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一年間のハワイ&テキサス生活
小塩 真司(おしお あつし)
Profile─小塩 真司
2000年,名古屋大学教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育心理学)。専門はパーソナリティ心理学,発達心理学。著書は『パーソナリティ心理学』(サイエンス社),『性格を科学する心理学のはなし』(新曜社),『大学生ミライの因果関係の探究』(ちとせプレス),『人間関係の生涯発達心理学』(共著,丸善出版)など。
「サバティカルでしたよね。どこに滞在されていたのですか?」
「4ヵ月はホノルルで……」
「それはいいですね!」
「残りの8ヵ月はテキサス州オースティンです」
「それで,ホノルルの生活はいかがでしたか?」
このように,あまり後半は聞いてもらえない印象がありますが,どちらの滞在も楽しく,多くを学んだ1年間でした。
確かにホノルルで過ごした4ヵ月間は楽しい日々でした。毎週のように家族でオアフ島各所のビーチへ行き,最初は海に入ろうとしなかった末の息子も最後はボディボードをかついで波打ち際に走って行くようになりました。照りつける太陽も,にわか雨の後に空に浮かぶ虹も,近くの公園でマンゴー取りをしたこと(美味しい!)もすべて,家族にとってかけがえのない記憶となっています。
一方でオースティンはテキサス州の中でも「保守の海の中のリベラルな孤島」とも呼ばれる地域で,人々は明るく友好的,IT企業もたくさんあり,多様性を受け入れる都市です。三人の子どもたちは他に日本人のいない公立の小学校とミドルスクールに在学し,大きく成長していきました。また広大なテキサス州の大地は日本全土の1.8倍の面積があり,オースティンはそのほぼ中央に位置しますので,車で走ってもなかなか隣の州に出ることができないという体験もできました。
さて,2017年度に特別研究期間を得て,4月から7月までの4ヵ月間はハワイ大学コミュニケーション学部のKim教授,8月から翌3月まではテキサス大学オースティン校のGosling教授に訪問研究員として受け入れてもらいました。いずれもこれまでに共同研究をした経験があり,受け入れに問題はありませんでした。またハワイ大学は書面でのやり取りが多く,テキサス大学はほぼすべての手続きがオンラインであっという間に完了するという,大学間の違いも経験できました。
いずれの大学での滞在中も,定期的に研究の打ち合わせをしながら比較的自由に活動させてもらう日々でした。特にテキサス大学では同時期に韓国,中国,イタリア,ドイツからも研究者が滞在しており,そのメンバーで食事をしたり新たな研究プロジェクトの話をしたりと,同じ境遇で滞在している者同士の交流も楽しむことができました。このつながりがこれからどのような研究へと発展していくかも楽しみです。
二つの都市に滞在することで,日本と米国,さらに米国内部の大学や小中学校の違い,生活や人々の様子の違いについてもよりよく実感できたように思います。もちろん,1年間で見聞きできた範囲は非常に狭いものであり,まだまだ知らないことも多くあるという思いも強くしました。
「子どもたちは英語を学ぶのが早い」という話は何度も耳にしていましたが,実際に自分の子どもたちがそうなるというのも驚きの経験です。特にオースティンでは良い先生や友達にも恵まれ,日に日に上達していきました。そして帰りの飛行機では子どもたちが吹替も字幕もなしで映画を楽しむ一方,親は字幕ありで映画を観るという状況でした。帰国後の羽田空港で,日本人にぶつかりそうになって思わず「Sorry!」と言いかけ「あっ!」と口をふさいだ娘の様子が今でも思い浮かびます。ただ帰国後,彼らの英語をどのように維持するか,という新たな悩みが生じてきました。
1年間の滞在中,大学院生の指導はe-mailとSkypeでのやり取りでしたが,ほぼ問題なく研究を進めてくれたようです。むしろ指導教員がいないほうが院生同士の結束が強まるかもしれません……そのような良い雰囲気を作ってくれた院生にも感謝しています。他にも,ところどころで関係する方々にご不便をおかけしたことかと思います。このような機会をいただけたことに感謝しています。
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