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この人をたずねて

田中 あゆみ
同志社大学心理学部 教授

田中 あゆみ(たなか あゆみ)

Profile─田中 あゆみ
2003年,同志社大学文学研究科心理学専攻博士課程後期課程修了。博士(心理学)。同志社大学文学部助手,専任講師,准教授を経て,2016年より現職。2005年4月〜2006年3月にはアメリカ・ロチェスター大学で,2013年4月〜2014年3月にはベルギー・ゲント大学で客員研究員を兼任。専門はヒューマン・モチベーション。

田中先生へのインタビュー

インタビュアー:植田 瑞穂

─先生のご研究のテーマや,研究を始めた経緯について教えてください。

一言でいうと,ヒューマン・モチベーションの研究になります。モチベーションの研究には色々な分野がありますが,その中でも,達成したい,有能でありたい,人と仲良くしたいなど,ヒト特有のモチベーションについて研究しています。もともと,指導教員が達成動機づけという言葉を日本に導入した先生で,アトキンソンやマクレランドを中心とした理論に関する研究をされていたので,私もそこから学んできました。

─モチベーションに関してご研 究される中で,面白い点や醍醐味 は何でしょうか。

ゼミの紹介でもよく言うんですが,行動の理由はすべてモチベーションと言えるので,どういう時にどういう行動が起きるのかということを解明するには概念としてとても便利です。行動を扱うんだったらなんでもモチベーション研究にはなり得るんですね。その点で,研究の応用可能性やアピール力はあるかなと思います。

─そのような中で,特に最近はどのようなことにご関心を持って研究に取り組まれていますか?

これまで特にずっと扱っているのが達成目標という概念で,これは達成場面で持つ目標のことを指します。それを今,教育場面などというよりは,実験室において記憶とか認知機能に関する行動にどう影響するかという,基礎的なところを探ろうとしています。併せて,近赤外線スペクトロスコピー(near-infrared spectroscopy:NIRS)を研究に利用しようかなと思って,今年度から取り組み始めているところです。どんな行動にせよ,まずは脳に変化が起きると思うので。基礎的な実験において脳に何が起きているかを押さえることで,質問紙研究では捉えきれなかった原理的な部分やより大きな効果について,明らかにしていきたいと思っています。

─教育現場や職業場面のようなフィールドにおいてデータを取るご研究も,これまでにされていますね。その上で,研究と現場の相互作用といったことについて,何かお考えをお持ちでしょうか?

フィールドで色々とお話しさせていただく中で,アイディアをもらうことはありますね。一方で,フィールドに行くと私たちのほうにも「答え」のようなものを求められることが多いんですが,再現性が高い,確実な心理現象のようなものでない限り,フィールドに持ち込んでもしょうがないというか,めったなことは言えないなというふうに思います。アドバイスするにも,それが本当なのかなというのは常に自問自答しながらになるので。なので,相互作用するにしてもまず,そのしっかりとした答えを基礎研究できちんと確かめないといけないなと思っています。フィールドに行くとそういうことをますます感じるというのはありますね。

─先生は現在,新学術領域で計画班の代表研究者をされていますが,一つの大きなテーマに関して他の分野の先生方と共同で研究されることについて,何か感じられていることはありますか?

新学術領域では,神経科学,内科学,精神医学,スポーツ科学などの先生方と一緒に「意志力」というテーマで解明を進めています。心理学からの研究班は私たちだけです。今はいろんなお話,例えば最先端の神経科学の話などを聞かせていただくのが喜びですね。他の分野の先生方はラットを使うなど,主な対象がヒトではないこともあって,その中にいると私たちがある意味かなり異質ではあるんですが,例えば最後に応用したり,還元したりする時には心理学が必要です。こういうふうに,学問としての立ち位置を常に考えるのは,面白いなと思いますね。

新学術領域で担当する研究は主に質問紙研究になるんですけど,まだ始まったばかりなので,その結果にどれくらい納得してもらえたり,役に立つなって思ってもらえるのか,どういう相互作用になるのかはまだわからないですが,概念には興味を持ってもらってるなということはちょっと感じました。例えば,代表の先生がラットの行動を説明する際に,内発的動機づけという心理学用語をちょっと使ってくださるようになってき まして。そういった点では,お話しをした甲斐はあったかなと感じています。

