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実験装置を通して見る心理学の歴史─方法としての古装置の常設展示
藤 健一(ふじ けんいち)
Profile─藤 健一
立命館大学文学部助手,助教授を経て教授,2015年4月,立命館大学名誉教授。専門は実験心理学・実験的行動分析学・心理学実験装置史。著訳書は『パピーニの比較心理学:行動の進化と発達』(分担訳,北大路書房)など。
立命館大学は2016年4 月,それまで京都の衣笠キャンパスにあった文学部心理学専攻を,大阪の茨木市に総合心理学部として発展的に拡充改組しました。総合心理学部の開設に際して,立命館大学の文学部心理学 研究室が所蔵していた心理学の「古典的」実験装置を,常設展示することも決まりました。心理学の古典的装置の資料保存活動のひとつとして,日本心理学会のWebページ「心理学ミュージアム」の中に,「歴史館」 が設置されています。
本誌68号の当欄でも言及されましたが,現在の日本の大学教育機関においては,仮想博物館の運用もなかなか大変です。ましてや実物の装置類の常設展示は一層困難なのが現実といえましょ う。それでは,どのような経緯で,立命館の古い装置は展示される「好運」に巡りあったのでしょうか。
立命館大学文学部心理学研究室所蔵の古装置の概略
立命館大学の心理学は,1948年に,京都御所の東にあった広小路学舎の新制文学部哲学科哲学専攻内のコースで始まり,1950年に哲学科心理学専攻として独立しました。当時の大学本部の資料にある心理学関係の備品原簿によると,合計77点の装置が記載されており,その中には,キモグラフやタンブールなどもありました。
1960年代のそういった装置の扱いは,単に今はもう使っていない古い装置,という位置づけで,当時の実験室の棚に収納されていました。1978年,文学部が金閣寺にほど近い衣笠キャンパスに移転することになり,当時所有していた各種装置(古装置を含む)のほとんどをそのまま持っていきました。
1996年に,文学部心理学専攻の施設拡充に伴い,隣接する建物に移転することとなり,設備の大幅な更新も行われました。これを契機として,古い装置の整理を再度行い,最終的に44点の古装置類が保管・保存されることになりました。次に,それまでただ単に収納してあっただけの古装置を学生や来訪者に供覽するために,個々の名称や諸元,心理学研究室での由来などを記した説明票を作りました。とはいうものの,今から20年以上も前の当時,供覽のための本格的な展示ケースは望めませんでしたので,事務用のガラス引戸のキャビネットで代用しました。
総合心理学部における古装置類の展示
2016年の総合心理学部に移転した古装置の展示にあたっては,心理学教育に貢献すること,オープンキャンパスや大学で開催される諸行事,諸学会などの機会に供覽できること,なによりも見やすい展示であること,という方針を立てて展示することとなりました。写真1 〜4は,その展示の様子です。展示品に説明プレートをつけましたが,説明文を印刷した合成樹脂製としました。さらに,プレートには日本心理学会の「心理学ミュージアム」に掲載されている当該装置のQRコードも印刷表示しました(写真5)。
展示ケースは平型(キャスター付)で,上から間近に見ることができる専用品です。大きな背の高い装置(例えばキモグラフ)は,複数の棚のある専用ケースを使用するなどして,合計64点を展示することができました。この中には,原簿記載の古装置19点が含まれています。展示ケースは,教室や準備室など,建物内での人の動線を考慮して,廊下に配置しました。特に平型の展示ケースはごく近距離からさまざまな角度で展示品を見ることができるので,立体的な古装置の構造を把握するのには好都合でした。
内藤耕次郎先生色聴図
1950年の立命館大学文学部心理学研究室の初代主任教授であった内藤耕次郎先生(1901-1990)は,色聴,共感覚の所有者であり,心理学研究室にも多くの色聴図が残され保管されていますが(写真6),現物の経年劣化が著しいため展示はしておりません。
電子データ化された仮想科学博物館があったとしても,歴史と時間の広がりをもった実物の展示は,これを見る人間に替え難い経験を提供することでしょう。資料や装置の保存は,何十年後の人々のことを考えて今から始めなければならない,気の長い仕事なのです。こうして考えてみると,古装置の保存と展示は,心理学におけるインストルメンテーションのもう一つの様相といえましょう。
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