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【特集】

商品広告と選択

街頭,電車内,webサイト,TV,新聞など,世の中にあふれる広告に,心理学はどのように関わっているでしょうか。もし黄金則があるならば,広告主の思いのままに消費者の行動を導けるはずです。しかし,そのような秘策の存在は耳にしません。商品選択は複雑なプロセスであり,単純にひとつの要因を操作すれば全てが解決するというわけではありません。

この特集では,商品広告と選択行動についての実験研究,実証例を中心に見てゆきたいと思います。心理学の基本原理の一つである,古典的条件づけはCM作りに反映されているのでしょうか。広告は必ずしも受け入れられるとは限りません。広告の苦情にはどんな実態があるでしょうか。企業側が対応策を練る糸口はあるでしょうか。購入を決めるとき,選択肢の初期設定状態は消費者の決定にどう影響しているでしょうか。商品・サービスの広告に対して,消費者が自主的・合理的な選択を歪める広告を規制するために,どんなルールが定められているでしょうか。この特集はこうしたトピックスで構成しました。(河原純一郎)

テレビCMと古典的条件づけ

沼田 恵太郎
大阪成蹊短期大学幼児教育学科 講師

沼田 恵太郎(ぬまた けいたろう)

Profile─沼田 恵太郎
2013年,関西学院大学大学院文学研究科博士課程後期課程修了。博士(心理学)。大阪大学人間科学研究科特任研究員,甲南大学人間科学研究所博士研究員を経て,2018年より現職。専門は学習心理学・生理心理学・生涯発達心理学。著書は『心理学研究法3:学習・動機・情動』(分担執筆,誠信書房),『基礎心理学実験法ハンドブック』(分担執筆,朝倉書店)など。

2018年6月のNHK全国個人視聴率調査によると,日本人は平日1日平均3時間34分ほどテレビを観ている。1時間番組でだいたい10分くらいのCMが入るので,3時間34分では約36分,CM に接していることになる。これは15 秒CMだと143本分に相当する時間である。

そもそも高いお金(わが国では全体で約2兆円ともいわれる大規模な予算)を使い,CMが何のために流されているかといえば,企業や商品の認知率や好感度を高めたり,購買意図や購買意欲を高めるためであろう。多くの企業努力の結果として放映されているテレビCMは,心理学研究者からみても無視できない魅力を放っている,「心理学のオンパレード」である。

本稿では学習心理学(特に古典的条件づけ)の視点から,テレビCMが私たち消費者に与える心理的影響について考えてみたい。

古典的条件づけとは何か?

テレビCMの不思議を考える前に,まずは古典的条件づけの概念についておさらいしておこう。パヴロフのイヌを用いた実験では,メトロノームの音(条件刺激:CS)を聞かせた後にエサ(無条件刺激:US)を与えるという手続きを繰り返すと,やがてイヌはメトロノームの音を聞くだけでよだれを出す(条件反応:CR)ようになる。また,ワトソンの「アルバート坊や」の実験では,白ネズミ(CS)と触れさせた後に背後で大きな音(US)を鳴らして驚かすことを繰り返すと,赤ちゃんが白ウサギを怖がる(CR)ようになる。

どちらも心理学の教科書には必ず記載されている(といってもよい)トピックであるが,これらの知見からは古典的条件づけに関する以下の五つの特徴をうかがい知ることができる。

  1. ①古典的条件づけは,動物だけでなくヒトにも生じる(種間の共通性)
  2. ②古典的条件づけは,大人だけでなく赤ちゃんにも生じる(種内の共通性)
  3. ③古典的条件づけの対象となる「反応」はよだれに限定されない(反応の非特異性)
  4. ④古典的条件づけは,CSの後にUSを呈示することで生じやすい(接近の法則,順序の法則)
  5. ⑤古典的条件づけは,④の手続きを繰り返すことで強くなる(頻度の法則)

