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こころの測り方

新コーナーの立ち上げにあたって

専修大学人間科学部心理学科 教授/心理学ワールド編集委員会 副委員長

大久保 街亜(おおくぼ まちあ)

Profile─大久保 街亜
2002年,東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。2014年より現職。専門は認知心理学。著書は『伝えるための心理統計』(共著,勁草書房)など。

学部生の愚痴

学部1,2年の学生からよく愚痴を聞かされます。「実験のレポートが辛いです」「なんで毎週締め切りがあるのですか?」「私は文系受験なので統計がとても苦手です」─私も学部生時代に同じような体験をしたので気持ちはよくわかります。しかし残念ながら,心理学実験にしろ,心理統計にしろ(科目名は大学によって違うと思いますが),心理学を学ぶものにとって通過儀礼のようなものです。通常,避けることができません。

なぜでしょうか? それは心理学が実証的な学問だからです。心理学の研究成果は何らかのかたちでデータ,そしてその測定に支えられています。しかも心理学の測定には特殊なところがあります。心は直接観察できません。これが物質を対象とした多くの分野と決定的に違い,心理学のデータ測定を特殊にしています。例えば,知能を知るために頭を開いて中身を見ても,(少なくとも現時点では)わかることはほとんどありませ ん。すべからくこのような調子なので,直接観察できない心理事象を実証的に検討可能にする様々な方法が心理学では開発されてきました。様々な心理尺度,心理物理測定,生理指標など実に多種多様です。

この新コーナー「こころの測り方」は,心理学においていわば生存意義的に重要な測定の問題をわかりやすくお伝えすべく立ち上げられました。多くの人はあらゆる方法論に精通しているわけではありません。また,日進月歩する最新の研究手法に精通するのは至難の業です。インターネットを検索すれば情報はいくらでも出てきます。しかし,どれが信頼できる情報なのか判断つきかねる方も多いでしょう。そのような方々に新し い研究手法や珍しいテクニックなどを紹介し,さらに深い知識を得るための情報を提供できればと編集委員会では考えました。

研究成果と方法は不可分

心理学に限った話ではありませんが,研究の成果は研究方法と不可分です。技術が進めばこれまで取れなかったデータを取ることができます。そして,そのおかげで新たな知識が得られます。例えば,fMRIという技術が誕生してから,心と脳の関係について爆発的に理解が深まりました。データの解釈も統計手法の進歩により全く違う次元へと進むことがあります。例えば,共分散構造分析が導入され潜在変数を仮定した分析が行われるようになり,複雑な心のメカニズムを想定した仮説を比較的手軽に検討できるようになりました。最近では計算機の性能が爆発的に進歩したことによって,データ解析の手法に革命的とも思える変化も生じています。いわゆるビックデータ・サイエンスが一例です。加えてベイズ統計のアイデアを複雑なデータ解析に適用できるようになり,心理学でもそのような分析が最近急増しています。この盛り上がりを象徴するかのように,2017年に久留米で行なわれた日本心理学会大会ではベイズを冠したシンポジウムが数々行われ,どれも満席札止めでした。

次号から,ベイズ統計のように急激に盛んになってきたもの,効果量のように最近になって重視されるようになったもの,そして,テキストマイニングなどよく使われるもののあまりスタンダードではない手法などをこのコーナーで取り上げます。統計的な手法だけでなく,最近比較的安価かつ手軽に行えるようになってきた眼球運動測定なども取り上げます。それらの手法やアイデアについて,専門家からわかりやすくかつ簡潔に 説明してもらい,さらに深い理解を目指すために役に立つ書籍などを紹介してもらいます。さらに,次号では関連した内容として「クラウドソーシングの時代へ」と題した小特集で,最近増えてきたクラウドソーシング,すなわち,インターネット上で多数の人々に業務を外注するサービスを利用した実験や調査の現状も紹介します。技術の進歩や新しい発想は,心理学にとって素晴らしい未来を切り開く重要な道具です。新しい未 来の素晴らしさを享受するためにも,そして自分自身で切り開くためにも,新しい手法を避けて通ることは得策ではありません。まずはそのきっかけをこのコーナーでつかんでください。

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