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【特集】

デフォルトを用いた選択を考える

秋山 学
神戸学院大学心理学部 教授

秋山 学(あきやま まなぶ)

Profile─秋山 学
1993年,同志社大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程中退。修士(心理学)。大阪教育大学教養学科助手,神戸学院大学人文学部准教授,教授を経て,現職。専門は消費者心理学。著書は,『新・消費者理解のための心理学』(分担執筆,福村書店),『消費者心理学』(分担執筆,勁草書房)など。

消費者が購入した商品あるいは商品購入時に取り交わす契約に何らかの初期設定がなされていることは珍しくありません。スマートフォンやコンピュータ,各種通信サービスといった情報機器・サービスだけでなく,エアコンなどの家電製品や自動車など購入した機器や商品の各種設定に関して,初期設定として何らかの状態や値が設定されていることは一般的です。機器やサービスの初期設定だけでなく,商品購入時の売買契約やそれに付随する事項に関して,消費者が一つずつ細かく決定を行わずに済ませられるよう,商品やサービスを提供する側が各種事項に関して初期の状態を設定しておくことも当たり前になりました。

このように初期状態が設定されていると,消費者は種々の設定や事項に関して,一つずつ能動的に選択を行わなくても,商品やサービスの購入や利用することが可能になります。すなわち,「選択しない」という選択自体が消費者の意思の表明であるとみなされる,デフォルト(default)と呼ばれる決定様式が私たちの日常生活に入り込んでいます。デフォルトを用いて消費者の種々の選択をデザインすることには,広告やマーケティングにおける有効な戦略を探る立場,そして消費者保護を担う行政や組織のそれぞれから注目を集めています。

このことは,ナッジ(nudge)と呼ばれる消費者の意思決定を緩やかに誘導する手法の一つとしてデフォルトが重視されている(Sunstein, 2015)ことからも伺えます。英国においても,消費者の家計管理などと関わる金融教育などの政策の実行・運営に行動科学の知見を活用することを目論んだThe Behavioural Insights Team(https://www.behaviouralinsights.co.uk)が,認知心理学や社会心理学で頻繁に言及されるシステム1の認知様式に沿って,人びとの行動変容を促そうとする枠組みとしてMINDSPACE(Dolan et al., 2012)を提案しています(図1)。このMINDSPACEの構成要素の一つがデフォルトです。本稿ではデフォルトを用いた選択に関して心理学の立場からその機能やその使い方を考えていきましょう。

図1 MINDSPACEの構成要素(Dolan et al., 2012より作成)
図1 MINDSPACEの構成要素(Dolan et al., 2012より作成)

デフォルトによる選択の現状

最初に,デフォルト利用の現状を整理してみましょう。まず,消費者の金銭管理をサポートしたり,環境配慮行動を促すといった消費者に長期的な利益をもたらす可能性があるデフォルトの利用例です。たとえば,大学の情報処理センターに設置しているプリンターの初期設定を片面印刷から両面印刷に切り替えることで印刷用紙の消費量が約15%削減されることが報告されています(Egebark & Ekström, 2016)。ナッジを提唱したセイラーらの貯蓄率向上に向けた取り組みの中でもデフォルトは重要な役割を果たしています(Thaler, 2015)。

デフォルト設定に消費者が固執しやすいという傾向自体は,消費者の利益増進に対して良い面ばかりではありません。たとえば,米国の自動車保険への契約におけるデフォルト設定に着目した研究があります(Johnson et al., 1993)。自動車保険のデフォルトを提訴にも対応するが保険加入料は高額な保険とし,デフォルトの保険よりも低額な保険に切り替えが可能な州と,逆に,提訴への対応はできないものの保険加入料を低額に抑えた保険が初期設定である州の双方ともデフォルトに固執し,初期設定の保険を変更せず,そのまま加入する傾向が示されています。

この場合,消費者がどのような契約を望むのかによって,どちらの州のデフォルトがより消費者の利益に適うのかが決まります。しかし,デフォルトをそのままにしておくことで,迷惑な広告メールが次々に配信されてくる。あるいは,webサイトをどのように閲覧したかというデータが収集,解析され,消費者それぞれの好みに応じた商品広告をスマートフォンに表示する行動ターゲティング広告に使われるとしたら,いかがでしょうか。あるいは,購入金額とその支払時期との関係が分かりにくく,支払能力を超えた借金を抱えやすいリボ払い(秋山, 2018)がデフォルトとして設定されているクレジットカードは消費者の利益に適うとは言いにくいと思います。

企業などによるメール配信に対する消費者の同意,そして,消費者の個人情報の収集に関しては,既に法律などによる規制がなされたり,その準備が進んでいます。こうした規制自体,デフォルトの設定に一定の枠をかけるようになっており,デフォルトの濫用に歯止めをかけつつ,デフォルトの効果を活用することを目論んでいるといえます。