①〜③については紙幅の都合上言及しないが,④〜⑤については近年まで多くの研究がなされており,CSとUSの相関関係やある種の因果関係を重視する理論的立場(例えば,Rescorla, 1988)や,古典的条件づけを「CSが 来るとUSが来る」のような予期や認知を形成する手続きとみなす考えにつながっている(例えば,De Houwer, 2009)。ただし,⑤については食中毒による好き嫌いがたった1回の経験でも成立するように常に当てはまるわけではなく,現在では繰り返しの要因は古典的条件づけの成立に必須の条件とみなされていない。

これから考察を進めていくために,以上の点も考慮して(定義をシンプルにして),ここではひとまず古典的条件づけを「CSとUSを対呈示することで,CS に対する反応(CR)が変わること」と,操作的に定義しておこう。

テレビCMは条件づけ法則に合致しているか?

CM フィルム分析の典型例(上段)とテレビ 番組の記録イメージ(中段),テレビ番組とCM の 構成を参考にしたアナログ研究(下段)
CM フィルム分析の典型例(上段)とテレビ番組の記録イメージ(中段),テレビ番組とCM の構成を参考にしたアナログ研究(下段)

テレビCMなどの商品広告では,特定の商品や企業名を,好感情を喚起する映像や音楽とともに呈示することで,認知度や好感度を高める操作がなされることが多い。こうした手法はワトソンが「アルバート坊や」の実験の後に提唱して以来,広告業界では広く用いられており,商品や企業名をCS,好感情を喚起する音楽や映像をUSとした,古典的条件づけの一種とみなすことができる。

広告や消費者行動に関する教科書でも,広告における古典的条件づけの役割が述べられているし(例えば,Chaudhuri,2006/2007),米国コカ・コーラ社は,人々にショックを与える広告を短期間用いるよりも,穏やかな言葉を長期間にわたって情緒に訴える「繰り返しの哲学」に従って広告を展開し(日本コカ・コーラ,1970),条件づけ原理に基づいて広告を作成したことを公言している(Koten, 1984)。

しかし,実際のテレビCMの場合には,企業名や商品(例えば,炭酸飲料)が紹介される前に,好ましい感情を喚起する音楽や映像(流行の音楽や人気のタレントを用いたもの)が呈示されることが多い。一般的な古典的条件づけの実験がCSの後にUSを呈示する手続き(順行条件づけ)を用いているのに対し,テレビCMではUSの後にCSを呈示するという逆の順序になっており,古典的条件づけの成立が困難な時間関係(逆行条件づけ)となっているようにもみえる。

中島・三好(2017)は1962年から1999年までに放映されたコカ・コーラのCMフィルム159本を収録したDVD(The Coca-Cola TVCF Chronicles 1 & 2)から,30秒CMフィルム58本を抽出し(内訳は1960年代7 本,1970年代7本,1980年代21本,1990年代23本),各CMフィルムについてコマ送りで再生・停止を繰り返し,「商品映像」「商品ロゴ」「商品音声」をCS事象,「風景・イベント」「タレント」の出現・消失をUS 事象として,部分インターバル法(1秒に一瞬でも出現すれば事象ありとする)で記録・分析した。その結果,CS事象とUS事象の出現順序はCS → US が8 本,US → CS が28本,同時が6本,いずれにも該当しないもの(CSのみ)が16本で,逆行条件づけ順序のCMフィルムが最も多いことが示された。音楽をUS事象に含めると逆行条件づけ順序のCMフィルムはさらに多くなる。

また,中島(2010)は2007年6月から7月までのゴールデンタイム(視聴率の高い時間帯,19時から22時)に,関西の民法4局(毎日テレビ,ABCテレビ,関西テレビ,読売テレビ)の放送をDVDレコーダで録画し(図1中央),録画した全CMのうち代表的業種として,電通の分類する21業種のうち広告費が第1位であった「化粧品・トイレタリー」の56本(15秒CMは46 本,30秒CMは10本)を選定し,部分インターバル法を用いて1秒ごとに生じた事象を記録した(「化粧品トイレタリー」は「皮膚・毛髪用など化粧品全般,化粧用具,歯磨き,石鹸,洗剤,洗濯用剤,生理用品,紙おむつなど」をさす)。その結果,CS事象とUS事象の出現順序は,CS → US が3 本,US → CS が33本で,同時が20本であることが示された。これらは炭酸飲料でない他業種商品のCMフィルムに関しても,逆行条件づけ順序で作成されたものが多いことを示唆している(図1上側)。

