動悸とか血圧急低下とか)が,一つずつ被害額とともに2秒間画面に表示されて,最後に質問が出てきます。「さて,被害総額はいくらだった?」。正解は4,337ドルだったのですが,回答の平均は5,224ドルでした。10万円くらい多い。そんな,いきなり質問されたら覚えてないよね,間違えちゃうよねと思うかもしれませんが,錠剤が似ていて取り違えてしまったというストーリーだと平均4,557ドルだったわけで,やっぱり「心」の力はすごい。悪意があれば害も大きい(気がする)。著者がFiskeさんで掲載誌がPNASと聞くと妙な納得感があります。

それで言うと,Thomasさんら(2016) の「子供を一人にしちゃダメ」研究も興味深い。大人の目が届かないところで一人でいる子供がどれくらい危険だと思うか尋ねたものです。「母親が,恋人と会うために,10 ヵ月のオリビアちゃんを涼しい地下駐車場に停めた車内に15分間置き去りにした」とか「仕事のために,自宅から約1マイルはなれた公園で,6才のジェニーを25分間一人きりにさせた」など,幾つかの状況があったのですが,ここでポイントは母親の「心がけ」。仕事,ボランティア活動,恋人との逢瀬,ちょっとした息抜き,そういう意図があって子供を一人にした場合には,意図せざるアクシデントで子供が一人きりになってしまった場合よりも,子供への危険は大きいと研究参加者たちは回答しました。自分の用事を優先して子供を一人にするなんて,そんな勝手なことは許せない! きっと罰が当たりますよ! ってことでしょうか。なぜだかうっ すら,用があっての時のほうが事前に安全に配慮する余裕があるんじゃないかって気がするんですが,気のせいでしょう。あとなんか,母親の場合と違って,父親が仕事のために子供を一人にした場合はあまり危険と思われないって書いてあったようですけど,それもきっと気のせい。

まぁ実際,子供を一人にするのは良くないですよ。Thomasさんらによれば年間140万人に一人の子供が誘拐されるって試算があるそうですから,めっちゃ多いじゃないですか。娘が小さい頃,たとえ家から数分の公園でも,忘れ物したら必ず一緒に家まで取りに帰ったものですが,やっぱり自分は正しかった。え,なに?利用可能性ヒューリスティクスがどうかしましたか? あれねぇ,納得感もあるんですけど,恣意的になんでも説明できちゃったりもするじゃないですか(Gigerenzer & Gaissmaier,2011)。ああいう後出しジャンケン的なのは,ちょっとどうかと思うんですよね。心理学者として(ドヤ顔)。

Profile─ひらいし かい
慶應義塾大学文学部 准教授。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。東京大学,京都大学,安田女子大学を経て,2015年4月より現職。博士(学術)。専門は進化心理学。

平石界

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