デフォルト設定の実際

デフォルトは,所与の行動を行うか否かという二者択一の選択を求める形式で設定されることがよくあります。このデフォルトの設定には,オプトイン(opt-in)と呼ばれる設定(図2)と,その反対のオプトアウト(opt-out)と呼ばれる設定があります(図3)。

オプトインは,個人情報の収集を例にとると,スマートフォンのアプリをインストールした際に,「利用者の位置情報をアプリの制作会社が使用することを許可する場合は,印(チェック:✓)を入れてください」といったように,意図的に所与の行動を行う,あるいは,新しい状態に移行する選択を指します。オプトアウトは,オプトインとは反対に,意図的に所与の行動をとらない,あるいは,新しい状態への移行を拒否する選択を指します。オプトアウトの場合,初期状態として既に印(✓)が入れてあって,それを外すといった選択様式もあります。

いずれにせよ,この例であれば,オプトイン,オプトアウトのいずれであっても自分の位置情報データの利用を認めるか,認めないかに関する意思決定を行うことに変わりはありません。客観的に考えると,オプトイン,オプトアウトのいずれの問い方であっても,選択問題としては同一のものとなります。

図2 オプトイン(opt-in) の例
図2 オプトイン(opt-in) の例
図3 オプトアウト(opt-out) の例
図3 オプトアウト(opt-out) の例

デフォルトの設定には二者択一となる選択だけでなく,たとえば,エアコンの温度設定のように,最初に電源を入れた際にデフォルトとして所与の気温が設定される場合もあります。他にも,スマートフォンを家電量販店で購入する場合に,スマートフォンの修理に対応した保険への加入を購入者に勧めることがあります。こうした場合,複数の保険会社から,家電量販店がいずれかを選択し,それをデフォルトとして消費者に示すこともあります。このように複数の選択肢から一つを予めデフォルトとして選択し,その利用の可否を消費者に問うのもデフォルトの設定方式となります。

デフォルト効果を生み出す心理学的メカニズム

デフォルトを変更しない背後にある心理学的要因として,a.努力(effort),b.デフォルトを提供する側からの暗黙の推奨(implied endorsement),c.損失回避(loss aversion)あるいは参照依存性(reference dependence)の3点が指摘されています(Johnson & Goldstein, 2013)。

a.努力

努力に関しては,自動車購入を例にして考えてみましょう。自動車の購入決定時には,車体の色やタイヤの種類といった各種オプションに何を設定するのか,自動車保険はどのような条件を設定しておくと良いかを決めるなど,様々なことを決めていく必要があります。

こうした場合,特に,自動車購入に不慣れな人であれば,それぞれのオプションを組み合わせることでどのような車に仕上がるのか,あるいは,自動車事故のトラブルの際にどのような支援が保険会社からあれば助かるのかを考えることが難しく,自分の好みにあった選択を行うための努力が必要となります。こうした場合,オプションにデフォルトが設定してあれば,そのオプション設定を変更しないでおくことにより,消費者の労力を大幅に割くことなく,商品購入や保険商品の契約を行うことができます。

b.暗黙の推奨

商品やサービスの購入におけるデフォルト設定は,デフォルトを提供する側からの「お勧め」とみられていることが示唆されています(Brown & Krishna, 2004)。類似した指摘は,教育政策に関する研究からも示唆されています(McKenzie et al., 2006)。教育プログラムへの参加に関して,欠席する場合に印(✓)を入れるといったオプトアウトで出欠を求めると,このカリキュラムはクラス全体に適している,あるいは意味のあるプログラムであると,出欠を尋ねられた人たちは推測しがちです。

ところが,出欠を尋ねるのに,オプトイン,すなわち,出席する場合に印(✓)を入れるという形式で行うと,クラスの特定の人たち,あるいは少数派に属する人たち向けのプログラムであると推測されることが示唆されています。

ただし,こうした推測,特に,商品購入などの場面においては,デフォルトを呈示する事業者への消費者の信頼が前提となります。事業者への信頼はデフォルトの提供者側の期待に沿って,デフォルトが機能するかどうかの条件の一つともいえます。

c.損失回避・参照依存性

デフォルトが「お勧め」としての機能だけでなく一種の参照点として機能し,デフォルトが簡便な授かりもの(instant endowment)として消費者から認識されうることを示唆する研究もあります(Dinner et al., 2011)。この研究では,自宅の改修工事において照明器具を考える中で,購入金額は安いものの電気消費量が多く電気代がかさむ白熱電球と,購入金額は高くなるものの電気消費量が少なく電気代が安くなる小型蛍光灯のいずれかをデフォルトとして設定した上で,双方の商品から一つ選択することを求めています。結果として,デフォルト効果が確認でき,白熱灯がデフォルトとして設定されていると白熱灯の選択率が高くなりました。