テレビCM に関する三つの仮説

これらの研究はどちらも,一見するとテレビCMが条件づけ法則に合致していないことを示唆している。それでは,この事実は何を示しているのだろうか? 第1に考えられるのは,(a)テレビCMは古典的条件づけではない可能性である。わざわざ効果の乏しい手法(逆行条件づけ)を企業が採用しているとは考えにくく,他のねらいがある(他の心理作用が広告効果の原因である)可能性を考えたほうが妥当と考えられる(中島,2010)。

第2に考えられるのは,(b1)テレビCMは古典的条件づけだが刺激の捉え方が適切ではない可能性である。この場合,企業名や商品名はCSでなく実際にはUSで,好ましい感情を喚起する音楽や映像はUSではなく実際にはCSとなる(小野,2016)。例えば,美しいタレントが映し出されてから化粧品が紹介される場合は,「美しいタレントを見ることによって生じる快感情を化粧品に付与する」のではなく,「美しいタレントを見ると特定の化粧品が連想される」ようにしている,ことになる。

第3に考えられるのは,(b2)テレビCMは古典的条件づけであり,逆行条件づけは実は有効である可能性である。古典的条件づけに関する最近の研究では,「逆行条件づけでもCSとUSの結びつき(連合)は形成されるが,反応(CR)として表出されないだけだ」という議論がなされている(漆原,1999)。①条件づけの試行数が少ない,②生物学的に重要な事象の(条件づけられやすい)組み合わせを用いる,③驚きを引き起こすUSを用いる,などいくつかの条件がそろった場合には,逆行条件づけでもCRがみられるという報告もある(Spetch, Wikie, & Pinel, 1981)。

逆行条件づけは実は有効か?

これらの可能性を検証した研究がある。例えば,沼田・堀・中島(2013)は,CSに緑茶,USにタレント画像や感情価をもつ単語を用いた実験を行い,①古典的条件づけの効果が同時条件づけ手続きでみられること,②CSとUSの組み合わせに気がつかなくてもCSの好感度が変化すること,③持ち帰りたいCSの選択(購買行動に相当)に影響はみられなかったこと,を示唆している(実験後に人気のタレント等(USpos)と対呈示した商品(CSpos)と,人気のないタレント等(USneg)と対呈示した商品(CSneg)の強制選択を求めると,CSposを選んだのは参加者の53%だった)。

この課題は注意研究で用いられるヴィジランス課題を改変したもので,次々と切り替わるPC画面の中から指定したターゲットの画像を探してもらい,挿入されるフィラー(非ターゲット)に僅かな割合で緑茶とタレント画像(または単語)の組み合わせを紛れこませている。ターゲットを探す主課題をテレビ番組の視聴,その間に挿入されるフィラーの観察をテレビCMの視聴と位置づけた,一種のアナログ研究になっている(図1下側)。

また, CSとUSの出現タイミングを500msずらした追加実験を行ったところ,US→CSのような逆行条件づけ順序でフィラー刺激が呈示される場合で好感度やCS選択への影響が大きく(実験後にCSposを選んだのは参加者の 72%だった), CS→USのような順行条件づけ順序で呈示される場合では同時条件づけ手続きを用いた沼田ら(2013)よりもやや効果は大きかった(実験後にCSposを選んだのは参加者の63%だった)。これらの事実は逆行条件づけ手続きを用いた場合にCS(商品)への影響が大きくなることを示しており,テレビCMで多く採用されている形態がその他よりも有効に作用していることを示唆している。

