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オランダ研究生活で得たもの

大澤 香織
甲南大学文学部人間科学科 准教授

大澤 香織(おおさわ かおり)

Profile─大澤 香織
2001年,早稲田大学人間科学部卒業。2003年,北海道医療大学大学院看護福祉学研究科臨床福祉・心理学専攻修士課程,2008年,同博士課程修了。博士(臨床心理学)。専門は臨床心理学。著書は『外傷体験想起時の認知・行動と外傷性ストレス反応』(風間書房),『心理学実験を学ぼう!』(共編,金剛出版)など。

2016年9月より半年間の在外 研究の機会を頂き,オランダのアムステルダム大学にあるアカデミック・メディカル・センター(AMC)に客員研究員として滞在しました。滞在先であるオランダは,在外研究で訪れるまでほとんど馴染みのない国でした。私の専門はトラウマ関連症状に対する認知行動療法であり,その研究も実践もアメリカやイギリスが主となります。それでもオランダに行こうと決めたきっかけは,2015年に訪日されていたミランダ・オルフ教授のご講演でした。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症予防に積極的に取り組んでおられることに感銘を受け,その数ヵ月後にはAMCを訪れ,研究ミーティングにも飛び入り参加させて頂きました。突然のお願いにも関わらず,快く研究室訪問をさせてくださったオルフ教授には大変感謝しています。オルフ教授の気さくで優しいお人柄,英語が拙い外国人という偏見なく,私の研究に熱心に耳を傾け,助言してくださる姿勢にも惹かれ,滞在を決めました。

AMCはアムステルダムの中心部から少し離れた郊外にあり,緑あふれる広大な敷地には総合病院施設と複数の研究棟が建ち並んでいます。滞在中は,オルフ教授が率いるトラウマ研究グループに参加させて頂きました。大学院生やポスドクを含めた10数名のグループですが,オキシトシン摂取やスマートフォンアプリ等を活用し,トラウマ関連症状の慢性化やPTSD発症を予防する試みを他機関と連携して行っています。トラウマによるストレスの慢性化や関連疾患の発症の予防に向けて心理教育の効果を検証してきた私にとって,同じ志を持つ研究者たちの輪に加えて頂けたことは本当に幸運でした。

研究グループでは週1回ランチミーティングが行われ,各自が持ち回りで研究発表をし,その内容について議論します。私も,拙い英語で研究発表をさせて頂きました。メンバーからの質問や指摘はどれも的確で,自身の研究を見直す良い機会となりました。研究に対して妥協しない姿勢を保ちつつも,常にオープンで好奇心とユーモアを忘れないメンバーたちから改めて「研究は楽しむもの」と教えられたように思います。また, 常に親切で温かく,笑顔で接してくれる研究グループの存在は,初めての在外研究に不安や戸惑いを抱いていた私にとって大きな支えとなり,励みにもなりました。帰国直前に,メンバーたちがゴッホの絵の塗り絵をプレゼントしてくれました。私がオランダ出身の画家・ゴッホの絵が好きであることを覚えていてくれて,プレゼントしてくれたその気持ちが何より嬉しかったです。瞬く間に半年が経ち,後ろ髪をひかれる思いで帰国 の途につけたのも,オルフ教授と研究グループの存在あってのことです。半年でできることには限界があり,特に臨床研究では言葉の壁(オランダ語)が大きく,十分に研究ができたとは言い難い面もありますが,研究者と実践家の両輪でキャリアを積む道中で素晴らしい仲間たちと出会い,つながりを持てたことに心から感謝しています。この貴重な経験を糧に自身の研究をさらに発展させていき,それがAMCの仲間たちへの恩返しにもつながれば,これ以上の喜びはありません。

ところで,オランダでは入国後に滞在ビザを取得する必要があり,その手続きが結構複雑です。普段は英語で問題ないオランダも,公式のものは全てオランダ語。欲しい情報がなかなか手に入らず,困っていた私を在蘭経験のある方々が親身になって助けてくださいました。どの方も「私もオランダで多くの人に助けてもらったから,今度は私の番」と仰っていたことが印象に残っています。その方々のおかげもあり,無事に在外研究を終えることができました。そのご恩に報いることができるのは,私自身が「今度は私の番」と言える時かもしれません。私の経験が少しでもお役に立つことがあれば幸いです。

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