さらに,決定過程で検討した思考内容をリストアップしてもらったところ,デフォルトに関して最初に言及するだけでなく,デフォルトの代替商品よりもデフォルトとなる商品をより肯定的に評価していました。すなわち,デフォルトは簡便な授かりものとなり,それを選択しないことによる損失を回避する傾向がデフォルトを選択させると考えられます。この研究からヒントを得て,私どもの研究室でも,アイトラッカーを用い,デフォルトを設定した商品選択過程を検討しています(趙・秋山, 2017)。結果として,商品情報を提示した直後からしばらくの間はデフォルトへの注視が長くなるとともに,デフォルトを選択する直前の数秒間であっても,最終的に選択したデフォルトをその代替案となる商品よりも注視するという現象が見いだされませんでした。

商品選択などの研究においては,最終的に選ぶ対象を選択する前に注視する現象が確認されていますが,こうした知見と異にする注視パターンが見いだされました。ちなみに,今回の研究でも,デフォルトの代替案である商品を選ぶ場合には,最終的な選択を行う前に代替案をデフォルトより長く注視しています。すなわち,デフォルトとして設定された商品がある場合,さしあたり授かってしまったものであるから,その決定を確信する過程が不要になったのかもしれません。

デフォルトの限界

デフォルトが機能する条件や,デフォルト効果の限界も指摘されています。デフォルト効果を生み出す要因として指摘した暗黙の推奨は,デフォルトを呈示する事業者に対して信頼している場合にあてはまるものです。デフォルトを用いて事業者が消費者を操作し,多くの利益を得ようとしているという情報を消費者が得てしまうとデフォルト設定を懐疑的に見るようになり,デフォルトを敬遠することを示唆する研究もあります(Brown & Krishna, 2004)。

また,デフォルトが設定されたとしても,その設定が消費者にとって受容可能なものでなければ,それを利用もされにくいでしょう。商品の購入場面とは異なりますが,エアコンの温度設定のデフォルト値を上下した場合,適切な温度帯から外れた温度をデフォルトとして設定しても,すぐにその温度は変更されてしまいます(Brown et al., 2013)。すなわち,デフォルトによって選択行動に影響を与えることはできますが,適切なデフォルトを設定しなければ,消費者から非難を浴びたり,消費者から無視されてしまうといえます。

文献

  • 秋山学(2018)「本当にお買い得?:価格と支払の心理」山田一成・池内裕美(編)『消費者心理学』勁草書房 pp.19-35.
  • Brown, C. L. & Krishna, A.(2004) The skeptical shopper: A metacognitive account for the effects of default options on choice.  Journal of Consumer Research, 31 , 529-539.
  • Brown, Z., Johnstone, N., Haˆsˆciˆc, I., Vong, L., & Barascud, F.(2013) Testing the effect of defaults on the thermostat settings of OECD employees.  Energy Economics, 39 , 128-134.
  • Dinner, I., Johnson, E. J., Goldstein, D. G., & Liu, K.(2011) Partitioning default effects: Why people choose not to choose.  Journal of Experimental Psychology: Applied, 17 , 332-341.
  • Dolan, P., Hallsworth, M., Halpern, D., King, D., Metcalfe, R., & Vlaev, I.(2012) Influencing behaviour: The mindspace way.  Journal of Economic Psychology, 33 , 264-277.
  • Egebark, J. & Ekström, M.(2016) Can indifference make the world greener?  Journal of Environmental Economics and Management, 76 , 1-13.
  • Johnson, E. & Goldstein, D.(2013) Decisions by default. In E.Shafir(Ed.)  The Behavioral Foundations of Public Policy . Princeton University Press. pp.417-427.
  • Johnson, E. J., Hershey, J., Meszaros, J., & Kunreuther, H.(1993) Framing, probability distortions, and insurance decisions.  Journal of Risk and Uncertainty, 7 , 35-51.
  • McKenzie, C. R. M., Liersch, M. J., & Finkelstein, S. R.(2016) Recommendations implicit in policy defaults.  Psychological Science, 17 , 414-420.
  • Sunstein, C.(2015) Choosing not to choose: Understanding the value of choice . Oxford University Press.[伊達尚美(訳)(2017)『選択しないという選択』勁草書房]
  • Thaler, R. H.(2015) Misbehaving: The making of behavioral economics . W.W.Norton.[遠藤真美(訳)(2016)『行動経済学の逆襲』早川書房]
  • 趙毅飛・秋山学(2017)デフォルトを用いた選択過程の検討:視線追跡装置を用いて.日本基礎心理学会第36回大会(立命館大学)

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