解釈は難しいところだが,前述の古典的条件づけの定義を用いるならば,(a)テレビCMは古典的条件づけではないという可能性よりも,(b1)テレビCMは古典的条件づけだが刺激の捉え方が適切ではない,あるいは(b2)テレビCMは古典的条件づけであり,逆行条件づけは実は有効である,という可能性を考えてよいように思われる。

おわりに

テレビCMの心理作用について,古典的条件づけの視点から考察した。最近のテレビCMの多くが逆行条件づけ順序で作られており,その手続きには好感度を高めたり購買意欲を高める効果があるようである。

ただ,ここまで読み進めて違和感を覚えたり,テレビCMは古典的条件づけではない可能性を感じられた方もいるかもしれない。実際,Porpitakpan(2012)は消費者行動や広告効果に関する古典的条件づけ研究に方法論的な問題があることを指摘している。また,テレビCMにおいて,美しい髪の映像を観た後でシャンプーが呈示されるような場合,消費者がそれを買ったり使う行動が生じることが想定されるが,これは「買い物をする」「シャンプーを使う」といったオペラント行動の生起頻度がCMによって一時的に高められたという意味で,行動分析学の確立操作の概念でも理解できるように思われる(Michael, 1993)。

学習心理学の中でも観察学習,オペラント条件づけ,慣れや鋭敏化,単純接触効果など,古典的条件づけ以外の心理作用を考える余地も大いに残されている。何となしに観ていたテレビCMが面白くなってくる。

なお,本稿で紹介したフィルム分析についてはテレビCMのすべてのカテゴリーを検討したわけではない。また,ヴィジランス課題を用いた実験室実験はアナログ研究であるため,実際の広告接触場面や購買行動に直接適用できるものであるのかについて,疑問は残されている。今後の展望として,フィルム分析や実験室実験だけでなく,社会・市場調査を活用することで,日常場面における広告効果を検討していくことも求められる。

パヴロフやワトソンから続く古典的条件づけに関する知見の蓄積は,確かにいまも私たちの心理学研究の一端を支えている。古くて新しい古典的条件づけという実験事態の中で,今後に達成されるであろう発展を願ってやまない。

文献

  • Chaudhuri, A.(2006) Emotion and reason in consumer behavior. Butterworth-Heinemann.[恩倉直人・平木いくみ・井上淳子・石田大典(訳)(2007)『感情マーケティング:感情と理性の消費者行動』千倉書房]
  • De Houwer, J.(2009) The propositional approach to associative learning as an alternative for association formation models. Learning & Behavior, 37, 1-20.
  • Koten, J.(1984, January 19)Coca-Cola turns to Pavlov … Wall Street Journal, p. 1.
  • Michael, J. (1993) Establishing operations. The Behavior Analyst, 16, 191-206.
  • 中島定彦(2010)テレビCM は逆行条件づけか? 『人文論究(関西学院大学文学部)』60, 39-53.
  • 中島定彦・三好由佳子(2017)コカ・コーラのテレビ広告は条件づけ法則に合致しているか?:1960〜1990年代放映のCMフィルム58本の分析.日本心理学会第81回大会発表論文集
  • 日本コカ・コーラ(1970)コカ・コーラ産業.日本コカ・コーラ.
  • 沼田恵太郎・堀麻佑子・中島定彦(2013)古典的条件づけによる潜在的態度の形成:タレント画像を用いた商品広告についての実験的検討.日本心理学会第77回大会発表論文集
  • 小野浩一(2016)『行動の基礎:豊かな人間理解のために』培風館
  • Pornpitakpan, C.(2012) A critical review of classical conditioning effects on consumer behavior. Australasian Marketing Journal, 20, 282-296.
  • Rescorla, R. A.(1988) Pavlovian conditioning: It's not what you think it is. American Psychologist, 43, 151-160.
  • Spetch, M. L., Wilkie, D. M., & Pinel, J. P. J.(1981)Backward conditioning: A reevaluation of the empirical evidence. Psychological Bulletin, 89, 163-175.
  • 漆原宏次(1999)古典的逆行条件づけに関する最近の研究動向.『心理学評論』42,272-288.

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