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こころの測り方

先攻・後攻・効果量

東京大学大学院教育学研究科 准教授

岡田 謙介(おかだ けんすけ)

Profile─岡田 謙介
2009年,東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。2018年より現職。著書は『伝えるための心理統計』(共著,勁草書房)など。

小さい頃は少年野球をしていました。ひそかに野球好きです。現職場の教職員ポータルには,研修や工事や規則改正のお知らせに混じって,大学野球の試合レポートと結果が毎週配信されます。「○○大学戦は……結果,悔しい敗戦となり」「××大学戦は……惜敗となりました」。野球に負けたことを記すのにこんなに多彩な表現がありうるのかと,担当職員さんの筆力に毎週感銘を受けています。先日は,「○○選手が猛打賞の活躍を見せるも,及ばず」でした。あれ,ところで猛打賞って,なんだか,効果量,と響きが似ていませんか。

と,いうことで,新しく始まったコーナー初回のテーマとして,効果量というお題を仰せつかりました。効果量の考え方はシンプルです。それは,2群の間にどれだけの差があるかを,研究で利用した尺度,すなわち測定の単位に依存せずに表せる量を作ろう,ということです。

この目的のために,効果量では集団のばらつきの大きさを基準に用います。すなわち,集団の標準偏差と比べて,2群間の平均値の差がどれほど大きいのかを,比をとることによって表したのが効果量です。なお,実はこの他にもいくつかの種類の効果量があります;より詳しくはぜひ『続・心理統計学の基礎』(南風原, 2014)などの教科書をご参照ください。

心理学研究における効果量の重要性を指摘し続けたヤコブ・コーエン(Jacob Cohen) は,さまざまな領域の事例を調べ,心理学的な研究における小さな・中程度の・大きな効果量の目安をそれぞれ下図(a)〜(c)に示す程度と提唱しました。あくまで目安ではありますが,効果量の解釈にあたっては,このコーエンの基準が現代でもよく参照されています。

コーエンの基準
コーエンの基準

この(a)〜(c)は,検定でいえばいずれも,2群の平均値間に差があるという対立仮説が正しい状況です。検定では,ほんの僅かでも真の平均値間に差があれば,サンプルサイズが十分大きいとほぼ確実に「有意」になります。一方,データから求める標本効果量は,サンプルサイズが大きくなるにつれて,真の効果量に近づきます。

差がない,という帰無仮説を棄却するため,あるかないかの2値的な判断のために検定が使われるのに対し,効果量はいったいどれほどの差があるのか,という定量的な議論に資することができるわけです。効果量は測定の単位に依らないので,自分の結果を先行研究の結果と比較したり,多くの先行研究の結果を統合して考えることに向いています。

たとえば Johnson とWhisman(2013)は反芻(rumination)の性差について57の先行研究を集めたメタ分析を行い,結果として女性で多い方向に「小さな」効果量を見出しました(実際の効果量推定値はd=0.24)。したがって,この結果から「男性よりも女性のほうが反芻が多い」と理解するのは,平均的な意味で妥当です。ですが,この結果は同時に,平均値差と比べて集団のばらつき(標準偏差)が4 〜5倍も大きい,ということ でもあります。実際,図(a)では二つの分布が,かなり広範囲に重なっていることが見てとれますね。

このように,心理学の研究で関心の対象となるのは,しばしば「確かに見出されるけれども効果量は大きくない」現象です。ですので,ここで示したような結果を解釈するにあたっては,もちろん平均的な集団差も大切ですが,集団の構成員である一人ひとりの間には相当大きな個人差があることも忘れないようにしたいところです。

ところで,野球選手の心理については,先取点をとりやすい先攻が有利だという説と,サヨナラ勝ちのある後攻が有利だという説とがあります。実際の試合データに基づいて実証的な分析をしている研究も,検索すると複数見つかります。読者の皆様は,先攻・後攻が試合結果に及ぼす効果量について,その向きと大きさはどんなふうだとお考えになりますか。

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