─今後,どういった研究に取り組んでいきたいか,展望のようなものはお持ちでしょうか。

モチベーションには面白い概念がたくさんあるんですが,一番強力な理論は何なのかということを一度確かめたいなという思いがあります。ただ,これまで言われてきたことについては,あまり再現されてないものも多いので,まずは,色々な結果がきちんと再現されるものなのか,どれくらい効果が大きいのかということを,一つ一つきちんと確かめないといけないと思っていますね。あるものをそのまま受け入れるだけだと,頑 健だと思い込んでいても,効果がないものもありますし,もしかしたらほとんどそうかもしれないですし。本当に頑健なものについては価値があると思うので,そういうものについて,基礎実験をきちんと行って,神経科学的に解明してもらえるようにつないでいく。神経科学の発展のためにも,ヒトの行動を扱ってもらう必要があると思うんですけど,我々がその点をつながないといけないなと思います。

─最後に,若手研究者へのメッセージをお願いします。

やっぱり頑張って論文を書きましょうという,それだけですね。書けば書くほどいい,それ以上でもそれ以下でもないと思います。

インタビュアーの紹介

インタビュアー:植田 瑞穂

インタビューを終えて

今回田中先生にインタビューさせていただくという貴重な機会をいただき,かなり緊張もしましたが,先生はそんな私の拙い質問にも一つ一つとても丁寧に答えてくださいました。個人的に心に残ったのは,やはり研究に対する真摯な姿勢です。特に,基礎研究として再現性・頑健性を重視し,真実を追究したいという思いがとても伝わったインタビューでした。

私自身は子どもの発達にかかわる研究をしているので,基礎研究ではありながら,常に保育・育児・教育などのフィールドが近くにあります。ですので,答えを求められることの葛藤などについて,とても共感させていただきました。協力していただいている以上,何かお役に立てることを伝えたい,でもこの知識は本当に現場で良い効果を生むような確実なものなのだろうか。自分の研究の立ち位置も含めて,自問自答は常にあります。今回,先生とお話しさせていただいて,焦らずに研究者としてまず何が本当に重要であるのかということを確かめる,そのような意識を私もいつも持てているだろうかと,自分を振り返る良い機会になりました。

現在の研究テーマ・関心について

幼児を対象に,共感性の発達に関する研究を行っています。その中でも特に最近興味を持っているのは,他者のポジティブな感情に対する共感性の発達メカニズムについてです。共感性についてはこれまでもたくさんの研究が行われていますが,多くは悲しみや苦痛など他者のネガティブな感情に対する共感性を扱ったものです。乳幼児期における発達の中で,自他意識を獲得することによって共感性が発達するといわれてきましたが,これはポジティブな感情に対する共感性についても当てはまるのか,別のメカニズムがあるのか。現在,他者が感情を表出している場面において子どもの表情や行動を観察し,年齢による変化や状況による違いを検討した上で,発達に影響する要因を特定するために研究を進めているところです。

このように,共感性に関する新しいことに取り組みたいという一方で,もともとは子どもの発達やそれに関連した「神話」について,研究者としてきちんと科学的根拠を示して整理していきたいという思いがありました。それはともすれば,「これは実は効果がない,重要でない」ということを示す必要も出てくると思いますが,とても大事なことですよね。先生と色々お話しする中で自分の原点を思い出したと同時に,ただ実証すれば良いわけではなく,頑健で確実なものを示していかなくては,という思いを強くしました。

Profile─うえだ みずほ
2013年,関西学院大学文学部総合心理科学科卒業。現在は同大学大学院文学研究科総合心理科学専攻博士課程後期課程に在学。専門は発達心理学(幼児期の共感性の発達)。論文は「大学生の向社会的行動および共感性と親子関係との関連」(第二著者として共著,関西学院大学心理科学研究)など。

うえだ みずほ

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