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Over Seas

ヴァージニアでの研究生活

石井 敬子
名古屋大学大学院情報学研究科 准教授

石井 敬子(いしい けいこ)

Profile─石井 敬子
2003年,京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。専門は社会心理学,文化心理学。著書は『名誉と暴力:アメリカ南部の文化と心理』(共編訳,北大路書房),『文化と実践:心の本質的社会性を問う』(分担執筆,新曜社),『つながれない社会』(共著,ナカニシヤ出版)など。

科研・国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)をいただき,2017年8月からヴァージニア大学心理学部に滞在しました。私は,近年,文化を特徴づける意味体系や価値がどのように維持,継承されているのかについてのプロセスに関心をもち,研究を進めています。滞在中は,社会・文化心理学の第一線で活躍しており,幸福についての研究で著名な大石繁宏さん(同大学教授)とともに,文化で優勢な価値やものの見方が人々の間でどの程度伝達されやすいのかについて,日米で比較実験を行いました。

ちょうどヴァージニア大学への出発前に,大学のあるシャーロッツビルでは,リー将軍の像の撤去を巡り,それに反対する白人至上主義者たちが街に押し寄せ,メインストリートモールで衝突が起き死者が出る騒ぎがありました。その現場はしばらくの間封鎖され,また騒ぎになったリー将軍の像のあるリー公園はその名を解放公園と変え,その像にも黒いビニールがかけられました。しかしこの街そのものはリベラル色が強く,そうした騒ぎの後遺症から立ち直るべく,モールには "Cvill stands for love"という言葉が掲げられていたのが印象的でした。この街では,道を歩いていると知らない人でも声をかけてくれる等,人々の感じがとても良く,国内外で嫌な経験をしないままここまで来ているのはこれまでの人生で初めてです。

こちらでは大石さんのラボミーティングに加え,感情研究で著名なGerald Cloreのラボミーティングに参加し,それに加え毎週のSocial Lunchといった学内の心理学部や公共政策学部の研究者,また学外の研究者を呼んだランチを食べながらのセミナー等に出ました。いずれのラボミーティングでも発表をし,フィードバックをもらいましたが,それをきっかけに自分でも思ってもみなかった方向での実験のアイディアで新たな研究を始めることができたのは僥倖でした。そして現在行っている文化的価値の伝達に関する研究成果をSocial Lunchで発表する機会に恵まれ,Ed DienerやTim Wilsomといったファカルティーメンバーからもコメントをもらうことができ,非常に有難かったです。

また制約のない環境だったため,自分で決めたペースの仕事(例えば,英語論文を書く練習として,ともかく月1本はまとめてみて,投稿にこぎつける等)をこなしていくこともできました。自分は社交的ではありませんが,それでもこちらの人々がとても優しく,ランチ等に一緒に行って,いろいろ話をすることができたのは有益でした。研究発表等の積み重ねから,少しでも自分の研究のプレゼンスを高め,今後の研究のネットワークへと発展させることができればと思っています。

かつて学振PDだった頃,ミシガン大学に約2年滞在したことがあり,ビザをとってアメリカに滞在するのは今回が2回目です。まさに10年ひと昔で,物価が高くなったと思う反面(むしろ日本がデフレで相対的に物価が安いのでしょう),さまざまなことがインターネット経由で手続きできるようになり,個人的には以前よりもかなり暮らしやすくなったという印象です。研究環境に関しては,ミシガンとヴァージニアそれぞれの特色もありますが(ミシガンのほうがプログラムとして大きいせいもあるかもしれませんが,やや競争的な感じで,ヴァージニアのほうがのんびりした感じである等),院生がいろいろなゼミに顔を出して複数のファカルティーメンバーと研究を行っている点や,学内でさまざまなセミナーが行われている点に,共通して変わらない良さを感じました。かねてから日本の大学は人的資源が乏しく,むしろこの10年で悪化した感もあり,海外の良さを取り入れていくことはなかなか難しいですが,それでも特に院生を取り巻く研究環境を良くしていく方向で,今後少しでもこの経験を還元することができればと思います。

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